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下水排水に肥料成分を残させよう―「汚泥肥料の規制」委員としての体験―

 海苔、牡蠣が採れない原因の1つは、下水処理場で水を処理し過ぎていること。
 そのため瀬戸内海や有明海では、微生物や植物が利用している海水の栄養が減り、海藻や貝類、魚が減っています。
 下水処理と関係が深いのが汚泥肥料です。
 私は農林水産省の「汚泥肥料の規制のあり方に関する懇談会」の委員を2008年から2009年にかけて務めたことがあります。
 「有害な重金属から農産物の安全性を確保する」のが、懇談会の設置目的です。
 私は2008年2月、ミネラル不足に本気で取り組むことにして取材を始め、9月に出版した『生活防衛ハンドブック』にミネラル不足を取り上げました。
 懇談会は、直後の10月から開かれました。
 汚泥肥料はまったくの素人なので、千葉県農林総合研究センターの永長貴昭委員に肥料のことを教えてもらいながら、私は、第2回の懇談会から、必須ミネラルの重金属を肥料から抜かせないように、懇談会をリードしました。
 「クロムは有害物質ですか」と質問すると、誰かが「有害物質です」と答え、全員がそれに賛同しました。
 その後で、「クロムは動物や人に必要な必須ミネラルです。肥料には必要な物質です。
 クロムを取り除いてはいけません。有害なのは 6価クロムで、6価クロムだけを取り除くことが重要です」と説明。これで、ミネラルの知識があるのは私しかいない、とわかったので、それ以降、私に反論する人は1人もいませんでした。
 水銀は危険ですが、歯医者の排水を規制しているので、下水処理場で取り除いて、ゼロにする必要があるのはカドミウムだけです。
 汚泥肥料を生産するときに、どう規制するかを最終的に話し合う第5回懇談会では、私が最初に「カドミウムだけを国際基準で規制しましょう」と提案。
 これに全員が賛同し、他に提案がなかったので、そこで終了しました。
 あまりに早く、あっけなく終わったので、5回目の懇談会は報告書に記載されず、 4回で終わったことになっています。
 このときにわかったのが、下水処理の専門家には、ミネラルが植物や動物に必要、という視点がまったくないこと。
 水道水に近いレベルまで浄化した水を、すべての下水処理場から流しているので、川や海の栄養が減って、微生物や海藻が減り、それを餌にする牡蠣や魚などの生産量が減っているのです。
 特にひどいのが、有明海の海苔と、瀬戸内海の海苔、牡蠣です。
 工業が発展する前に、川や海へ流れ出ていた有機物やミネラルの量を計算し、その程度の量を、適切な場所を探して、下水から川や海に流す必要があります。