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専用水道の調査結果
やる気見えないPFAS対策

全国各地の水道から有機フッ素化合物(PFAS)が検出される中、環境省は水道事業者に対する検査の義務付けを決めました。しかし、中身を見る限り、あまりやる気が伝わってきません。

「専用水道水」の調査結果を初公表

 3~4年前、発ガン性などが指摘されている危険なPFAS による地下水や土壌汚染がニュースになり始めたころ、良識ある一部の専門家は「全国規模での実態調査が早急に必要」と繰り返し警告しました。
 しかし、政府や自治体は「調査方法が確立されていない」などと言って、本格的な調査にはずっと及び腰。汚染源の企業も、社会的責任を果たすどころか、自治体の一部幹部らと密談を重ね、汚染の事実をひた隠しにしようとしました。
 それでも、汚染地域の住民が立ち上がって、自主的に血液検査をしたり、自治体に調査を要求したりし始めると、PFAS に関するニュースが一気に増え、国民の関心も高まっていきました。
 ここまで騒ぎが大きくなると、政府も何もしないわけにはいかなくなります。
 昨年12月24日、環境省と国土交通省は全国の「専用水道」の調査結果を初めて公表しました。
 専用水道は、水道法で規定された自家用水道で、商業施設や集合住宅、学校、社宅など比較的大きな施設で使用される水道のこと。多くは井戸を水源としています。主に自治体が運営する一般家庭向けの大規模な上水道とは、明確に分けれられています。
 両省は昨年5月以降、全国8177ヵ所の専用水道の設置者にPFAS の検査の結果報告を求めました。
 その結果、全体の約24%にあたる1931ヵ所の設置者が2020年4月以降、水質検査を実施したと回答し、そのうち11都府県の44ヵ所の専用水道から国が定めた暫定目標値(PFOS とPFOA の合計で1リットル当たり50ng =ナノグラム)を超える濃度のPFASが検出されました。

国民の知る権利に応えず

 国が管理する専用水道の中で最も濃度が高かったのは、福岡県の航空自衛隊芦屋基地で、暫定目標値の30倍に当たる1500ngが検出されました。
 他に特に濃度が高かったのは、陸上自衛隊東立川駐屯地(343ng)、航空自衛隊府中基地(245ng)、府中刑務所(204ng)、陸上自衛隊小平駐屯地(200ng)など。
 PFOS の入った泡消火器を使用している自衛隊基地の周辺からは、以前から高濃度のPFASが検出されているので、意外感はまったくありません。
 地域別に見ると、暫定目標値超えが最も多かったのは東京都で、断トツの23ヵ所。隣の千葉県や神奈川県と比べて専用水道の数が少なく、検査したと答えた設置者も少ないにもかかわらず、目標値超えが突出。
 都西部の多摩地区は自衛隊基地によるPFAS汚染地域で、その影響と考えられます。
 今回、暫定目標値を超えた設置者の名前が公表されたのは国が管理する施設のみ。
 それ以外は自治体から数だけ報告を受けたため、個別の名前までは把握していないと、環境省と国交省は述べています。
 これだけ騒がれているのに今頃調査をやる腰の重さもさることながら、施設名も非公開なので、国民の知る権利に応えているとは到底言えない、やる気のない調査報告でした。

以前と変わらない「安全基準」

 12月24日には、環境省からもう一つ残念なクリスマスプレゼントが国民に届けられました。
 それは、2026年4月から水道水中のPFAS濃度を、現在の暫定目標値から水道法の「水質基準」に格上げすると同省が決めたことで、24日の専門家会議で了承されました。
 水質基準に格上げされると、水道事業者は3ヵ月に1回の頻度でPFASの検査をすることが義務付けられ、基準値を超えた場合は、原因の特定や改善措置を命じられます。
 改善されない場合は、国交省が改善指示を出し、従わない場合は給水停止命令や罰則もあり得るということで、形式的には規制強化です。
 しかし、実質は、現状追認です。
 例えば、改善措置が命じられる基準値は、PFOS とPFOA の合計値で1リットル当たり50ngに設定されました。これは5年前に設定した現在の暫定目標値と全く同じです。
 この5年間で、海外ではPFAS の毒性に関する研究が進み、汚染の深刻な実態も明らかとなり、それを受けて規制強化が急速に進みました。
 例えばアメリカは、バイデン前大統領の時代に、それまでPFOSとPFOA 合わせて70ngだった飲料水の安全基準を各4ngに引き下げるなど、規制を大幅に強化しました。
 日本の「安全基準」はいまだに5年前の安全基準のままなのです。
 ただし、驚きはまったくありません。
 環境省が参考にした、内閣府食品安全委員会がまとめたPFASの「食品健康影響評価」も、5年以上前の論文に依拠してまとめられたものだったからです。
 ここでも、国民の健康を守ろうという姿勢はあまり見えてきません。

活性炭で除去

 国には頼れないので、PFAS 対策は自分でとるしかありません。
 水中のPFASは活性炭でかなり除去できることがわかっています。岡山県吉備中央町の深刻なPFAS汚染は、PFASを大量に吸着したまま野積みされた活性炭が直接の汚染源です。皮肉なことですが、このことからも活性炭の効果が証明されています。
 活性炭入りの普通の家庭用浄水器でも水道水中のPFASはかなり除去できます。特別に高価なものを使う必要はないので、悪質商法には騙されないでください。フィルターはこまめに取り換えましょう。