国慶節に向けて一時帰国する楊麗秋(ヤンリーチウ)さんの送別会に中国繋がりの6人が集まると、「悩める中国」が話題になりました。
普段、中国人は身内同然の親しい関係でない限り、政治に触れる話はしません。
楊さんの帰国目的が「ネズミ族」になった従妹に逢うことだとわかってから、話は社会秩序を壊すと政府に睨まれている「躺平族(タンピンゾク・寝そべり族)」に始まり、「小さな天安門事件」と呼ばれるほど大事件になった四川省のイジメ事件や、英国からの遠隔操作で反共産党を訴えた事件に及びました。
中国人が滅多に見せない中国観を聞いて、改めて確信したのは、普通の中国人が体制を着実に変革させ始めている、ということです。
体制に変革を促すネズミ族
今年、中国で話題になった中国語の一つが、「老鼠人(ラオシューレン)」と書く「ネズミ族」です。
2010年代、中国は豊かになった反面、貧富の格差が半端でなく拡大しました。
若者が結婚適齢期を迎えても、マンションが高騰していて用意できません。
努力しても報われない社会に、若者は住宅の購入とか、結婚・出産などを望まないで、最低限の生活をする生き方が拡がり、それが「躺平族」(寝そべり族)と呼ばれます。

その流れを受けて登場したのが、ネズミ族と呼ばれる若い世代です。
彼らは、まさに I T 時代の申し子で、I T 企業で「996」と呼ばれる過酷な労働(1日12時間、午前9~午後9時を連続6日間働く)で中国のI T 産業を盛り立てた功労者です。
しかし、あまりにも過酷な労働に反発し、1日中ベッドでネットサーフィンし、出前で食事済ませるという極めて消極的なネズミのような生活です。
中国政府は、彼らが後続の世代の労働意欲を奪い、しかも、消費社会をマイナスにするのでは、と警戒しているのです。
それで、政府は彼らの生活ぶりを伝える動画をSNS から根やしする作戦を進めています。これは、ネズミ族が意図せずとも、体制の変革を促している証です。
小さな天安門事件
さらに、小さな天安門事件(小六四事件)と呼ばれたイジメ事件が起こり、ここから、問題が続出しています。
今夏、人口73万人の四川省江油市にある無人の廃墟ビルで、1人の女子生徒に3人の女子生徒が壮絶なリンチを行いました。
事件から11日後の8月2日、イジメを撮影した動画が SNS で公開され、裸にした女子生徒をコンクリートの床にひざまずかせて、殴り、蹴り、こん棒で叩き、髪の毛を引っ張り回すリンチが11時間続き、その間、被害者は床に這いつくばって泣き続けたことが、江油市民に知れ渡ったのです。
被害者の生徒と両親は学校、公安に対応を求めましたが、両親が貧しい上に、共に障害者だったので、公安は訴えを真剣に受け取らず、簡単な注意だけで終わりにしました。
本来の中国なら、ここで事件は終息したはずです。ところが、経済が不振を極める中、中国人の伝統的な気質(権力と金力に屈する)に変化が始まったかのように、江油市民は、被害者が見捨てられがちな貧困者であることに気づき、いじめっ子3人の両親の職業をネットで捜索しました。
1人は江油市公安局副局長で、2人目は母親が江油市一級警察監督官、3人目は弁護士であると判ったのです。
これで、上級国民の子どもは「犯罪」を犯しても「お咎めなし」なのか、と江油市民は怒りました。
市民の怒りは瞬く間に広がり、市庁舎を市民が取り巻き、禁断の言葉である「共産党下台(共産党は退陣せよ)」「習近平下台(習近平は辞めろ)」との連呼が深夜まで続いたといいます。この行為は「革命的」です。
結局、当局による催涙弾、辛子スプレー、こん棒によって市民は蹴散らされて、抗議行動は終息しました。
この事件で地元政府は、3人の加害者を矯正教育処分にすると発表しましたが、市民が抗議行動を起こしたことは一切発表していません。SNSの動画も削除されています。
今回の騒動で地元市民は悟りました。
「不満分子」とは反政府の活動家ではなく、普通の自分たちのような市民だったのです。
普通の市民が体制に「叛旗」を翻すと、閉塞感で覆われた中国全土に燎原の火となって伝播し、社会を変革する可能性があることを示した騒動だったのです。
海外から習近平批判の遠隔操作
人口3400万人を誇る中国最大の都市・重慶市のど真ん中の商業エリアの高層ビルの壁面に、8月29日の夜、「中国人よ立ち上がれ」「共産党をなくしてこそ新しい中国がある」というスローガンが映し出されました。

このスローガンを投影したプロジェクターは向かい側の通りのホテルの一室に置かれ、公安が駆け付けた時は無人でした。これを仕掛けた人物は、中国を脱出して、英国から操作していたのです。政府に反感を持つ普通の中国人は、「見事だ」と讃えたに違いありません。
これまで、群衆行動であれ、個人であれ、当局は簡単に抑え込んできました。IT を駆使した監視システムに加えて、親族、職場、住居など人間の繋がり利用した管理が徹底していたからです。
共産党の監視システムの逆手を取った遠隔操作による市民への呼びかけは、新しい革命の始まり告げているように思います。