最も中国を警戒し、敵視した
8年前に民主党のヒラリー・クリントン元国務長官を破って大統領に就任すると、 中国を「ドロボー国家だ」と声高に蔑さげすみ、「知的所有権侵害」を理由に、対米輸出品に最大で50%の関税をかけたばかりか、先端産業から中国を締め出すべく、米国を含めた半導体先進国に、中国への輸出が出来なくなるよう規制しました。
この結果、労働集約型の産業から先端産業への経済構造転換を図っていた中国は、大打撃を受けたのです。
その象徴が「ファーウェー(華為)」です。
もともと中国は、2025年までに世界の最先端国家に並ぶ製造大国になるという国家戦略(「中国製造25」)の下で経済成長を実現すべくAV(電気自動車)、通信、航空、宇宙、ロケットなどの技術開発に力を入れ、通信ではファーウェーが輝かしい成長を見せ、5G分野で先進国に追い付き、6G の開発では
米国を脅かすほどになっていました。
そんなときに、半導体の輸入が絶たれ、ファーウェーに象徴される多くの新興I T企業が破綻ないし、倒産寸前に追い込まれ、習近平中国は震え上がったのです。
トランプ大統領の中国イジメ政策は、中国にとって信じ難いことでした。
中国は日中戦争で米国の支援があって、中華人民共和国の建国が叶いました。
世界最貧国に陥っていた中ソ対立の時代では、ニクソンの電撃訪中が契機となって世界の資本が中国に向い、中国が「世界の工場」となり、それで世界第2位の経済大国になったのです。
中国は、この歴史を感謝しているので、米国はなぜ中国を「天敵と見なすのか」という想いを心の底に抱いていたのです。
トランプ大統領にとって友人とは、米国を「敬い、儲けさす」国のことなので、経済、軍事、外交、貿易で米国に挑むことは絶対に許せないのです。
共産党の本当の苦悩
大統領に就任するまでは、「60%関税」を課すと威圧し、中国をとことんイジメ抜く発言をしていたトランプ氏が、習近平の中国をどう驚喜させたのでしょうか。
中国が驚喜しているのを理解するには、中国の悩みの原因を知ることが重要です。
最大の悩みは、バブル破綻で共産党の存立基盤が危うくなっていること。
世界最貧国だった中国人にとって、市場開放後は「明日は今日より豊かになる」と共産党に期待し、「夢と希望」を抱くことができました。ですがバブルが破綻し、今や国民の不満と不安はマグマのように膨れる一方です。
これに対し、中国政府は国民の監視体制を強化するだけ。共産党への信頼は失われ、告げ口を恐れて沈黙することが生きる術と心得る国民の心をつなぎとめることは、もはや不可能に近くなっています。
無名の庶民による政府批判であれ、田舎の騒動であれ、小さな火種のうちに消さないと、共産党は政権が揺らぐと恐れているのです。
水面下で国民に広がる不平不満は今や、共産党の頭上にぶら下がる「デモクレスの剣」と言っていいでしょう。
トランプ大統領が中国を救った
ところが、中国を苦しめたトランプ大統領が、中国共産党が抱える最大の悩みの「 デモ
クレスの剣」を取り払ったのです。
米国が誇った組織にUSAID(国際開発省)があります。世界の紛争地域や貧困地域で食料支援、教育支援、衛生支援などを行ってきた1961年に設立された組織です。
トランプ氏に批判的なメディアに多額の資金を提供していたとして、政府の効率化を進めるDOGE 長官に据えられたイーロン・マスク氏が、そのUSAIDに対して、小さな政府を大義名分に、USAID 職員の97%を削減する方針を打ち出したのです。国内の職員1600人を削減するとともに、全世界に1万人以上いる職員の大半について休職に入るよう指示しています。
これに驚喜したのが、習近平中国です。
ほぼ解体に等しい合理化の対象となったUSAID の関係機関に、中国共産党の頭痛の種であるNED(国際民主主義基金)があったからです。
NED は、非民主的な政治体制が続いている国に民主主義を拡げるための資金を投入し、非人道的な事件を表沙汰にしたり、人権活動家を支援するのが主な仕事です。
中国との関係では、2009年に200人が死亡したウイグル事件や、2018~20年の香港騒乱の裏にNEDがあります。どちらも、言論と人権を求めて、中国政府の方針に逆らった政治的大事件でした。
中国のゼロコロナ政策を批判した「白旗デモ」も、背後に民主化デモを支援するNEDが存在していました。
台湾の独立運動でもNED が活躍し、中国政府を不安に追い込んでいます。
では、なぜトランプ大統領は中国に助け船を出したのでしょうか。
水面下で伝わる答えの1つが、習近平主席がトランプ大統領に「ウクライナ戦争を停戦させれば『ノーベル賞』に推薦する」と約束したご褒美だという説です。
初めは信じ難い話でしたが、トランプ大統領が同盟国であるEU、英国、カナダなどを敵に回すほどロシアびいきのやり放題を見ていると、事実に近いことは間違いなく、習近平主席のしたたかさはあっ晴れです。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、会談が40分になったころにトランプ大統領を暴発させたので、戦争が止まるかどうかは見通せなくなりました。
でも、非民主的な政治体制の国が民主主義の国になるように支援するNEDが解体されるのは確実で、中国は世界中で自由に活動できるようになります。