宮古島は沖縄本島の南西約300kmにあり、人口は約5万5000人。透き通る青い海と白い砂浜、美しいサンゴ礁が広がり、シュノーケリングやダイビングの名所として知られています。独自の文化や伝統も魅力で、多くの観光客が訪れます。
そんな魅力的な島が大変なことになっています。
10年で44倍に増えた発達障害児
以下、医学博士で宮古島地下水研究会の共同代表を務める友利直樹氏が、2024年9月にまとめた調査リポート「地下水・水道水ネオニコチノイド系農薬複合汚染による子供達への健康影響」を引用しながら、宮古島の現状を報告します。
沖縄県学校基本調査報告書を分析したら、宮古島と周辺の小さな島々からなる宮古島市で、自閉症スペクトラム障害を含む発達障害児が、2012年から2022年の間に44倍に増えていました。
これは沖縄県平均の4倍、全国平均の20倍と、驚くべき増え方です。特に小学校児童での増加が顕著でした。
また、県学校保健統計を分析したら、市内の全小学生に占める肥満児童の割合は、2017年には12.5%でしたが、2022年には20.2%にまで高まっていました。
県平均は11.9%、全国平均は9.9%ですから、宮古島の突出ぶりは明らかです。
将来、メタボリック症候群、2型糖尿病へ移行する可能性が高く、医療介入を必要とする高度肥満児の割合も、2022年までの5年間で倍になり、2022年の時点で男児は5.1%、女児は2.4%が高度肥満児となっています。
一方、県人口動態調査を分析すると、宮古島市の人口は近年、増加傾向にあるにもかかわらず、出生数は逆に漸減傾向にあります。
このままでは、子どもの数がどんどん減って、宮古島は消滅の危機に直面します。
「 原因はネオニコチノイド」
なぜ宮古島では、発達障害児や肥満児が大幅に増え、出生率が下がっているのか。
開業医でもある友利氏は、リポートの中ではっきりと次のように述べています。
「45年の内科医としての経験とこれまでの宮古島地下水研究会での研究試料の分析から、私は、この3件の異常事態は、ネオニコチノイド暴露と全て関係があると考えています」そして、その根拠を、多くの論文を引きながら次のように述べています。
まず、神経毒のネオニコチノイドは、感受性の高い胎児初期にネオニコチノイドに暴露すると、ごく微量でも発達障害を引き起こす可能性があることが、動物実験で証明されています。
また、腸内細菌叢のバランス異常(ディスバイオシス)を引き起こす可能性も指摘されています。ディスバイオシスは肥満の原因と言われています。このことから、ネオニコチノイドに暴露した子どもは肥満になる可能性が高いことがわかります。
マウスを使った実験では、特にオスのマウスがネオニコチノイドへの曝露によってディスバイオシスを起こしやすいという報告があります。宮古島の高度肥満児の割合も男児が女児の2倍超となっています。
さらに、ネオニコチノイドの内分泌かく乱作用によりオスが生殖障害を起こすことが報告されています。したがって、出生数の減少は、男性不妊の増加が一因と推測できます。
規制緩和で使用量が急増
宮古島では10年ほど前からネオニコチノイド系農薬が使われ出しました。
年間供給量は、2014年が6.6t、2016年8.9t、2021年17.7tと、急増しています。今や耕作面積あたりの使用量は県内トップ。
ほとんどはクロチアニジン(商品名「ダントツ」)で、主力農産品であるサトウキビの害虫駆除などに使用されています。
農薬の使用方法は法律で細かく決められていますが、サトウキビへのネオニコチノイド系農薬の使用に関しては、数年前に大幅に緩和されました。これが供給量の増加につながった可能性があります。
農業に使われた大量のネオニコチノイドが島の唯一の水道水の水源である地下水に流れ込み、その汚染された水道水を島民が毎日知らずに飲んで曝露している、とリポートは指摘しています。
実際、地下水と浄水場の水を独自に調査したら、多くの地点からネオニコチノイドが検出され、一部は欧州連合(EU)の安全基準値を上回っていました。
政治家もメディアも無関心
宮古島地下水研究会は昨年2月、当座の対策として、「高機能活性炭浄水処理施設整備を求める市長への請願書」を6千4百筆余の署名を添えて提出しました。9月には市議会や県議会にも同様の請願書を提出。しかし、いずれも実質、ゼロ回答でした。
研究会はまた、市長に、「ネオニコチノイドによる健康影響対策委員会」を設置して、子どもたちが病気になっている原因を早急に究明するよう訴えています。
宮古島が大変なことになっているのに、地元紙の宮古新報と宮古毎日新聞がたまに取り上げるくらいで、全国紙や全国ネットのテレビはまったく報道しません。
これはPFAS問題とそっくりです。PFAS汚染は、今でこそ多くのメディアが報道していますが、そうなったのは東京都多摩地区の汚染が騒がれ始めてから。そのずっと前から沖縄では大問題だったのに、メディアはほぼ無視していました。だから、ほとんどの日本人はPFASの問題に気付きませんでした。
宮古島の問題がもっと報道されれば、国民はもっとネオニコチノイド問題に関心を持ち、日本がよい方向へと大きく変わります。
