「アメリカを再び健康に」政策の一環

要請は8月27日に保健福祉省と教育省が共同で発表。対象となる大学や医師研修機関に対し、発表日から2週間以内に、栄養学のカリキュラム強化の詳細な計画を政府に提出するよう求めました。
また、医師免許を取るための資格試験で、栄養学に関する知識を重視する考えも明らかにしました。
この方針はトランプ大統領とケネディ長官が主導する「MAHA(アメリカを再び健康に)」政策の一環、と保健福祉省は説明しています。
アメリカでは毎年、4兆4000億ドル(約660兆円)以上を慢性疾患とメンタルヘルスケアの治療に費やしているにもかかわらず、推定100万人のアメリカ人が食生活に関連する慢性疾患で死亡しています。
病気の予防に最も効果的なのは、食事を通じて日々摂取する栄養であることは紛れもない事実なのに、大多数の医者は大学の授業で栄養学をほとんど、あるいはまったく受けず、医者になっていると、保健福祉省は指摘しています。
ケネディ長官は声明で、「教育機関は直ちに具体的な改革を実行して、医学教育のすべての段階に栄養教育プログラムを組み込み、すべての医師が、単に病気を治療するだけでなく、病気を予防するための的確な栄養指導を患者にできるようにすべきだ」と強調しました。
ケネディ長官は発表の内容をユーチューブで自ら解説し、さらにはウォール・ストリート・ジャーナル紙にも寄稿するなど、相当な熱の入れようです。
栄養学の授業は2時間未満
医師が栄養学を学ぶことの重要性は、実は昔から認識されていました。
全米科学アカデミーは1985年、医学部のカリキュラムに最低25時間、栄養学の授業を組み込むよう推奨しました。
アメリカ医学大学協会によると、加盟する170以上の医学部のすべてが「何らかの形で栄養に関する内容を授業で扱っている」と報告しています。
ところが、保健福祉省が引用した最新のアメリカ医学大学協会のデータによれば、ほとんどの医学部生は、栄養学の授業を2時間未満しか受けていませんでした。
2024年に発表された別の研究論文によると、臨床栄養学を必須科目にしている医学部は、医学部全体のわずか25%。研修医養成機関で栄養学を必修にしているところは、たった14%でした。
ケネディ長官は今年初め、栄養学を授業で教えない医学部に対しては連邦政府の資金援助を打ち切ると述べていましたが、今回の発表では、それについては触れていません。
重要性の認識高まる
医者の卵が栄養学をほとんど学んでいないという由々しき実態がある半面、栄養学が重要だという認識はここ数年、着実に広がっています。
連邦下院は2022年、研修医に対する栄養教育の強化を求める決議を可決しました。肥満など主に食生活が原因の病気になる患者を減らすことで、政府の医療財政の改善につなげるのが目的です。
翌2023年には、大学院医学教育認定評議会が、医学部や医科大学院のカリキュラムに栄養関連の授業をより多く取り入れる方法について議論するサミットを開催しました。
それに基づいて昨年、30以上の大学の医師や教授らが共同で、医学部で教えるべき栄養学のカリキュラムをどう設計すべきか提言しました。内容の多くは、ケネディ長官が公表した内容と一致していると伝えられています。
ケネディ長官は、ワクチン政策では大バッシングを受けていますが、栄養学強化の方針に関しては、多くの専門家から支持されているようです。
肥満医学と栄養科学が専門のイエール大学医学部のネイト・ウッド医師は、ABCテレビの取材で、ケネディ長官の取り組みを歓迎すると語りました。
ウッド氏は「医師が栄養学の訓練を十分に受けておらず、患者に食事について話すことに自信を持てないのは事実。幼稚園から高校、大学、医学部、そして研修プログラムやフェローシップ研修に至るまで、あらゆるレベルでの栄養教育の強化が切実に求められている」と述べました。
さらに「患者の多くは管理栄養士にアクセスできない一方で、医師は管理栄養士など栄養の専門家と連携して働くための訓練を受けていない。患者がエビデンスに基づいたチーム医療を受けられるようにするためには、栄養教育の中で、医師を目指す学生が栄養士など他の専門職と連携する手法を教える必要がある」と付け加えました。
アメリカの医療が大きく変わる可能性
ケネディ長官は、アメリカが病気大国になったのは、人々が食事を軽視し、かつ身の回りの様々な化学物質に健康を蝕まれているからだと考えています。
除草剤グリホサートの禁止を訴えてみたり、石油由来の合成着色料の追放を推進したりするのも、すべては化学物質への不信感が根っこにあるとみられます。
そして、薬も化学物質の一種と捉えているふしが見られます。
ワクチンの副作用を懸念して、ワクチンの一律推奨を止め、ワクチン接種の選択を国民一人ひとりに委ねたのも、同じ理由からです。
アメリカに広がりつつある、薬よりも食事によって病気を治すという考え方が、ケネディ長官の政策によって後押しされれば、アメリカの医療は大きく変わるかもしれません。