日本の総資産は1.2京円
1800兆円にものぼる日本の家計の金融資産は、高齢者に偏り、預貯金が中心で、経済の活性化につながらず、眠っている、と、先日公表された、2024年度『経済財政白書』が指摘しています。
では日本の総資産はどれくらいでしょう。GDP(国内総生産)を計算する国民経済計算でみると、1994年末の約8600兆円から、2022年末には約1京2650兆円へと、兆の単位を突き抜けています。
中身は、住宅や設備、社会資本等の資本ストック等が約2260兆円、土地等が約1320兆円、現金・預金や債券、貸出、株式・投資信託等の金融資産が約9070兆円。
対して、負債は約8650兆円。
総資産から負債を引いた正味資産は約4000兆円で、94年末以降では、過去最高でした。
これを保有者の部門別にみると、総資産の7割を所有しているのが家計部門です。
家計部門の総資産は約3240兆円で、うち約2030兆円が金融資産。負債は約380兆円です。
高齢化とリスク回避
日本の金融資産の特徴は、日米調査を比較してみるとよくわかります。
年代ごとの金融資産の保有割合をみると、日米ともに現役世代(55歳未満)は3割弱にとどまり、55歳以上の高年齢層が金融資産全体の7割以上を持っています。
ところが、70歳以上の層が保有する資の割合は米国が約3割なのに対し、高齢化が進んだ日本は約4割です。
資産の構成は、日本では資産の約7割が預金なのに、米国では預金は1~2割にすぎず、株などの有価証券が3~5割を占めています。
日本の家計は、米国に比べて「リスク回避的」と白書は言います。
“長生きリスク”
日本の世帯は、年齢が高くなるほど金融資産を多く保有しており、定年を迎える60~64歳で平均約1800万円強とピークとなります。
高齢者の遺産についての考え方の調査(2023年)で最も多かったのは、「自分で使い切りたい」で、34%に上りました。
こうしたことから浮かんでくる姿は、現役時代に、老後に備えてコツコツと貯め込んで、リタイヤしたら、それを取り崩していく姿でしょう。
でも、現実が異なるのは、金融資産の取り崩しが非常に緩やかなこと。65歳以降の残高減少ペースはごくわずかで、85歳になっても300万円弱しか取り崩されておらず、平均約1500万円強を保有しています。
高齢者は、公的年金や働いて得た所得で大半の消費をまかなっており、老後資金の取り崩しは非常に限定的なのです。
なぜ、取り崩さないか?
背景は複合的ですが、察しはつきます。
先の調査では、60歳以上が金融資産を保有する目的を問うと、「老後の生活資金」の答えが77%と最大でした。
長寿化が進み、”長生きリスク(” なんとなく無神経な言葉です)が強く意識されていると白書は結論しています。
では、高齢者によって取り崩されない金融資産(大半が預金)は、その後どうなるのでしょう。
「 老老相続」
白書によると、被相続人(財産を残す側、故人)の年齢構成は、80歳以上の割合が1989年の4割弱から2019年には7割超と大きく高まっています。
80歳以上の被相続人の相続人は、子の場合、50歳以上が多いと想定されます。2022年は、相続人の8割が50歳以上でした。
こうして「老老相続」が繰り返されることで、若年層への資産移転が進まず、高齢層に金融資産が偏る姿となっているのです。
高齢者のもつ金融資産が、預貯金の形で積み上げられ、それが消費にも投資にも回らず、経済の活性化につながらない――。
でも、この議論、今に始まったことではありません。1998年に作家の堺屋太一氏が当時の経済企画庁長官に就任したとき、同じことを力説していました。
当時は、それで初めて気がついたと言う人が大勢いました。今は、誰もが気づいています。で、どうすればいい?
今年の白書には、対策として4項目が書かれていました。
- 経済成長への期待を引き上げ、経済を成長型の新たなステージへと移行させる。
- 高齢者から若年世代へ資産移転の後押しを図るとともに、税制の整備を進める。
- 長生きリスクに対応して、公的年金制度の持続可能性を確保する。
- 「 貯蓄から投資」の流れを進め、若年期からの収益性の高い資産形成を促す。
「これが出来れば世話はない」「どこかピントがずれている」――四半世紀たっても同じことを言っているんです。