やさしい経済解説

日本のコメはどこへ行く?

コメの値段が高止まりしています。備蓄米の放出までしているのに、いっこうに下がりません。なぜ?

 コメの小売り価格は、農林水産省が、全国約1000店のスーパーで販売されているコメの価格を、毎週まとめています。
 4月末の発表によると、4月14~27日の週に全国のコメの平均価格は、5㎏当たり税込みで4233円。前の週より12円値上がりしました。
 値上がりは、17週連続。同時に過去最高値の更新も続けており、前年同期(2145円)の2倍を上回っています。
 こんな高いコメ価格を下げようと、政府は、非常時の食糧備蓄のための備蓄米の放出に踏み切りました。ところが、コメ価格はいっこうに下がりません。

異常気象とインバウンド

 昨年夏ごろから今年にかけてのコメ価格の値上がりの原因は、いくつか指摘されています。
 2023~24年は猛暑や干ばつなど異常気象が続き、24年夏には東北・北陸で高温障害が発生。その結果、品質のいいコメの収穫量が減少してしまいました。
 一方で、コロナ禍から解放された人々が外に出、外食産業が再び活気を取り戻しました。そのうえ、コロナ以前を上回るインバウンド観光客が訪れ、コメの需要は大いに盛り上がりました。
 だからこそ、コメが不足気味になり、値段が上がる――非常にわかりやすい話です。

買い占め? 流通在庫?

 わかりにくいのはこの後です。
 昨年の夏頃までは、農水省は、「9月以降、新米が出てくるので、コメの価格が下がり始める」と言っていました。
 でも、そうはなりませんでした。コメの価格は上がり続けたのです。
 そこで官邸サイドから出てきた対策は、政府備蓄米を放出すること。安いコメを市場に投入すれば、値段は下がるはず、と。
 今年の3月中旬以降3回にわたって、備蓄米の入札が行われ、10業者に合計31.2万トンが売却されました。でも、こちらも、今のところ効果はありません。
 農水省はいろんな言い訳をしています。
 たとえば、卸売りなどの業者が投機目的で買い占めや売り惜しみをしている可能性がある……とか。家庭や小売店や、外食の店などが、コメが足りなくなるのを恐れて、少しずつ在庫を増やし、それが積もり積もって……とも。
 しかし、コメ価格が下がらないのは「当たり前」との見方も。「もともと農水省は、コメの値段を下げたくないんでしょ」と。
 生産者=農家にとっては高い方がいいに決まってますし、農水省にとっては生産者への補助金などの必要がなくなります。
 農水省が備蓄米の入札で、参加を認めたのは、農水省と立場が共通で、生産者に最も近い集荷業者だけでした。代表格がJA全農(全国農業協同組合連合会)で、3回の入札で93%を全農が落札しています。
 入札で集荷業者に売られた備蓄米は卸売り業者を通して、スーパーなど小売り業者や外食の業者に渡り、消費者につながることになります。
 その過程に、今回思わぬ時間がかかっています。3月に行われた2回の入札で落札された備蓄米21万トンのうち、4月中頃の段階で、小売りや外食業者にまで届いた割合は、わずか1.9%だったといいます。
 わざとゆっくりしているとは思いたくないですが、仮に値下げ効果を発揮するとしても、しばらく先のことになりそうです。
 さらに、今回の入札にはもう1つ、仕掛けがあるともいわれます。
 備蓄米の落札者に買い戻しの条件が付いていることです。
 1年以内に、政府が売り渡した備蓄米と同量同質の国内産のコメを政府に売り渡さなければならないのです。
 備蓄米の放出でコメが増えれば、価格は下がりますが、増えたのと同じ量のコメが引き揚げらた時点で、価格は上がるので、いま安く売ると、後で損するのです。
 1年以内に政府に売り渡すコメを集荷できる業者は全農しかないので、コメ価格を下げたくない全農が、農水省と行ったパフォーマンスだと考えられます。

米騒動でわかること

 いずれにしろ、今回の令和の米騒動をきっかけに、来年には興味深い事がわかってくるだろうと思っています。
 今年の騒ぎをみれば、日本のコメをめぐる環境は大きく変化しています。インバウンド観光客の需要が拡大する一方で、日本人のコメ離れも止まっていません。
 日本のコメが高いのなら、関税を支払ってでも輸入米を使おうという動きが始まっている一方で、「和食ブーム」もあって、日本からのコメの輸出も急拡大しています。
 ところが、コメの生産現場である日本の多くの農村は、長い間の減反政策とそれに続く「適正生産量」という事実上の減反政策、高齢化による人手不足で疲弊しきっているように見えます。
 このままいけば、今年は全国でコメの作付面積を大幅に増やすことになるでしょう。
 ところが、農水省が自給率ほぼ100%を誇る日本のコメに、いまどの程度の増産能力が残っているのでしょうか? 
 その結果次第で、コメの” 聖域化”を考え直す時期に来ているのでは、と考えられるのです。