咳が2週間続いたら要注意
今年から、大学の新入生の検診項目に結核が加わりました。
大学はキャンパスでの感染症の拡大を防ぐために毎年、新入生に対し、麻疹、風疹、水痘、流行性耳下腺炎の抗体検査を行っています。その結果、免疫がなければ予防接種を奨励しています。
今年から、それらに加えて結核の検査が行われるようになったのです。
結核は、「結核菌」という細菌による慢性感染症です。保菌者がくしゃみや咳をした際に排出された結核菌を吸い込むと感染します。
通常、健康な人なら免疫力で抑え込むことができますが、吸い込んだ菌の数が非常に多い場合や、加齢などで免疫力が低下している場合は、「結核症」を発症します。
発症すると、咳が2週間以上、続きます。
体重の減少や全身の倦怠感を伴う場合もあります。
結核菌が血液やリンパの流れに乗って体中に広がり、より重篤な粟粒結核や結核性髄膜炎などを発症することもあります。
粟粒結核は、体中に結核菌が広がってしまっている状況で、高齢や抗がん剤の服用などで免疫力が低下していると、発症のリスクが高まります。
粟粒結核を発症すると、結核菌が侵入した臓器に応じた症状が現れます。
たとえば、中枢神経に結核菌が侵入すると、頭痛や吐き気、視力障害、けいれんなどの症状が現れることがあります。
肺に侵入し広がると、肺の組織の大部分が破壊されて、呼吸困難や、他の臓器不全を起こして生命の危機を招くことになります。
欧米先進国と比べて高い罹患率
戦前の日本では、結核は「国民病」として恐れられ、多くの人が命を失いました。
戦後、予防接種やX 線診断、結核治療薬などが普及し始めると、死者数は1947年の約14万6000人をピークに、急速に減少していきました。
ところが、1980年代に入ると、罹患率低下の鈍化が顕著になってきました。都市化の進行や、子どものころに感染した人たちが高齢になって発病するようになったとなどが原因と考えられています。実際、最近の日本の結核患者の傾向をみると、70歳以上の高齢者が約6割を占めています。
1999年には「結核緊急事態宣言」が発せられる事態となりました。
実は日本は、少なくとも結核に関しては、欧米先進国と比べると、けっして安心できない状況です。
欧米の先進国は以前から、人口10万人当たりの罹患者数が10人以下という「低蔓延国」であるのに対し、日本が低蔓延国の仲間入りを果たしたのは、つい最近の2021年。
依然、欧米先進国と比べると罹患率は高く、年間約1万人以上が発症し、約1500人が死亡しています。引き続き、強力な対策が必要となっています。
一方、世界に目を転じると、結核は依然として世界最大の感染症の一つであり、毎年1000万人以上が発病し、100万人以上が命を落としています。また、毎年50万人近くが治療薬の効かない薬剤耐性結核を発症しています。
国連は2023年、国連総会ハイレベル会合を開き、結核の蔓延終結に向けた世界的な取り組みを前進させるため、向こう5年間の野心的な新目標を盛り込んだ政治宣言を承認しました。
外国人の増加が影響
大学での検診など、日本の公衆衛生当局が結核への警戒感を高めているのは、結核菌を保有した外国人の来日が急増しているからです。
近年、外国生まれの患者数が増加傾向にあります。2023年の新登録結核患者数1万96人のうち、外国生まれの患者数は1619人でした。
特に、罹患率の高い国の出生者が日本滞在中に結核を発病する例が見受けられ、集団感染の原因として無視できない数になっています。
新登録結核患者数(2023年)が最も多いのが東京都で2位が大阪府という事実も、来日外国人原因説を裏付けています。
多数に感染させる可能性の高い若年層に関しては、新登録結核患者数の大半を外国出生者が占めています。
そこで政府は、2024年12月、長中期在留希望者を対象として「入国前結核スクリーニングの実施に関するガイドライン」を公表し、水際対策の強化に乗り出しました。
対象国は、日本在留中に結核と診断された外国籍患者の出生国のうち、その割合が多いフィリピン、ベトナム、インドネシア、ネパール、ミャンマー、中国の6ヵ国。
これらの国からは、渡航前検査で結核を発症していないことが証明できない限り、来日が認められません。
しかし、いくら水際対策を強化しても、感染を完全に抑え込むことはできません。
疑ったら早期の検査を
結核を疑ったら、早期の検査と治療が非常に重要です。
胸部X 線検査やインターフェロンガンマ遊離試験(結核感染を評価するための血液検査)などが診断の手がかりとなります。
治療は、複数の抗結核薬を服用する治療が一般的です。症状がなくても、結核菌が体内にいることが判明した場合は、治療が行われます。複数の抗結核薬を6~9ヵ月内服するとだいたい治ります。
