やさしい経済解説

「関税」が美しい?

2025年の世界と日本の経済はどうなるか?なかなか読めません。かく乱要因があるからです。

 かく乱要因とは、新年の20日に米国大統領に就任するドナルド・トランプ氏です。2期目になる、その経済政策も外交政策も、普通の人には読めないのです。
 大統領選の選挙公約ではいろんなことを言っていますが、とくに経済政策には矛盾するものが多く、真意をはかりかねます。
 たとえば、関税です。

インフレの原因に

 「タリフ(関税)、それは最も美しい言葉だ」、あるいは「辞書の中で最も美しい言葉は関税だ」とドヤ顔で話すニュース映像をテレビなどで見られたことがあるでしょう。
 実際、第1次トランプ政権では、関税を効果的な武器に使って、有利な”ディール(” 取引)を展開した実績があります。
 ところが、選挙公約の一つとしてあげたのは、西側の友好国からのものを含めて、すべての輸入品に一律10~20%の関税をかけること。ただし、中国からの輸入品には60%の関税をかける、と言います。
 輸入品にかかる関税は輸入業者が支払います。ということは、米国内での値段が上がることになり、最終的には米国の消費者が負担することになります。
 値段が上がることで、国内に新たな製造者が現れるか、海外に移った工場が戻ってきて、輸入を減らすことを期待するのですが、それがなければ、輸入品の値上がりでインフレが高進するだけ、ということになりかねません。

新しい間接税

 この輸入品への一律関税(基礎的関税)は、他の目的を疑う人もいます。
 というのも、この基礎的関税は、所得減税とセットになっているからです。第1次トランプ政権が行った所得減税の期限がまもなく切れるのに対し、減税を恒久化しようと、もくろんでいるのです。
 基礎的関税は、輸入品には限られますが、日本の消費税や欧州諸国の付加価値税(VAT)のような、間接税と同じ効果をもつと考えられるのです。
 米国の連邦税は伝統的に直接税が中心で、間接税はほとんど採用していません。直接税である所得減税の財源を、関税を利用した間接税で賄うということのようです。
 減税の中身は、最高税率の引き下げや相続税の基礎控除の拡大などですから、逆進性の大きな、持てる人たちに有利な税制に換えようという意図が感じられるのです。


米国の関税率と関税税収 期間:2000〜2023年

麻薬にこじつけ

 だからといって、他国とディールを行うときの武器として、関税を使うのを止めたわけでもなさそうです。
トランプ次期大統領は、11月末にSNS で、中国からのほぼすべての輸入品に10%、カナダとメキシコからの輸入品には25%の追加関税を課すと発表し、1月の就任初日に大統領令にサインすると言明しました。
 理由は、中国からメキシコやカナダを経由して、「フェンタニル」という合成麻薬が米国に流入しているからだとか。
 追加関税を課された3国を見て、あることに気が付いたエコノミストがいます。
 「こじつけだろう」と。
 米商務省の貿易統計によると2023年の輸入額(財)の国別比率は、1位メキシコ14.7%、2位が中国13.1%、3位カナダ12.7%。3国は、米国の輸入額でトップ3というわけで、貿易赤字を減らしたいのです。
 わかりやすい。
 同統計によると、2023年の米貿易赤字は1割ほども縮小しています。米中対立を反映してか中国からの輸入が前年比で約2割も減少。輸入全体に占める国別割合で、15年ぶりにメキシコに抜かれて、首位から陥落しました。
 米国はメキシコ、カナダとUSMCA協定を締結しています。それで、中国製の部品を使った自動車がメキシコ、カナダで完成品に組みたてられ、米国に関税なしで入ってくることが、トランプ氏をいら立たせているといいます。
 中国からの” 裏口輸入”と言われたりするメキシコ・カナダ経由の輸入をさらに絞り、貿易赤字をもっと減らしたいということなのでしょう。

次は日本も

 でも、笑っている場合じゃない、というのが、トランプ氏の追加関税の使い方に気がついているエコノミストの忠告です。
 トランプ氏が打ち出す追加関税策が、 これで終わりとは考えられないからです。
 とりわけ、カナダ、メキシコという米の友好国も対象になったことは重要です。
 なにしろ、米国の輸入額で、カナダに次ぐ4位はドイツ、5位は日本なのです。6位の韓国まで、いつターゲットにされてもおかしくありません。
 だから、追加関税が発表された後、日本では株価が下がり、為替は円高に振れました。
 やっぱり、かく乱要因です。