現地からの中国事情

米国が中国を大国にする

トランプ大統領の就任で、世界は変貌の時代に突入しました。米国の愛国心、民族主義、格差社会が弱者を攻撃しています。経済が疲弊している中国はどうなっていくのでしょうか。
写真はイメージです

 国内の対立を煽り、分断を世界に広げ、「米国第一」を掲げるドナルド・トランプ大統領の登場に世界は衝撃を受けています。
 最大の驚愕は、前時代的な「領土拡大」を掲げたことで、対米輸出国に高額な関税を課すと宣言したことも見逃せません。

中国には音無しの構え

 大統領選の最中は、中国は最大の過剰輸出で米国を貿易赤字にした元凶と断罪し、「60%関税」を課すと威圧していたのに、就任演説では「中国への関税」と「台湾有事」については、まったく触れず、中国に触れたのは、パナマ運河ついて説明したときの2回だけでした。
 これに、トランプ大統領の攻撃を覚悟していた習近平中国は心から「安心」したに違いありません。
 「60%の関税」を宣告されたら、消費不振が一段と進行し、少子高齢化が史上に例のない速さで進んでいるので、闇に伏せてきたデモ、地方政府襲撃、殺傷事件などが次々に表に出てきます。
 2月4日から10%の追加関税を課すことになりましたが、60%よりはましです。
 中国に対する不思議な対応の理由を、8年前に戻って探ってみます。

“喧嘩”は8年前に始まった

 8年前、第一次トランプ政権が発足すると、米国政府は世界最先端の5G 通信を追いかける中国の技術の進化を恐れ、華ハーウェイ為に象徴されるIT 企業の没落を画策して、知的所有権侵害を理由に最大で約50%の関税をかけました。
 ところが、習近平中国はトランプ大統領の口車に乗って素直に喧嘩を買い、締め出された半導体に代わって、米国からの農産物や牛肉などの輸入を“喧嘩”「倍返し」とばかり、ストップしました。
 しかし、米国との喧嘩は「失敗」に終わりました。農業大国の顔を持つ米国は、農畜産物を中国に輸出できないのは痛手ですが、世界的な天候不順や、農業大国のウクライナが輸出に手が回らくなったことで、輸出先には困らなかったのです。
 一方、中国は、産業に不可欠な半導体や素材の輸入が難しくなりました。

喧嘩 “上等”

 ところが、習近平中国はトランプの喧嘩外交に、「喧嘩“ 上等”」とまともに反応し、国家戦略の要である外交を「喧嘩」にエスカレートさせてしまったのです。
 これは中国史に残る「大失敗」です。
 もともと、改革開放後の中国の外交方針は国家として一流になるまでは「本音を隠して、目立たないように振舞う」という「韜光養晦とうこうようかい」が基本でした。
 ところが、中国は米国に対抗して恫喝や軍事的威圧も含めて闘う「戦狼外交」を始めたのです。「戦狼外交」は、米国だけでなく日本を含めた世界で繰り広げ、これらの国々との関係を著しく悪化させてしまいました。
 中国にとって先進国は、輸出市場というだけでなく、ハイテク技術を吸収できる“ 源泉” の地であり、最先端の半導体を輸入できる重要な国でした。その大事な国々を敵に回したので、中国は本気で世界第2位の経済国家から米国を超えた世界最大の大国になることを夢見ていたようです。
 しかし、第一次トランプ政権による中国攻撃は、中国経済を追いつめ、疲弊させ、経済構造の転換に打撃を与えたのです。

イジメが中国を鍛えた

 米国の8年に及ぶ中国“いじめ”もあって、不動産バブルが崩壊し、中国経済は歴史的な低迷期に入っています。
 しかし、見逃してはならないことは、第一次トランプとバイデンの2代に渡って、大統領が中国を“ いじめ” たにも関わらず、中国経済は米国に負けなかったことです。
 それどころか、米国の“ いじめ” が、過剰輸出という形で米国や先進国に跳ね返り、EV(電気自動車)では自動車王国の米国、EU、日本を追い越し、通信は5G を実現したうえ、6G 時代を先取りした展開を始めています。
 ドローンの実用化では世界の追随を許さないし、宇宙航空ではNASA を、旅客機分野ではロッキードを追い越した部分が出てきています。
 一方、米国はソ連邦の崩壊後、世界が「米一極」となって、米国中心のサプライチェーンを形成する中で、中国を「世界の工場」に仕立て、繁栄を謳歌しました。
 ところが、今は財政負担が重荷になって、世界各地での戦争や紛争に無関心になり、米国は世界に君臨する力がなくなりました。
 産業界に目を向けると、製造業はボロボロで、米国繁栄の象徴だった自動車は中国のEVに歯が立ちません。
 鉄鋼産業は中国の過剰輸出に悲鳴を上げていました。壊滅の足音さえ聞こえてくる中で、助け船に登場した日本製鉄を国家安全保障の立場からとして拒絶したので、鉄鋼産業の壊滅は、さらに近づきました。
 トランプ大統領が掲げる移民の強制送還が始まり、毎日、1000人を超える不法移民の強制送還が続くと、移民の多い地域では人が外に出なくなって、すでに街の経済はストップしています。
 製造業を支えているベテラン労働者は移民なので、製造業はさらに衰退します。
 米国を農業大国に押し上げているのは不法移民なので、農産物の収穫に支障が生じて大混乱が起こることは確実です。
 米国が警戒すべき普通の国になったので、不動産バブルが破綻して経済が疲弊しているのに、中国の世界での地位は、米国の上になっていきそうです。