自給自足、移動は馬車

アーミッシュはキリスト教系宗教共同体の一つで、伝統的な生活様式と厳格な信仰の実践で知られています。
もともとは今のドイツのあたりで暮らしていましたが、18世紀初め、宗教迫害や経済的困難から逃れるため多くがアメリカに移住。
現在は約40万人がペンシルベニア州やインディアナ州など北東部や中西部を中心にコミュニティーを作って暮らしています。
伝統的な生活様式を頑なに守っているので、照明にはランプやガス灯を用い、電気は使いません。テレビやインターネットなど、もってのほか。移動には自動車ではなく馬車を利用します。
平和主義を貫き、戦争や武器の使用を拒否することでも知られています。
食べる物は自給自足。ですからみんな農場を持っています。当然、石油から作る合成農薬や化学肥料は、伝統的な生活とは相容れないので、使いません。
現代社会を基準にすれば非常に特異な集団ですが、文明を一切否定しているわけでもなく、外部との接触を一切絶っているわけでもありません。実際、アーミッシュの暮らしぶりを知りたいという観光客を受け入れたりしています。
ですから、医学的な研究にも進んで協力してきました。
その結果、喘息やアレルギーに苦しむ子どもたちが全世界的に急増している中、なぜアーミッシュの子どもたちは喘息やアレルギーの子が非常に少ないのか、その原因が徐々にわかってきたのです。
幼少の頃から家畜と接触
原因については、おそらく農作業や家畜の飼育と関係があるのでは、と専門家でなくても容易に想像がつきます。
実際、アーミッシュに限らず、農場暮らしをすると喘息やアレルギーにかかりにくくなるということは、今や世界の研究者の間では常識です。
日本でも、大都会から田舎に引っ越したら子どもの喘息の症状が改善したとか、アレルギーが治ったという話をよく耳にします。
しかし、アーミッシュは同じように農場暮らしをしている他のグループとの比較でも、喘息やアレルギーの子が明らかに少ないのです。それが多くの研究者を惹きつける理由です。
シカゴ大学などの研究チームが10年ほど前に、アーミッシュと似たような生活をしているフッター派と呼ばれるキリスト教のグループと、アーミッシュの比較調査をしたところ、アーミッシュはフッター派と比べて喘息の子どもの数が非常に少ないことがわかりました。
アーミッシュもフッター派も先祖はドイツ系で遺伝子的にほぼ同じ。最大の違いは、アーミッシュの子どもは非常に幼い頃から畜舎に入って家畜の世話をするのに対し、フッター派の子どもは12歳前後になって初めて家畜と日常的に接触し始めるということでした。
腸内細菌叢とも関連
研究チームはその後、アーミッシュの家の中の塵を分析したところ、多種多様な微生物がおびただしい数で存在し、その塵を吸い込ませたマウスは、アルゲンに晒されても喘息の症状が非常に軽いという結果が出ました。
現在、塵の中に存在する喘息やアレルギーを防ぐ物質の特定を進めています。
最近の分析で、農場に漂う塵の中に、微生物や植物が生産する分子を運ぶ役割を持つタンパク質を発見しました。
微生物や植物が作る分子を満載したタンパク質を鼻や口から吸いこむと、分子が気道の表面を覆う粘液に付着し、気道の炎症を防ぐための環境が形成されると、研究者はワシントン・ポスト紙の取材に答えています。
別の研究チームは2021年、ニューヨーク州の農村地帯で暮らすオールド・オーダー・メノナイト派の乳児65人と、近隣の都市や郊外に住む乳児39人の腸内細菌叢を比較する実験をしました。
メノナイト派はアーミッシュと同様、伝統的な農耕生活を送るキリスト教系宗教共同体です。
実験の結果、メノナイト派の乳児では、アレルギー疾患の予防と関連があるとされるビフィズス菌の一種、ビフィドバクテリウム・インファンティスが4人に3人の大腸に定着していたのに対し、比較対象の乳児では、同菌が定着していたのは5人に1人でした。
共通項は有機農業
アーミッシュとメノナイト派に共通するのは、どちらも昔ながらの有機農業を実践している点です。
農薬は人にも直接影響を与えますが、植物の表面や土の中で暮らしている人に有用な微生物も殺します。むしろ、影響の度合いから言えば、人への直接の影響よりも微生物への影響のほうがはるかに大きいでしょう。
同じことは、殺虫剤や殺菌剤だけでなく、除草剤にも言えます。
有機肥料は土の中の微生物の餌となり、土壌の微生物叢を豊かにしますが、化学肥料は植物の成長を早めるだけで、土壌には何のメリットももたらしません。
つまり、農薬や化学肥料をふんだんに使う現代農業は、自然界の微生物を殺し、それが喘息やアレルギー疾患の子どもを増やしているとも言えます。アーミッシュの研究はそのことを教えてくれています。
現代の生活に慣れた私たちが電気も車も使わないアーミッシュの暮らしをすることはあまり現実的ではありませんが、農薬も化学肥料も使わない食生活をすることなら、簡単にできます。