
成人の4割が肥満
本誌に何度も書いてきましたが、アメリカは世界トップクラスの肥満大国です。
成人の約4割、つまり5人に2人が BMI 値30以上の「肥満」判定。
最近は、プロ野球大リーグの試合をテレビで観戦する日本人もたくさんいるようですが、テレビに映し出された観客の体型を見て驚く人も多いかと思います。
アメリカの肥満化が急速に進み始めたのは1980年代。偉大な大統領と言われ、トランプ現大統領も尊敬するレーガン大統領が2期8年にわたりアメリカ社会を大きく変えた時代でした。
レーガン大統領は外交面ではソ連との冷戦を終結させて核戦争を防いだと評価されていますが、国内政治に目を転じると、負の遺産が目立ちます。
その一つが、肥満化の進行でした。
経済界の支持を受けたレーガン氏は経済活動の規制緩和を大胆に進めた結果、ジャンクフードが雨後の筍のように次から次へと登場し、市民の食生活を大きく変えました。
また、福祉予算の大幅な削減を断行した結果、貧困層が増加。貧しい人たちは食生活を値段の安いジャンクフードに頼らざるを得なくなり、貧しい人ほど太るという先進国型肥満の先駆けとなりました。
こうして進み始めた肥満は、歯止めがかからなくなりました。「肥満は万病の元」と言われるように、糖尿病や高血圧、心疾患、ガンなどさまざまな病気をもたらします。
最近、アメリカ人の平均寿命が短縮していますが、これも肥満が一因と言われています。
対策をとろうとしなかったわけではありません。
オバマ政権時代には、ミッシェル・オバマ大統領夫人が音頭をとって子どもの肥満対策に取り組みましたが、目立った成果は上げられませんでした。
肥満問題に取り組む専門家や市民団体はジャンクフードの広告規制を政府に繰り返し要請しましたが、食品業界の政治力が勝り、実現しませんでした。
3年連続で低下
もう打つ手がないと諦めかけていたところに彗星のごとく現れたのが「オゼンピック」
や「ウゴ―ビ」など最新の肥満症薬でした。
それらの効き目を裏付けるようなデータが次々と出てきています。
調査会社のギャラップが10月末に発表した最新の調査結果によると、今年の全成人人口に占める肥満人口の割合(肥満率)は37.0% となり、2022年の39.9% から3年連続で低下となりました。
肥満調査は2008年から継続的に行っていますが、肥満率は2010年から2011年にかけての微減(0.5ポイント)を除いて一貫して上昇。2022年が過去最高でした。
肥満率低下の最大の原因として同社が指摘するのが、肥満症薬でした。
オゼンピックやウゴ―ビなど肥満症に効く「GLP-1受容体作動薬」を過去1年以内に減量目的で服用したか聞いたところ、はいと答えた割合は12.4%。初めて調査した2024年2月の5.8%から2倍以上に増えました。
肥満率の低下は女性のほうが男性に比べて顕著でしたが、肥満症薬の服用率も女性は15.2% と男性の9.7% を大きく上回りました。
年齢別の比較でも、肥満率の低下幅と肥満症薬の服用率はほぼ相関関係が見て取れました。
ギャロップは報告書の中で、現在13州が低所得者向け公的医療扶助制度「メディケイド」のGLP-1受容体作動薬への適用を認めているが、より多くの州が認めるかどうかは「最近の肥満率の低下が持続的な傾向となるかどうかを左右する重要な要素となる可能性がある」と今後を占っています。
反転を期待
ハーバード大学・医学大学院のジョン・ブラウンスタイン教授らが2024年12月に、査読付きオンライン学術誌「JAMA ヘルスフォーラム」に発表した研究論文も同様の傾向を示しています。
研究は、継続的にデータを提供している国内のすべての医療機関の医療費請求情報や保険請求情報などを使い、2013年1月1日から2023年12月31日の間の、成人の BMI 値の変化を調べました。
その結果、BMIの平均値は、2011年まで毎年上昇していましたが、2022年には横ばいとなり、2023年に初めて下がりました。
論文は、BMI値が最も顕著に下がったのは米南部地方だったが、同地方は 肥満症薬の1人当たり調剤率が最も高かったと記すなど、やはり肥満率の低下と肥満症薬の関係を示唆しています。
その上で、「肥満は依然として公衆衛生上の大きな問題だが、研究で確認された肥満率の低下は長期にわたる増加傾向の反転を期待させる」と結んでいます。
諸手を挙げては喜べず
政府の疾病対策センター(CDC)が2024年9月に公表した最新のデータによると、2021年から2023年の間(2021-2023年)の成人の肥満率は40.3%でした。
肥満率は2013-2014年が37.7%、2015-2016年が39.6%、2017-2020年が41.9% と右肩上がりでしたが、今回初めて低下に転じました。
ただ、今回かりに肥満率が本当に低下に転じたとしても、肥満率自体は依然、非常に高水準です。また、重度の肥満患者は増加に歯止めがかかっていません。薬には副作用のリスクもあり、実際に肥満症薬を服用して副作用に苦しんでいる人も大勢います。
諸手を挙げては喜べない状況です。