最も多かったのはライノウイルス

この冬は全国的にインフルエンザが大流行しました。仙台市のてらさわ小児科にも、インフルエンザを疑って来院された患者さんが大勢いました。
発熱、咳、鼻水などインフルエンザ様の症状で来院された患者さんには、咽頭ぬぐい液のPCR 検査を行いますが、昨年10月から12月の間に行ったPCR 検査の結果をまとめると、興味深い結果が得られました。
統計をとった100人中、なんらかの病原性細菌・ウイルスが検出され、陽性となったのは82人でした。全員、15歳以下です。
内訳を見ると、インフルエンザA型はわずか26人。最も多かったのは、ライノウイルス(HRV)で34人でした。
他は、マイコプラズマが15人、アデノウイルス10人、ヒトメタニューモウイルス(HMPV)8人、RSウイルス6人、新型コロナウイルス2人という結果でした。
百日咳菌は検出されませんでした。
また、19人の患者さんから2種類以上のウイルスが同時に検出されました。
インフルエンザA に感染した患者さんから同時検出されたのは、アデノウイルス、HMPV、HRV。
マイコプラズマに感染した患者さんから同時に検出されたのは、新型コロナウイルス、HMPVでした。
重症化すると慢性肺疾患の恐れも
PCR 検査で最も多く検出されたHRV は、子どもも大人も関係なく感染し、感染すると、鼻水、鼻詰まり、くしゃみ、喉の痛みなどの症状が出ます。
大半は1週間ほどで症状が消えますが、長引くと、気管支炎や肺炎などを起こす可能性があります。
重症化すると、喘息や慢性肺疾患を発症する場合もあります。
ワクチンや専用の治療薬がないので、対症療法が中心となります。予防も非常に大切になります。
問題は、HRVなどエンテロウイルス属のウイルスは、アルコール消毒薬に耐性を持っていることです。
そのため、高齢者施設などで集団発生した場合は、アルコールではなく、次亜塩素酸ナトリウムを使って椅子やテーブル、ドアノブ、手すりなどを消毒します。マスクをするなどの飛沫感染対策も重要です。
家庭での感染対策は、石鹸による手洗い、うがい、こまめな換気が有効です。気になる最新情報もあります。
新型コロナ流行時に東京大学医科学研究所が行った調査によると、新型コロナ流行時には、すべての年齢層で、インフルエンザをはじめとする代表的な呼吸器感染症ウイルスの検出率が低下しましたが、10歳未満の子どもでは、HRV の検出率が著しく上昇したのです。
今後、新型コロナ感染症が再び増えたときには、特に子どものHRV への感染を注意する必要があります。
マイコプラズマ
マイコプラズマは、マイコプラズマ菌に感染することで引き起される肺炎です。発症
者の約8割は14歳以下とされています。
主な症状は高熱で、まれに呼吸不全を伴う細気管支炎を引き起こして入院治療が必要になったり、髄膜炎髄膜炎などの合併症を引き起こしたりする場合もあります。
予防には、マスク、手洗い、うがいなどの一般的な感染対策が欠かせません。
アデノウイルス
アデノウイルスは感染して1週間後から、1日の間に体温が37℃と40℃との間を行ったり来たりする弛張熱の症状が出ます。それが4~5日続き、次に扁桃腺が腫れ、のどの痛みが出現します。
頭痛、腹痛、下痢を起こしたり、耳の前や首のリンパ腺が腫れたり、目が充血し、目やにが出ることもあります。
有効なワクチンはないので、飛沫感染や接触感染を防ぐための予防が重要です。
ヒトメタニューモウイルス(HMPV)
HMPV は、感染すると、咳、発熱、鼻水などの症状が出ます。重症化すると呼吸困難に陥ることもあります。
感染しやすいのは1~3歳児ですが、大人が感染することもあります。乳幼児や高齢者は重症化のリスクが高いので、要注意です。
飛沫や接触を通じて感染するので、予防にはマスク、うがい、手洗いが大切です。
同時感染は薬の効き目を低下させる
インフルエンザの単独感染には、経口薬のゾフルーザや吸入するタイプのリレンザが有効です。
インフルエンザの治療薬ではタミフルがよく知られていますが、タミフルなどこれまでの治療薬は、細胞の中で増殖したウイルスが拡散することを防ぐのに対し、ゾフルーザはウイルスの増殖そのものを抑えます。
ただし、同時感染の場合、効き目が弱くなる場合があります。
ゾフルーザもリレンザも、通常は治療開始1日で速やかに解熱するのに、HRV やHMPVとの同時感染患者は、解熱に3~4日以上かかりました。また、咳も重症で長引きます。
マイコプラズマとHMPV の同時感染患者には、マイコプラズマに効くはずの抗生物質が効きませんでした。
PCR 検査は健康保険の適用があります。
重症化しやすい基礎疾患がある方は検査を受けてから治療を開始すると安心です。