教えて!寺澤先生

夏のむくみに注意

猛暑が続き、むくみの出ている人が増えています。むくみには、内臓疾患が隠れていることがあります。水を飲むように言われますが、水にも危険が潜んでいます。

 厳しい暑さが続いているので、熱中症が増えています。頭痛・腹痛・熱で受診し、診察中に吐いてしまう重症の人もいます。
 熱中症対策として1日に2ℓほどの水分が必要と言われて、のどが渇いてないのに、塩分が少なく糖分の多いスポーツドリンクを多量に飲むと、血糖値が上昇し、ナトリウムが低下して、むくみや倦怠感の原因になります。
 水だけを飲んでいると塩分が足りなくなり、低ナトリウム血症でけいれんを起こす人もいます。

五苓散ごれいさんが効く

 すねに靴下の痕が出る、脛を指で押すと圧迫痕あっぱくこんが残る、夕方から靴がきつくなる、体重が急に増えた、などでむくみを実感して受診する人もいます。
 脛に圧迫痕があって受診した男性は、むくみの原因が不明でした。心臓、腎臓、肝臓などの病気はなく、尿の量は変わりがないのに、体重が急に増えたのです。
 内臓の病気がないことを確認できたので漢方薬「五苓散ごれいさん」を数回飲んでもらったら、一晩で体重が1.5kg減り、むくみがなくなりました。
 「五苓散」は、「水滞」の治療薬です。
 水滞とは、体における過剰水分の貯留、または水分の偏在によって、全身または局所に水分過剰が発生したものです。
 五苓散の適応症は、頭痛、嘔吐、腹痛、下痢、むくみ、暑気あたり(夏ばて)などで、即効性があり、一服で改善することもあります。
 水分の過剰だけでなく、不足にも効果があります。片寄っている体内の水分をバランスよく配分するからです。
 脳にむくみが起きて頭痛が出ているときは、五苓散が脳の水分を排出して、むくみが抑制され、頭痛が消えます。だから、脳神経外科ではしばしば処方されます。
 五苓散は体質に関係なく誰でも使用できて、副作用もありません。
 水滞に効果のある漢方薬は、他に、苓桂朮甘湯りょうけいじゅつかんとう苓姜朮甘湯りょうきょうじゅつかんとう真武湯しんぶとう猪苓湯ちょれいとう越婢加朮湯えっぴかじゅつとうなどがあります。

危険なむくみ

 一筋縄ではいかないむくみもあります。
 肝臓病、腎臓病、心臓病、甲状腺の病気がある場合は治療が必要です。
 高齢者のむくみでは、栄養不足で血液のたんぱく質が不足していることがあります。
 たんぱく質のアルブミンが下がっていると、消化・吸収力が低下して認知症のリスクが高まります。
 アルブミンは肝臓で合成します。肝臓の病気でアルブミンの合成能力が下がれば、直ちに血清アルブミンが低下します。肝硬変、肝臓がんがその代表です。
 腹水がたまり、お腹が張ってきて苦しくなってから受診される方がいます。肝硬変まで至っていたら、薬で改善することはありません。
 アルブミンが腎臓から漏れ出れば、血清アルブミンは低下します。尿にたんぱく質が多いと泡立ちます。ネフローゼ症候群がその典型です。
 血液検査では、アルブミンが低下すると、コレステロールが高くなります。
 治療でたんぱく尿がなくなれば、むくみは改善します。
 心臓が病気でポンプとしての力が低下していると、末梢血管に血液がいきわたらず、日中は足に、就寝後は顔面、特に瞼まぶたがむくみます。心臓が悪くなると、動機、息切れ、疲労感が強くなり、いくら休息しても疲れが取れず、生活全般に支障が現れます。
 強心剤と利尿薬で症状は改善します。
 甲状腺の働きが悪くて起きたむくみは、腎臓、肝臓、心臓が悪いときと違って、寒がり、脱毛、便秘皮膚の乾燥、生理不順などが起きます。
 首の前にある甲状腺は腫れないこともあるので、血液検査で甲状腺刺激ホルモン(TSH)とFT4を測らないと診断がつきません。
 甲状腺ホルモン剤を内服すると、短時間で改善します。
 ヨウ素の摂り過ぎが、甲状腺の働きを悪くしていることもあります。

むくみに早く気付く

 体重を毎日測ることはそんなに大変なことではありません。赤ちゃんだったら週に1回くらいは測ります。
 むくみは体重を定期的に測ると、より早く気づくことができます。最低でも1ヵ月に1回は体重を測りましょう。
 精神科病棟でしばしば遭遇するのは「水中毒」です。水で中毒になるとは、精神科薬の副作用で強い渇きを感じて、短時間の間にトイレの水、流しの水を数リットル飲み、体重が数キログラム増えて意識障害になる病態です。
 水を飲みすぎると、血液のナトリウムが極端に低下します。その結果、脳にむくみが出て意識障害が出ます。数日かけてゆっくり食塩水を点滴します。急いで点滴すると脳細胞が壊れて死んでしまいます。
 それで施設・病院では頻繁に体重を測定し、のどが乾いたらすぐ飲めるように飲み物を用意し「水中毒」を予防しています。
 市販の清涼飲料水を多量に飲んで起こるペットボトル症候群は、高血糖と低ナトリウム症になり、むくんで痛風を発症するものです。
 以前は若者だけでしたが、今は全年齢で発症します。
 猛暑の夏には、手作りで砂糖抜きの薄めの食塩水を準備しておいて飲みましょう。