アメリカの市民生活

PFAS:汚染企業の責任追及

日本同様にPFAS汚染が深刻なアメリカで、汚染に関わった企業の責任を追及する動きが広がっています。企業の責任がほとんど問われない日本と対照的です。

テキサス州が3Mとデュポンを提訴

 12月11日、テキサス州のケン・パクストン司法長官は、有機フッ素化合物(PFAS)の製造企業である化学大手3Mとデュポンを州裁判所に提訴しました。
 訴状によると、両社はPFAS が環境や人の健康に深刻な害を及ぼす可能性を十分に認識していながら、そのことを消費者に情報開示せずにPFAS 製品を長年、州内で販売。これは不正な取引慣行にあたると主張しています。
 訴状は、具体的な製品として、3Mの汚れ防止剤「スコッチガード」、デュポンのテフロン加工の焦げ付かないフライパンや汚れに強い床材「ステインマスター」、などを挙げています。
 州は、PFAS への曝露は、高コレステロール、小児感染症のリスクの増加、生殖や発達への有害な影響、妊娠高血圧、出生体重の減少、精巣ガン、腎臓ガン、潰瘍性大腸炎、甲状腺疾患などとの関連があると指摘しています。
 パクストン長官は声明で、「テキサス州は、重要な情報を開示せずに州民をだまして製品を買わせた両社に対し、罰則を科し責任を追及する」と宣言。
 そのため、PFAS を含む製品の販売中止、健康・安全上のリスクの情報開示を両社に命じるよう求めています。
 さらに、州の不正取引慣行・消費者保護法違反1件につき最高1万ドル(約160万円)の制裁金を科す意向です。

コネチカット州は28社を提訴

 コネチカット州のウィリアム・トン司法長官は、昨年1月、PFAS を含んだ製品を製造・販売したことにより、州の水と天然資源を故意に汚染したとして、3M、デュポンを含む化学メーカー28社を一斉に提訴しました。
 訴状は、企業に対しPFAS によって生じた州内のすべての汚染の除去、PFAS の健康や環境への影響に関するすべての研究の公開などを要求。
 さらに、州法違反に該当する行為に、1日当たり数万ドル(数百万円)の制裁金を科すことや、PFAS 汚染への対応で州が支払ったすべての費用を補償することも求めています。 
 トン長官は「これらの企業は数十年前に真実を知りながら、証拠を隠蔽し、すべての州民に嘘をついてきた。そのせいで州は飲料水と天然資源の広範な汚染に対処するはめになった」と企業を厳しく批判しました。
 ミネソタ州では昨夏、3Mとデュポン、デュポンから分離したコルテバとケマーズに対し、集団訴訟が起こされました。
 訴訟理由は、4社が米国内で売られているカーペットに使用されているPFAS の健康上のリスクを隠蔽していたというもので、原告側は、汚染されたカーペットの除去と交換にかかる経済的損害と懲罰的損害の賠償を要求しています。
 原告資格は2020年以前にカーペットを購入し、所有する建物に設置した米国人全員としており、賠償金がかなりの額になる可能性があります。

日系企業も被告に

 訴訟の被告には日本企業のグループ会社も含まれています。
 ペンシルベニア州立大学が昨年6月にPFAS メーカーを相手取って起こした訴訟には、AGC(旧旭硝子)のグループ会社であるAGC ケミカルズ・アメリカが含まれています。
 訴訟は、政府によるPFAS 規制の強化によって、大学の施設内の水道水を定期的にサンプリング、分析、報告することが求められ、そのコストを「PFAS 含有製品を販売し、そこから利益を得た企業が負担する」よう求めています。
 アラバマ州に住む女性が昨年5月に起こした訴訟では、被告企業の中にダイキンのグループ会社であるダイキン・アメリカスと、東レのグループ会社であるトーレ・フロロファイバーズが入っています。これらの企業は環境汚染のリスクを認識していたにもかかわらず、PFAS を含んだ汚染水を、州内を流れるテネシー川に排出して汚染したと主張しています。

「 永遠の訴訟」

 『ニューヨーク・タイムズ』が昨年5月に掲載した記事の中で、ある弁護士は、企業を相手取ったPFAS 訴訟が今後、急増し、企業の負担は過去のアスベスト訴訟を凌駕して天文学的な金額になると予測しています。
 大手メーカーはすでに大きな代償を支払っています。
 3Mは2023年6月、PFAS 汚染水の検査や処理などにかかる費用として総額103億ドル(約1兆6000億円)を13年間支払うことで、同社を裁判に訴えていた関係自治体と和解したと発表しました。
 同月、ケマーズ、デュポン、コルテバの3社は、PFAS の除去費用として11億9000万ドル(約1900億円)を拠出することで水道事業者と和解しています。
 それでも訴訟は止まりません。PFAS は半永久的に環境を汚染し続けることから「永遠の化学物質」と呼ばれていますが、PFAS 訴訟はまさに「永遠の訴訟」と言えるかもしれません。
 対照的なのが日本です。
 全国各地の地下水や河川、水道水からPFAS が検出され、住民の間で不安が高まっているのに、汚染源の企業を特定し、責任を追及しようという動きは、行政も大手メディアもほとんどありません。
 「企業天国ニッポン」の“ 本領発揮” といったところです。