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野村大成・大阪大学名誉教授に放射能の危険性をインタビューⅠ

孫以降の世代にもガンを起こす

野村大成・大阪大学名誉教授に放射能の危険性をインタビューⅡ「放射線の次世代への影響が心配」

放射線がマウスにどのようにガンを発生させるのか、 国際的な指標になる実験を行い、
世界の専門家から抜群に高く評価されている 野村大成・大阪大学名誉教授に、
フクシマと放射能による次世代への 影響についてお聞きしました。
「注意しても、しすぎることはない」と話された 野村先生の偉大な業績と考えを、
ぜひお読みください。

野村大成(のむら たいせい) 大阪大学名誉教授。
1942年、名古屋市生まれ。専門は放射線基礎医学。
1986〜2005年大阪大医学部教授。現在は医薬基盤研究所・野村プロジェクト・プロジェクトリーダー。


聞き手:月刊『食品と暮らしの安全』小若順一編集長



●安全神話で責任感がなくなっていた

野村  原子力の安全神話?(特に省庁再編後)のもとに、安全審査の独立機能をなくした国は、 東大を除き原子力工学を廃止し、また、原子力の人体影響を研究する放射線基礎医学講座も研究費のためなのか、 大阪大学医学部を除いて自然消滅しました。 工、医ともに安全性の教育、研究の場を日本はなくしたわけです。
 すなわち、目先の利益優先に終始し、安全性の基本理念がなくなっていたところに、今回の事故が起きたのです。

 放射線障害の歴史と事実をまったく無視した政府のアナウンスメントに、記者は質問もコメントもできない。
今回の事故が起こるはるか前から、このような状態になっていたので、原子炉の保存が優先し、人命どころか原子炉自体の安全性まで無視し、それが大きな原発事故に結びついてしまいました。
 共同通信社にベテランが残っていたので、あまりの状況を見かねて、人は早く避難させなければいけない、放射能汚染は風向き、降雨により離れたところにスポットで起きる、 汚染物の移動厳禁、とこれまでの経験から最低限の常識を書いたメモを送ったら、そのまま配信されたのが昨年3月22日です。

小若 私も遺伝毒性から手を引いてから20年ほどたっていて、毎年、著名な遺伝学者が亡くなり、 遺伝がわかる記者も退職していたので、誰を頼ろうかと思っていたのですが、その記事で「世界のノムラ」先生がご健在だとわかりました。

野村 取材もいっぱい来ました。「君は記者か」と聞くと「ハイ」と。 「記者なら、あの発表はどういうことを言っているかわかるはずや。質問したのか」と言うと、 「もう放射線をやっている人は誰もいません」。
大手のテレビ、新聞は「安全と言ってほしい」と言うので、取材は拒否しました。

週刊誌はまだマシでした。過剰に反応しすぎたとも思えない。
特に女性記者は、本能的に危機を察しているようでしたので、できるだけ丁寧にお答えしました。
こういうことは過剰に反応してトントンです。
2000年の別冊宝島『これから起こる原発事故』に専門家の緊急警告が記載されています。
当時は書きすぎではないかとも思ったのですが、地震、津波、規模、発電所名等々、何もかも今回の事故が当然起こると予想したものでした。

●除染で被曝し、放射能が拡散する

小若 除染にも問題がありますね。

野村  除染することの怖さをよくわかっていないのです。
除染のためには誰かが汚染地に入らなければなりません。その作業者はどんな格好をしていますか?
除染すれば、その作業者が被曝することは明らかで、膨大な数の被曝者を出すことになります。
汚染した今となっては、いかに放射能を拡散させないかが重要です。

小若 そのとおりのことを、私も体験しています。
昨年6月、福島へ取材に行ったのですが、二本松から伊達市まで30qを走りながら、山がすべて汚染されたので、 除染しても山から汚染が下りてくると感じていました。
伊達市で小学校に行くと、今度、原子力規制委員会の委員長の候補になった田中俊一氏が、除染の実践と研究を行っていたのですが、 田中氏は私の防塵マスクを指さして「そんなの意味ないよ」と言ったのです。もちろん、作業している人は誰もマスクを付けていませんでした。
校庭のアスファルトの汚染はグラインダーで削らないと線量が減らないと説明し、校庭の土手とプールを掃除していたのですが、この学校の裏にも山があり、 その後、除染しても元に戻った例がたくさん出てきています。

●日本人の良心を完全に否定した政府

野村 1993年に、ソビエト連邦が原子力潜水艦の放射性廃棄物を日本海に投棄したとき、 日本政府は国際問題だと言って、猛烈に非難しました。そのときの調査では、日本海の海底土から最大7ベクレル/sの放射性セシウムが検出されています。
 福島では4月1〜6日の6日間で、セシウム940兆ベクレルを海洋に漏出したと東電は話しています。 6日間でセラフィールド核燃料再処理工場の1年間の海洋漏出量の放射性物質を放出したことになり、ヨウ素を含めると4700兆ベクレルになります。 福島の海底土では、30q圏外でも8000ベクレル/sを超える放射性セシウムが何度も検出されているのに、 自分のところが放出したら「希釈されて安全になるから、どんどん食べてください」と、政府、メディアは宣伝しました。
 国内のみならず、外国に対しても「日本の農産物は安全です」とやりましたから、これで日本人の良心は完膚なきまで、国際的に否定されたのです。
そのことを日本人は思い知らなければいけません。かつて、放射線廃棄物をコンクリート封入、
ガラス化などすれば安全だから、フィリピン沖の公海に廃棄したいと日本政府が申し出て、それなら東京湾に捨てたらどうかと言われたことを思い出します。
 腐っている。日本人の魂が疑われているのです。

●発ガン物質と放射能は、孫にも発ガン

小若 野村先生は30年以上前に、放射線や化学物質が、世代を超えてマウスを発ガンさせることを実証し、 国際的に大反響を呼んだ「大阪レポート」を発表されています。
この実験は、どのように行われたのですか。

発がん物質孫にも影響 野村 まず、ウレタン(カルバミン酸エチル)で確認しました。
ウレタンをオスのマウスに注射し、しばらくしてメスと交配させると、ほとんど元気で生まれますが、 その子たち4千匹余にガンが出るかどうかを見ていくと、有意差が出てきましたので、
1975年1月に「キャンサー・リサーチ(米国癌学会誌)」に発表しました。

小若 1979年に新聞で「発ガン物質・孫にも影響」と出たときは、すごいことが実証されたものだと思いました。
ただ、ウレタンになじみがなかったので、人に注射されているとは知りませんでした。

野村 僕も鎮静剤の一つだったとしか知りませんでした。それが、非経口医薬品の溶剤として大量に使用されていたのです。

小若 記事の中にはウレタンと放射線の実験結果が出ていましたが。

野村 遺伝的な影響を証明するのに一番大切なのは、 確実にDNAをやっつけるものがいいので、 ウレタンに代わって放射線を使いました。
放射線は瞬間的に作用するので、オスに一発当てて、しばらくしてから正常なメスと交配させ、 受精率や流産、奇形を見て、それから、いつになったらガンが発生し、 その頻度がどのくらいかと。

●量に応じてガンが出る

小若 ずいぶん詳しく調べられたのですね。

野村 遺伝学者は遺伝子の変化を調べますから、 生まれた直後の形態、機能の違いを調べるところまででした。
突然変異については、膨大なデータがありましたが、人類によく見られる疾病(ガン、形態異常、生活習慣病等)はどうなのかは誰も調べていませんでした。
私は外科医でしたから、すべての疾病に対し、先の世代がどうなるか臨床のかたわら、我慢してやっていました。

小若 だから、国際的な発見をされたのですね。
論文の表を見ると、先生は1970年代から、被曝量の多さと、ガン発生数の関係がわかる実験をされていたことになりますが。

野村 70年代までは、ガンが出るか出ないかしか実験しなかったのですが、 発ガン物質を1000分の1の低量まで投与量を変えて追いかけると、きれいな線になりました。
 私の1975年10月のキャンサー・リサーチの論文は、世界で初めて「化学物質で用量効果関係」を描いたもののようです。
実際、この曲線から、注射薬に含まれているウレタンの量を計算できました。
後日、化学的に定量したのと完全に一致していました。

●国際的な大反響

小若 そんな前に、今でも通用する精密な発ガン実験を行われていたとは、すごいですね。

野村 1978年にイタリアの古都ペルージアで開かれた国際学会で発表すると、 有名な遺伝学者がすぐに奇形で追試確認をしてくださったので、ガンも含めて「ネイチャー」にまとめの論文を出しました。
ヨーロッパでは、日本と違って遺伝に関して非常にセンシティブです。 何か悪いことをすると三代たたるという考え方があり、だから悪いことをしない方がいいというのです。
最初の論文では、親に放射線を当てて、子どもから孫まで影響したのを出したので、非常に反応が強かったですね。

小若 すごい評価でしたね。

野村 ネイチャーの論文をイギリスの新聞「ガーディアン」もトップ記事で紹介してくれましたし、 多くのテレビ座談会がなされたようです。アメリカの「サイエンスニュース」でも紹介されました。

小若 当時、日本人が「ネイチャー」に出るのはまれでしたね。

●人は影響が出やすい

野村 論文審査では何も指摘されず、関連論文が4本載りました。
当時、ネイチャーは1誌しかなく、すべての自然科学分野を含めて週20論文くらいしか載りませんでしたので、多かったのかもしれません。 その中で大事なことがあります。放射線を一度浴びただけで、子や孫にガンが発生しますが、突然変異に比べたら100倍以上高く増加したのですが、 それでも、せいぜい10〜20匹に1個ガンが増える程度でした。ところが、生まれた子どもにも微量のウレタンを打つと、子どもはガンだらけになりました。 2回目に有害物質をかけると、影響が数倍に上がりました。多くの追試確認がなされました。放射線も同じです。

小若 それは、福島で被曝した人が、後で放射能や化学物質で汚染されたものを食べたら、ガンが出やすいということですか?

野村 マウスの実験はきれいな状態で行いますが、人間は違います。
放射線を浴びた後、親も子どもも、発ガン物質や放射能を含む食べ物も食べる可能性があります。
そうすると、ガンにかかりやすいということです。

小若 シンプルな動物実験の結果よりも、ヒトの方が危ないと考えられるわけですね。

●再処理工場の従業員の子どもに白血病

野村 ヒトでは、イギリスの核燃料再処理工場セラフィールドの例があります。
ここは、海洋汚染もあったし、シースケール村など周辺の汚染もありました。住民は、直接被曝している上に、家庭では放射能汚染食品による被曝があります。
それで、全体的に白血病の頻度が高かったのは、間違いないのです。1990年に、ここの男性従業員の子どもに白血病のリスクが7〜8倍高いという論文を サザンプトン大学のガードナー教授が出したのです。
 これは、まさに私のマウス実験と同じことが、ヒトで調査された結果で、精子被曝が子どもの白血病の原因として大騒ぎになり、すぐに被害者による裁判が起きました。
しかし、患者は4人なので、裁判にはもともと無理なところがあり、夜中の3時頃に、5mものファックスで質問が来るのに閉口しました。
 裁判の結論は「統計学的には有意差が出たけど、わずか4例のことなので、すぐに人間には当てはめられない」ということでした。
ところが、珍しく裁判長のコメントが付け加えられたのです。「子孫への影響をみるこの研究は極めて大事であるから、今後、世界中で研究が推進されることを望む」と。

●チェルノブイリ原発事故

小若 チェルノブイリの汚染地では、どうなっているのでしょうか。

野村 事故後10年近くたち、国際機関が調査をやめ、国際援助もなくなったころ、 ユネスコと現地の要請で、文部省(旧科技庁は関与せず)と、民間助成金の支援を受け、生態系への汚染と遺伝的影響を調査しました。
 地上の放射能は減少しても、動植物には、恐れていた強度の汚染、生物濃縮が起こっていることをいち早く証明しました。 事故直後に、放射性ヨウ素で汚染された牧草を食べた乳牛のミルクを飲んだ子どもの甲状腺に、放射性ヨウ素が大量蓄積し、それが原因で甲状腺ガンが高発していました。 放射性セシウム等の内部被曝による影響については、ガンが発生するまでの年数が足りないのだと思いますが、徐々に増加しているとの報告があります。
 遺伝的影響に関しては、英国のグループが、汚染地域の子どもで、放射線等で変化の起きやすい配列のDNAに突然変異が増加していると1996年に報告しました。
汚染を除去した作業者の子どもでは、突然変異の増加が疑問視されていたので、マウスで確実に検出できている突然変異を、 ルカシェンコ大統領の協力も得て、除染作業者の子どもを調査しました。 陽性にはなりませんでしたが、これは、被曝量が50ミリシーベルト以下と少なかったからだと思います。
 ところが、ベラルーシとイタリアを行き来しているツバメの子どもを調べた報告では、反復配列したDNAの突然変異が3.6倍も増加し、有意差が出ています。 ウクライナのツバメとの比較でも2倍くらい増加しています。
 これからも調査は必要ですが、放射能が大量に放出されたのですから、ヒトに異常が出ることは確実です。

●大きな影響がある内部被曝

野村 私が実験したのは瞬間の外部被曝で、外部被曝でもじわじわ被曝すると、ガンと奇形の頻度は落ちます。
だから、環境から受ける慢性被曝のときは、ガンと奇形が少し出にくい可能性はあります。
 しかし、食べると放射能が体内に留まって内部被曝になるので、様相は一変すると思います。
この内部被曝の実験はほとんどないので、チェルノブイリで影響を調べることが大きな課題なのです。
 福島は、チェルノブイリのミニコピーです。

小若 福島でも内部被曝の影響が心配です。
1970年代には、病気になりやすくなる「弱有害遺伝子」が増えると言われていましたが、
遺伝子がよくわかるようになった今では、先生の実験結果は、どのような原理だと説明されるのでしょうか。

●遺伝子の変化が蓄積

野村 1978年に最初の論文を発表したとき、 なぜガンが、子どもに、通常の突然変異に比べて100倍以上もの高頻度に発生したのか、二つの可能性を書きました。
 一つは、たくさんのガン遺伝子があり、そのどれかに変異が起こった可能性です。
例えば、マウス肺腫瘍発生に関与する遺伝子は、免疫関係だけでも当時200以上の遺伝子がわかっており、
「それにヒットしたのなら、200倍の高い頻度で出てもおかしくない。1000倍出てもおかしくない。それで十分説明ができる」と、 多くの先生が支持してくれました。
 しかし、ガンになり易さの遺伝であること、しかも、親マウスが被曝すると、子どもに何百回もの細胞分裂を経ても伝わる変化があり、 そのマウスが生後に環境の有害物質に曝露すると、ガンが高発、促進されることがわかっていました。
 この論文は、1990年代後半になって、生殖細胞で遺伝的不安定性を示した最初の論文と言われたように、 とても、突然変異で説明できるものではありません。
 そこで、もう一つの原因として、通常の遺伝子の機能にわずかな変化が起き、
その蓄積でガンの頻度が上がった、と書きました。

小若 免疫機構がちょっと弱くなるように、とか。

野村 そうですね。健康状態が一番影響を受けるのは、免疫関係の遺伝子です。
 遺伝子は、「有害」でも「生体の正常機能に関与しているもの」でもよく、 その発現のわずかの変化が蓄積し、遺伝したので、何十代にわたってガンが発生しやすくなった、と考えたわけです。
 放射線に一度、被曝しただけで、何代にもわたり、肺腫瘍、肝腫瘍、白血病等にかかりやすいマウスになりました。

●全身の細胞で変化が起きていた

野村 このことを証明するため、遺伝子の働きと「発現」を調べています。
 親に放射線を照射し、子どもが生まれて、その子にガンが出た臓器を調べると、非照射対照群のマウスに較べ、ガン組織で遺伝子の発現が数倍、増減していました。
 遺伝子発現を分析してみると、ガン組織だけでなく、その臓器の正常部分の組織にも多かれ少なかれ、同じような変化がすでに存在していました。
 子どもの臓器でそういう変化が起きていたので、ガンにかかりやすくなっている、と説明したのが、2000年から2003年ごろのレポートです。

●注意しても、しすぎることはない

小若 食品の放射能汚染は減ってきましたが、今でも影響を受けないようにするのがいいのですね。

野村 放射線障害で最も恐れるのは、それが一瞬の被曝であっても、 細胞、遺伝子などに起きた傷が残り、将来のガンや遺伝的影響に結び付くことなのです。 ましてや、内部被曝の場合、放射能を出すもの自体が、長期に体内に残存するのですから、 注意しても、しすぎることはありません。

「食品と暮らしの安全」2012年9月1日発行 No.281

>>ウクライナ調査報告

野村大成・大阪大学名誉教授に放射能の危険性をインタビューⅡ「放射線の次世代への影響が心配」


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