教えて!寺澤先生

体調不良の原因は甲状腺?

甲状腺は他の臓器に比べるとあまり関心を持たれない存在ですが、異常をきたすと死につながることもある重要な臓器です。体に異変を感じたら、まず甲状腺を疑い、早期に検査しましょう。

女性の1割が原因持ち

 歌手で俳優のいしだあゆみさんが甲状腺機能低下症で3月に亡くなりました。76歳でした。死因としては滅多に公表されることのない病気なので話題になりました。
 甲状腺機能低下症の症状はさまざまです。
 ネット検索すると、典型的な症状として、無気力、疲労感、むくみ、寒がり、体重増、動作緩慢、脱毛、爪が脆い、などが列記されています。
 しかし、実際には個人差が非常に大きく、特に初期は疲労感だけで、他の症状がないことが多く、家族の誰かが甲状腺の病気を患っているので、心配して検査を受けたら判明した、ということもあります。
 最近も、娘の甲状腺異常を心配して受診したときに、母親の体調不良が話題になり、母親が血液検査と甲状腺のエコー検査を受けて、機能低下症が明らかになったという例がありました。この母親は自己抗体も陽性で橋本病でした。
 ホルモン剤を飲み始めて間もなく、疲労感は軽快し、長年下がらなかった血圧も正常になりました。
 免疫異常を起こし、甲状腺を攻撃する自己抗体は、中高年の女性の10人に1人が持っているといわれています。
 閉経や、家族の受験、結婚などのストレスが甲状腺機能低下症の誘因となったり、更年期障害と誤認されている場合もあります。
 通常の健診項目に、尿検査、血圧、血糖値や肝機能検査、尿酸、貧血などの検査はありますが、甲状腺の項目はオプションです。自分で選ばないと検査はできません。50歳になったら、ぜひ検査を受けてください。
 その他、精神科の薬の副作用で、検査で甲状腺機能低下の結果が出ることがしばしばあります。その場合は主治医に相談してください。

人が変わる甲状腺機能亢進症

 5月4日、俳優で歌手の広末涼子さんの病気が双極性障害と甲状腺機能亢進症だったと報道されました。
 甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されて、脈が速い、疲れやすい、動悸、手が震える、手足に力が入らない、暑がり、汗っかき、微熱、体重減少、下痢・軟便、イライラなどの症状がみられます。
 全身の代謝が亢進して気分が動揺を始めると、うつ状態と躁状態を繰り返し、仕事上のトラブルが頻発して、周囲の人が違和感を持つようになります。
 広末さんは4月に、車を運転中に事故を起こし、搬送された病院で、看護師に暴行したために違反薬剤の使用も疑われ、警察に起訴されそうになりました。
 以前から奇行があり、何度もマスコミをにぎわせていました。そのときに気づいてあげると良かったのです。
 本人も、気分の変化の理由がわからず、苦しんで非常につらかっただろうと、容易に想像されます。
 甲状腺機能亢進症は遺伝性、家族性が多く、祖母、母、孫が次々に発症して、そこで家族が気づくことがあります。
 家族性でない場合は気づくのが遅くなり、激やせや躁状態で、やっと気づかれる例もあります。
 診断確定後は専門医に診てもらい、長期間の薬による治療が必要です。
 一旦治癒して薬が終了したとしても、再発は稀ではありません。定期的な受診が必要です。また治療後は機能低下症になることもあるので甲状腺ホルモン剤を服用するようになります。

亢進と低下、両方の症状が出ることも

 甲状腺機能亢進症と甲状腺機能低下症の両方の症状が現れるのが、亜急性甲状腺炎で、経験したことのない強いのどの痛みと倦怠感が主な症状です。甲状腺エコー検査のプローブが当てられないほど強い痛みを首に感じる場合もあります。
 のどが赤くなるわけではないので、耳鼻科でさえも急性咽頭炎などと診断し、鎮痛剤だけ処方されることがあります。
 血液検査では、炎症反応を示す血清CRPが非常に上昇し、甲状腺の検査では機能亢進症の所見を示します。
 治療には副腎皮質ステロイド剤を用います。
 2~3ヵ月服用して炎症が収まってくると、検査結果は機能低下を示すようになります。
 治療終了後に、甲状腺にのう胞が残る例がありますが、甲状腺機能の異常は回復します。

まず疑うことが重要

 甲状腺の病気を疑ったら、まず血液検査を受けましょう。甲状腺刺激ホルモン、甲状腺ホルモン、甲状腺自己抗体の検査は診療科によらずどこでもできます。
 甲状腺ホルモンの働きは全身に及びます。
 細胞の新陳代謝の促進、交感神経の刺激と、成長や発達の促進です。
 甲状腺ホルモンは新生児のマススクリーニングでも検査します。
 甲状腺ホルモン不足を放置すると、成長が遅れ、知能発達も遅れるクレチン症と呼ばれる病気になるからです。できるだけ早くからホルモン剤を服用すると、正常児と差がなく成長します。
 私は甲状腺について質問を受けると、以下のように答えています。
 甲状腺ホルモンは「ホルモンの王様」で、これがないと成長も新陳代謝も止まります。
 オタマジャクシから甲状腺を摘出すると、カエルになれません。
 日本人は食事から甲状腺ホルモンの生成に必要なヨウ素を十分に摂取できていました。
 ただし、ヨウ素を摂り過ぎると、甲状腺が腫れたり、ガンになったりします。
 これからは、ヨウ素不足の人も出て来るので、甲状腺にもっと関心を持って生活してほしいと思います。