教えて!寺澤先生COLUMN コラム

病気の治療、性差に注意

ミニスカートで素足の女性が冬にいるように、病気に男女差があり、性差に基づいた病気の診断や治療の必要性が求められています。
「性差医療」と呼ばれ、近年、注目を集めています。

女性は臨床試験から除外されていた

 男と女は生物学的に違うのだから、かかる病気の種類も違うし、治療方法や処方薬が違うのが当たり前だと思いがちです。
 ところが、つい最近まで、当たり前ではなかったのです。
 これには歴史的な背景があります。
 例えば従来、多くの臨床試験は男性を主な対象として実施されてきました。女性は妊娠やホルモン変動などの要因で研究対象として扱いづらいとされてきたことが一因です。
 日本性差医学・医療学会のホームページに出ている情報によれば、サリドマイドなどの薬害の影響で、1977年以降、世界中で妊娠可能な女性は薬の臨床試験から除外されてきました。
 1990年以降になってやっと女性に対する臨床試験が再開されましたが、その結果、同じ病気でも男女で異なる経過をたどることや、薬物に対する反応の差異が想像以上に大きいことなどが次々とわかってきたのです。
 性差医療を研究する学問を性差医学と呼びます。では具体的に、男女でどんな違いがあるのか見て見ましょう。

高血圧・心筋梗塞

 高血圧の女性が心臓病を発病する確率は男性に比べて25%高く、死亡リスクは男性の2倍です。
 一方、「急性心筋梗塞登録」に登録された2万462人の患者を調べたら、男性の入院患者は1万5,281人で、女性の5,181人の約3倍です。ところが、入院から30日以内に死亡した割合は、女性が男性の約2倍となっていました。
 女性の方が死亡率が高い要因の一つは、症状が表れてから治療にかかるまでの時間が女性のほうが長く、手遅れになりやすい状況になっていると考えられます。
 これは心筋梗塞の痛みなど男性に多い症状が、女性では軽いため、診断が遅れるからではないかと言われ、血液検査で測定するバイオマーカーの値も男女で異なり、女性には使えないと言われています。
 また、心筋梗塞の予防で服用するアスピリンは男性には有効ですが、45~65歳の女性には効果がないとわかっています。
 しかも、大多数の女性には有害であるといわれているのです。
 幸い私の周りでは、アスピリンを服用している女性を見たことはありません。

大腸ガン

 大腸ガンは男女ともに症例数1位、2位を占める頻度の多いガンで死亡率にもあまり差はありませんが、できやすい部位が男女で異なります。
 女性は男性に比べて結腸(大腸の大部分)が長く、右上行結腸にガンが多い傾向があります。大腸内視鏡検査の最も深部なので、発見は簡単ではありません。
 男性は左下行結腸のガンが多く、発見が比較的容易です。
 女性は外来でスクリーニング検査として行われる便潜血検査で陽性率が低い傾向があります。女性の大腸ガンは浸潤性が強いので転移しやすいのも特徴です。男性に比べて早期発見が難しく、予後もあまりよくない傾向があります。
 他の病気を考えると抗ガン剤の効き方も同じではないかもしれません。薬の効果を試す治験には男女別の検討が必要です。

過敏性腸症候群

 命にかかわることはありませんが、過敏性腸症候群は毎日繰り返される下痢・腹痛で生活の快適さが失われます。男性に多い印象があるかもしれませんが、女性は男性の2倍の頻度です。
 この差は、大腸の内容物輸送機能・水分輸送機能と、大腸の痛覚伝達神経の働きに男女で差があるためと考えられています。
 特効薬のラモセトロン塩酸塩(イリボー)は下痢と腹痛を即効性で緩和します。
 しかし、効果には男女差があり、用量は男性は5μg、女性は2.5μgと定められています。女性は男性と同じ量では効きすぎて便秘になるため、半量なのです。
 便秘の治療に使用する漢方薬でも性差をしばしば実感します。
 女性は「桃核承気湯(とうかくじょうきとう)」や「桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)」と「通導散(つうどうさん)」の併用で、ほぼ100%の効果を実感できます。
 男性では排便はあるものの、今一つ患者さんの評価がよくありません。

社会的・心理的な要因

 性差医療は、生物学的な違いだけでなく、社会的・心理的な要因も考慮します。
 例えば、女性はストレスやうつ病を訴える割合が高い一方で、男性は症状を表に出さない傾向があるため、診断や治療のアプローチが異なります。
 また、社会的役割やライフスタイルの違いが健康状態に影響を与えることも多く、これらを包括的に捉える必要があります。

性差医療の現状と課題

 性差医療は近年注目され、研究や臨床現場での導入が進んでいますが、依然として課題も残っています。
 第一に、性差を考慮した臨床試験やデータの蓄積が十分ではないこと。
 第二に、医療従事者の知識不足や偏見により、性差を適切に診断・治療に反映できていないケースがあること。さらに患者自身も性差医療の重要性を理解していないことが多く、啓発活動が求められています。