華麗なる一族
保健福祉省の次期長官に指名されたロバート・F・ケネディ・ジュニア氏は、父親がロバート・F・ケネディ元司法長官、伯父がジョン・F・ケネディ元大統領という華麗なるケネディ家の一員です。
もともと民主党員ですが、今回の大統領選に無所属で立候補。しかし、勝てる見込みがないとわかると、自身の政権入りを条件にトランプ、ハリス両陣営と水面下で交渉し、結局、条件を飲んだトランプ氏の応援に回りました。
それでトランプ氏の票がどれくらい上積みされたかは不明ですが、結果、トランプ氏が勝利し、約束通り、トランプ氏はケネディ氏を保健福祉長官に指名しました。
このサプライズ人事が、アメリカ社会に様々な衝撃を与えています。
第一の衝撃は、民主党のシンボルとも言えるケネディ家の一員が共和党政権入りするという、民主党から見れば大スキャンダルが起きたことでした。
第二の衝撃は、ケネディ氏がワクチン懐疑派として知られていること。
同氏は「ワクチンは安全性試験なしに認可される唯一の医薬品」、「安全で効果的なワクチンなどない」などと、ワクチンの安全性に繰り返し疑問を投げかけてきました。
そんな人物が国民の健康を預かる行政機関のトップに就いたら、国民の生命は守られるのかと、多くのアメリカ人が不安になるのも無理はありません。
もっとも、ケネディ氏自身は「自分はワクチン否定派ではない」と述べています。
食品バイオ業界は真っ青
第三の衝撃は、ケネディ氏が長年、農薬を含む化学物質や遺伝子組み換え技術などを食品から追放するよう訴え、弁護士として大企業と闘ってきたとことです。
これで衝撃を受けたのは、トランプ氏が大統領に復帰すれば、第一次トランプ政権のときのように、多くの化学物質の規制が緩和され、もっと自由に遺伝子組み換え食品を販売できるようになる、と大きな期待を寄せていた食品バイオ業界でした。
ケネディ氏の食品バイオ業界との闘いで記憶に新しいのは、除草剤「ラウンドアップ」をめぐる裁判です。
2018年8月、カリフォルニア州裁判所の陪審員は、「ラウンドアップ」を使用し続けたらガンを発症したとして開発元のモンサント社を訴えた40代の男性の主張を認め、モンサントに対し2億8900万ドル(現在の為替相場で約448億円)の支払いを命じる評決を出しました。
この裁判で男性の代理人を務めたのがケネディ氏でした。
その後、同様の裁判がアメリカ全土で始まり、モンサントと、モンサントを買収したドイツのバイエル社は大打撃を受けました。
食品医薬品庁を大改革
ケネディ氏は、国民の多くが望んでいるのに、農薬や遺伝子組み換え食品、食品添加物、超加工食品などがなかなか追放されないのは、保健福祉省の一部門で食品行政を担当する食品医薬品庁(FDA)が、食品業界の出身者に支配され、食品業界の言いなりになっているからと考えています。
そこで、保健福祉長官に就任したら、まずFDA の職員を大幅に入れ替える方針です。
それだけでなく、組織解体の可能性にまで言及しています。
また、農薬を含む化学物質を管理する環境保護庁(EPA)を実質的に保健福祉長官の配下に置く意向も示しています。
トランプ氏はケネディ氏を保健福祉長官に指名した11月14日、「国民の安全と健康を守ることはどの政権にとっても最も重要な任務であり、保健福祉省は、アメリカが健康の危機に直面している最大の要因である有害な化学物質、汚染物質、農薬、医薬品、食品添加物からすべての国民を守るために大き
な役割を果たすだろう」とXに投稿し、ケネディ氏への期待を表しました。
投稿の内容は一見、第一次政権のときに推進した政策と明らかに矛盾しています。しかし、1月に発足する第二次トランプ政権は、国家の行政組織の大改革を掲げているので、その点ではケネディ氏と足並みがそろっています。
また、トランプ氏にとって最も重要なのは、最終的に自分の利益になるかどうか。極端な話、国民が健康になろうと病気になろうと、知ったことではありません。
ケネディ氏を指名したのも、国民の健康を重視するからではなく、単に、選挙での勝利に貢献した見返りにすぎません。
日本に影響も
ケネディ氏が保健福祉長官に就任すれば、グリホサートやネオニコチノイドなど農薬の残留規制を強化するのは、ほぼ間違いありません。
遺伝子組み換え食品や食品添加物に対する規制も強化に向かう可能性大です。
そうなれば、影響は日本にも及びます。
しかし、ケネディ氏が予定通り、保健福祉長官に就任できるかどうかは極めて不透明な情勢です。
就任には議会上院の承認が必要ですが、承認を阻止すべく、すでに食品バイオ業界が業界の息のかかった議員にロビー活動を始めているとの報道が出ています。
無事、就任できたとしても、トランプ大統領と対立して辞任に追い込まれることも考えられます。トランプ氏は、自分に忠誠を誓わない相手には容赦ありません。
その場合、一転して食品バイオ業界のFDA支配が強まる可能性すら出てきます。
当分、ケネディ氏から目が離せません。