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世界一の研究者は、フクシマをどう見ているか
野村大成・大阪大学名誉教授に放射能の危険性をインタビューⅡ

放射線の次世代への影響が心配

野村大成・大阪大学名誉教授に放射能の危険性をインタビューⅠ「孫以降の世代にもガンを起こす」

放射線による次世代マウスへの発ガンと奇形発生で、ずば抜けた研究業績を挙げた
野村大成先生は、73歳の今も現役で、国際的な研究を続けておられます。
放射線遺伝学史の頂点を極めた基礎研究者に、現在のフクシマの問題点を伺いました。

野村大成(のむら たいせい) 大阪大学名誉教授。
1942年、名古屋市生まれ。専門は放射線基礎医学。
1986〜2005年大阪大医学部教授。現在は医薬基盤研究所・野村プロジェクト・プロジェクトリーダー。


聞き手:月刊『食品と暮らしの安全』小若順一編集長



●「複合被曝」が重要になる

小若 放射線を浴びるとマウスにガンが発生することはわかっていましたが、 そのガンが世代を超えて起きることを、先生は1970年代に実証されました。 誰も真似できず、先生の業績を超えた研究者はいませんが、最近、ほとんど寝ないで研究されたことを知りました。 この分野で歴史的にも世界一と評価されている研究業績の中から、福島の原発事故に大きく関係する部分を教えてください。

野村  放射線を一度浴びただけで、マウスの親だけでなく、 子や孫にも、肺ガン、肝臓ガン、白血病等が発生しました。
遺伝学者は、生まれてすぐわかる先天的な形態、機能の違いを調べますが、私は外科医でしたから、突然変異ではなく、ガン、形態異常、生活習慣病等すべての疾病を調べたわけです。 生まれたマウスに、もう一度、放射線や化学物質を浴びせると、さまざまな影響が数倍になりました。
私が実験したのは瞬間の外部被曝ですが、これを人間に当てはめると、一度、少量の放射線を浴びた後、 さらに放射性物質や発ガン物質を含む食べ物も食べると、ガンにかかりやすいということになります。「複合被曝」ですね。
 汚染物を食べると内部被曝になり、様相は一変して、大きな影響が出る可能性が高くなります。
ところが、内部被曝の調査研究はほとんどないので、チェルノブイリで住民への影響を調べることが大切です。

 放射線障害の歴史と事実をまったく無視した政府のアナウンスメントに、記者は質問もコメントもできない。
今回の事故が起こるはるか前から、このような状態になっていたので、原子炉の保存が優先し、人命どころか原子炉自体の安全性まで無視し、 それが大きな原発事故に結びついてしまいました。
 共同通信社にベテランが残っていたので、あまりの状況を見かねて、人は早く避難させなければいけない、放射能汚染は風向き、降雨により離れたところにスポットで起きる、 汚染物の移動厳禁、とこれまでの経験から最低限の常識を書いたメモを送ったら、そのまま配信されたのが昨年3月22日です。

● 子や孫にガンが多く出る3つの理由

小若 子どもや孫のマウスが発ガンしやすくなったのは、なぜでしょうか。

野村 親が被曝したのに、子どもや孫に、ガンになりやすさが遺伝するのは、3つの理由があります。 当初は、たくさんのガン遺伝子のどれかに変異が起こって、ガンになりやすくなっていると、単純に説明されました。
 しかし、ガン遺伝子の突然変異は、極めてまれなガンにしか検出されず、通常、マウスによく発生するガンにはみられません。
実験に用いたマウスには、自然に発生するタイプのガンが増加していたので、たくさんある免疫関係の遺伝子や、 正常機能をつかさどる遺伝子の、どれかに変異、あるいは発現異常が誘発され、免疫力が少し弱くなったり、回復能力が低下したりして、 発ガン率が上昇するのではないか、と考えました。
この遺伝子発現異常が次世代に伝わる可能性を、マイクロアレイという技術を用いて、実験的に証明しました。
 最近は、放射線被曝による次世代の遺伝的不安定性も原因ではないか、と考えています。
親の被曝によるガンの高発は、放射線が生殖細胞に遺伝的不安定性を誘発することを証明した論文は、これが最初と言われています。 これにより各臓器にガンが発生しやすくなったわけです。

● 放射性セシウムが生物濃縮

小若 チェルノブイリ原発事故については、どんな研究をされてきたのですか。

野村  チェルノブイリから10年ほどたって、 IAEAなどが引き上げた後、住民・現地の医師たちから、汚染で病気が増加していると声が上がりました。
 ユネスコの依頼で、日本のNPOと、現地の遺伝学研究所の方たちと、生態系、遺伝的影響が、私の実験と同じように出ていないかを調査することになり、 ウクライナ、ベラルーシ、ロシアのうち、最も汚染の強いベラルーシを中心に調査しました。
 いち早く証明したのは、チェルノブイリの汚染地では、土地表面の放射性セシウムは減少しているのに、 草木、食用植物、カエル、魚などの動植物には、強度の汚染、生物濃縮が起こっていたことです。
 当然のことながら、重金属を吸着しやすいキノコ類には、猛烈な汚染が認められました。

1994年当時のチェルノブイリ原発石棺 1994年当時のチェルノブイリ原発石棺。
左手前は線量測定している野村先生。

● 子どもに病気が出ている

小若 まず、放射能がどのように残っているかで、成果を挙げられたわけですが、人の研究はどうなっているのでしょうか。

野村 一昨年のことですが、私のマウスの実験と同じように、住民に病気が出てきたので、 国際共同研究をしようとロシアから言ってきました。
それで、ロシアと2ヵ国で共同研究を開始しています。
 ロシアは、原発事故を終息させるために動員された60万の兵士等をすべて登録し、健康調査を行い、病気をすべて追跡しています。
小児に関しては、現在、孫も含めて10万人余りの健康調査をしています。健康診断、病気の治療、補償は、すべて国の費用で行っています。
ロシアは、やらねばならないことは、ソ連が崩壊した中でもやってきているのです。
 その膨大なデータが、一昨年、モスクワでの学会で出てきました。
兵士、消防士の子どもだけでなく、住民の子どもにも病気が出ているのが、ロシアの小児科医たちの一番の関心事です。
遺伝的不安定性(ミニサテライト変異)なども、兵士より住民の子どもに出やすいので、内部被曝と関係があるものと思います。

● 孫にも病気が出ている

小若 住民は、地元の汚染した食品を食べ続けていますから、簡単ではないですね。孫の世代にも病気が出ているのですか。

野村 孫にも増加しています。

小若 病気が、遺伝と関係するかどうかを調べるのは大変ですね。

野村 遺伝と関係するかどうかは、事故前の生まれ(小児期の被曝)、妊娠中の被曝(胎内被曝)、 1987〜92年生まれ(出生前の被曝=親の被曝)と、対照群と、私のマウス論文と同じく4つに分けて、影響を調べています。
別に、原発事故の処理作業者の子どもも調べています。
 データが膨大過ぎて、まだまとまりがつかないでいますが、日露2ヵ国の共同研究で徐々に明らかにしていきます。

小若 核の再処理工場があったイギリスのセラフィールドでも、チェルノブイリ原発事故の前に遺伝が問題になりましたね。

野村 セラフィールド核処理工場の男性従業員の子どもに白血病が4人出たのです。
それまでも、直接被曝や、母親の胎内被曝で、影響が出るということは言われていましたが、父親が被曝したのに、子どもに白血病が出たことで、 にわかに次世代へのことが問題になったのです。
 マウスで起きたことが、ヒトでも起こるのだということになって、裁判での証言を要請されました。私が唯一の証人だったようです。
しかし、症例数が少なく、精細胞被曝との関係は証明されませんでした。

1990年、裁判があった当時のセラフィールド 1990年、裁判があった当時のセラフィールド。
手前の海に汚染水を流していた (野村)

●二次被曝を恐れる

野村 ロシアは、兵士等60万人を動員して、チェルノブイリ原発事故を終息させましたが、 これは一人あたりの被曝量を下げるために、根本原理どおりのことをやったわけです。
原発周辺の住民は、村ごと強制的に移住させました。
 日本は少人数の除染作業者で対応しており、私が一番心配しているのは、除染作業者の二次被曝の方が多いのではないかということです。
 少なくとも、旧ソ連邦なみに被曝管理、健康調査をしないといけません。

小若 日本は、事故直後に緊急作業をした作業員2万人を調査しようとして、 先行調査で2千人を調べようとしたら、3分の1ほどしか連絡が取れず、返信があっても3割近くは健康診断を受けないとされました。
残念ながら、今の日本は、ソ連以下に成り下がっています。

●被曝した住民は、福島が多い

小若 先生は、福島は汚染が少ないと言われていましたね。

野村 確かに、土地の汚染はミニコピーと言ったと思います。誤解があってはいけないので、少し詳しく述べます。
 発電所の規模は、福島の1、2、3号機が200万㎾ぐらい、チェルノブイリは100万㎾と、福島の方が2倍ぐらい大きかったのですが、 大気中に放出された放射性物質の量は、放射性セシウムは6分の1、放射性ヨウ素は10分の1くらいと、福島が少なかったのです。
 国土の汚染は、日本の方が少ないのですが、しかし、汚染スポットの放射能はあまり変らないことと、 チェルノブイリは周辺の人口密度がはるかに低いので、被曝を受ける住民は福島の方が多くなります。
 したがって、人体影響のリスクは決してミニコピーではないのです。

● 子孫は、自らを護ることができない

小若 ソ連は、プリピャチ市の5万人と、チェルノブイリ市の1万2000人を避難させ、 そのまま強制移住させました。その基準を日本に当てはめると、福島市、郡山市、伊達市、二本松市、本宮市76万人の住民を強制移住させねばなりません。
それはできないので、基準を20倍にゆるめたのですが、移住の権利すら与えないでいるのは、日本政府が市民に冷たいことを象徴しています。

野村 基準を変えたのは論外ですね。そのときの都合で規制値を変えてはいけません。
 人を住まわせたり、戻すために行う除染には、大きな問題があります。
 私は最初から「除染したら住めるのか」と言っていました。こんなことを言うと嫌われますが、 そんな費用があれば、汚染のない場所に、安全な新しい村を作ることができるのではないですか。

小若 被曝を多くして、将来に禍根を残す政策をとっているわけですね。

野村 そこに住み続けたい、という方がおられますが、本人は良くても、子どもや孫の未来はどうなるのですか。
それを見つめて、未然に被害が出ないよう説得するのが、為政者の義務です。
 今、事故に焦点が当てられていますが、その根本原因を忘れてはいけません。
 日本列島は、地震、津波の多発地帯です。
東北地方には、今回と同じ規模の大津波の記録が、歴史書にも地層にも残っています。それ故に長い間、人々は住居を構えなかった地です。
 私は、放射線の分野で、次の世代の問題を研究してきましたが、一般の市民社会も、子孫までをも守る方法を考えておかなければなりません。
 まだ生まれていない子孫は、自らを護ることができないのですから。
それが、「安全の哲学」です。

●立派な基礎研究者を

小若 研究者に責任はないのですか。

野村 歴史的に大津波が来ることがわかっている場所に、国策で原発を造ったのですから、 今回の事故は人為的といえます。科学者は、それを防げなかった責任があります。
 14年前、省庁再編のとき「原子力安全神話」のもと、原子炉そのものを研究する原子力工学科を、東大を残してすべて廃止しました。
そういう中で、放射線の人体影響を担当していた医学部の「放射線基礎医学」講座は、大阪大学を除いて自滅しました。
 原子力行政も、学識者からなる審議会等が進言するものですが、その委員を誰が決めるのか、と問えば、結果は自ずからわかります。
だから、官僚と学識者の人格の問題でもあります。
 それでも、旧・文部省は、物理学、化学、数学と同じように、放射線基礎医学の研究を支援してくれました。
 立派な基礎研究者を育てないと、日本の将来はありません。

小若 私が宮城県で、ミネラル不足の講演をしたとき、 「放射能の悪口を一言でも言ったら、研究予算が出なくなるので、絶対に触れないように」と、きつく釘を刺されました。
「放射線が安全と検証する」と書かないと研究予算が出ないのが、実態です。

●底魚が心配

小若 原発の上から水を入れて、下から汚染した水が漏れ出て、 海の方に流れて行く状態が続いているのに、「汚染水の影響は完全にブロックされている」と、安倍晋三首相が言いましたが。

野村 論外です。そう言っているときにも漏れていましたから。言わされたのでしょうが、恥ずかしいですね。
 ビキニ事件の例で、汚染水はあまり拡散せずに移動することがわかっています。だから、カリフォルニア沖に着いたら、大問題になるでしょうね。

小若 そろそろ着くころですね。

野村 東京湾の底魚は大丈夫ですかね。
 再処理工場があったイギリスのセラフィールドの海洋汚染が、フクシマのモデルになります。
海底の魚介類は、長年にわたり高い値が出ていました。上中層の魚は減少しましたけれど。

●「出ない」と言った甲状腺ガン

小若 同じように気になっていることがあります。
原発事故の前、福島県では年に1例もなかった甲状腺ガンの子が、4年で117人になりました。
福島県立医科大学の専門家は当初、早く出たから放射線が原因ではないという理由で、増加を否定しました。

野村 逆ではないですか。早く出たから、放射線被曝との関係に注意しないといけないのです。
 放射線は、ヒトにもマウスにも、ガン発生を高めるだけでなく、早めるものです。チェルノブイリの経験が、何の役にもたっていません。 それとも、現地経験者が関与していなかったのでしょうか。

小若 経験者がいて、2巡目の検査を重視することにしていたのですが、
2巡目で8人の子に甲状腺ガンが見つかったのに、
「放射線の影響は考えにくいという見解を、変える要素ではない」と、
検討委員会の座長は否定し、ガンが転移した子も数人出ているのに、原発事故との関連を認めません。

野村 これは、科学者ではなく、人間としての人格の問題です。
 甲状腺は、子どもの成長期にからむ重要な内分泌器官で、ヨウ素を取り込む臓器です。 子どもが放射性ヨウ素をとりこむと、甲状腺に入り、その被曝によって甲状腺ガンが起きます。
 チェルノブイリ原発事故のときに同様の例があって、広島・長崎を例に挙げて、「出ない、出ない」と専門家が否定していたら、5年以内に甲状腺ガンが出ました。
事故直後に、放射性ヨウ素で汚染された牛乳を飲んだ子どもに、甲状腺ガンが多発したのです。
 そのときも、「機械がよくなって、早く発見されただけだ」と言われました。
 科学者は、あらゆる可能性を考え、ニュートラルに物事を考えないといけません。
 チェルノブイリの経験に学んで慎重に調べ、事実を明らかにして、対策をとらないといけません。

「食品と暮らしの安全」2015年4月1日発行 No.312 −放射能汚染特集号−

>>ウクライナ調査報告

野村大成・大阪大学名誉教授に放射能の危険性をインタビューⅠ「孫以降の世代にもガンを起こす」


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