花粉症の時期は過ぎましたが、来年の春以降に備えて、今回は花粉症の話をします。なぜなら地球温暖化の影響で、花粉症の時期が広がり、症状も年々、悪化しているからです。

交差反応に注意
今年の秋は、問診で、野菜や果物のアレルギー症状を訴える患者さんが目立ちました。
モモやナシ、リンゴを食べて、口内炎、のどの違和感・痛みを感じるなどの症状が出ていました。「その症状は花粉症と関係があります」と指摘すると、「そういえば、鼻水やくしゃみ、目のかゆみがあります」と気づく方もいます。
患者さんの中には、春の一時期、トマトアレルギーの症状が出た人もいました。原因は、スギ花粉とトマトの「交差反応」です。
交差反応とは、ある物質に対する反応が、構造や性質が似ている他の物質にも同様に起こる現象を指します。
主に医療や生化学の分野で使われる用語で、特に免疫学やアレルギーの分野で重要な概念です。
例えば、花粉症の人が特定の果物を食べると口がかゆくなったり腫れたりすることがあります。これは「花粉・食物アレルギー症候群」と呼ばれる交差反応の一例です。
スギ花粉にアレルギーがある人は、トマトやリンゴ、桃などの果物にも反応することがあります。
これは、スギ花粉とこれらの果物に含まれるタンパク質の構造が似ているため、免疫系が同じように認識してしまうからです。
トマトアレルギーを訴えた患者さんは、まさにこれでした。患者さんはもともとスギ花粉症でした。だから、トマトを食べたときに交差反応が起きて、アレルギー症状を起こしたのです。
スギ花粉が飛んでいない時期は交差反応が起きないので、トマトを食べてもアレルギー症状は出ません。だから、気付きにくいのです。
まれにアナフィラキシーショックも
秋の花粉症の原因は、ヨモギやブタクサ、セイタカアキノキリンソウなどです。
このうち、ヨモギ花粉症と交差反応を起こしやすい野菜や果物は、セロリ、ニンジン、パプリカ、コショウ、ニンニク、マスタード、モモ、マンゴーなどです。
交差反応で唇が腫れ、舌がピリピリして、のどがイガイガするなど「口腔アレルギー症候群」と呼ばれる症状が出ることがあります。
重症になると、じんましん、腹痛・下痢・嘔吐などの症状が出ます。まれに血圧が下が
ってアナフィラキシーショックが起き、命にかかわることもあります。
だから、花粉症を軽く見てはいけません。
温暖化の影響で悪化
地球温暖化の影響で花粉症は年々、悪化する傾向にあります。
温暖化で気温が上がると、植物の成長が促進され、花粉の生産量が増え、花粉の飛散量が増加するからです。
冬の寒さが緩和されることで、スギやヒノキなどの樹木がより多くの花粉を放出しやすくなるのです。
花粉の飛散時期の拡大も、飛散量の増加に貢献します。気温が高くなることで、花粉の飛散開始時期が早まり、飛散終了時期も遅くなる傾向があります。これで花粉症に悩まされる期間が長くなるわけです。
温暖化によって、今まで花粉症の原因となっていなかった植物が成長しやすくなり、新たな花粉源となる場合もあります。
雑草や外来植物が繁殖し、花粉症患者の増加につながることがあるのです。
都市部ではヒートアイランド現象により気温がさらに高くなりやすく、花粉の飛散量や飛散期間が長くなる場合があります。
また、大気汚染物質と花粉が結びつくことで、アレルギー症状が悪化することは、以前から報告されています。
日本で多いスギ花粉は、前年の夏に気温が高いと、翌年の春の飛散量が増加する傾向があります。今年の夏は暑かったので、来春の飛散量は増える可能性があるのです。
舌下免疫療法
スギ花粉症の治療には、「スギ花粉舌下免疫療法」が有効です。
2014年に保険適応になっています。
効果は数ヵ月後から現れ、患者の7割程度が効果ありと判断されて、薬を必要とすることがなくなる例もあります。
ある患者さんが、「舌下免疫療法を3年以上続けているが、あまり効果が出ない」と訴えてきたことがありました。
その患者さんは、スギ花粉症の他に、ハンノキやシラカンバの花粉症も陽性でした。
最初の診察時にハンノキやシラカンバの検査をしていなかったのです。
舌下免疫療法は、残念ながら65歳以上は効果が少ないのです。それで、高齢者にはあまり行われていません。
秋に花粉症を起こすキク科のヨモギなどの舌下免疫療法はまだありません。
ですから秋の花粉症は、抗アレルギー剤、点鼻・点眼薬を併用して、花粉の時期を乗り切らなくてはなりません。
漢方薬も有効です。どの植物の花粉であろうと、漢方薬は同じように効きます。
鼻水・目ヤニには、「小青竜湯」(ツムラ19)、「越婢加朮湯 えっぴかじゅつとう」(ツムラ28)がよく効くので、症状が出たら、試してみてください。
また、果糖を摂取しすぎると、アレルギーの症状が悪化することがあります。
果糖は、甘い清涼飲料に使われていることがありますし、リンゴ、ブドウ、スイカなどの果物類、ハチミツなどに多く含まれているので、飲み過ぎ、食べ過ぎに注意しましょう。