教えて!寺澤先生

冬も食中毒に注意

冬に多い食中毒の原因はノロウイルスだけではありません。最近何度かニュースになったヒスタミン食中毒はその一つ。原因や予防策が異なるので、気をつけましょう。

まずはノロウイルスに注意

 冬に多いのがウイルス性の食中毒。インフルエンザが冬に流行するのを見てもわかる通り、ウイルスは寒さに強いので、寒い冬でも悪さを働き、食中毒を発生させます。
 ウイルス性食中毒の原因ウイルスとして代表的なのがノロウイルス。
 あまりにも有名なので、今の時期に食中毒の症状を訴えて診療所に行くと、根拠もなくノロウイルスと診断されることがあるほどです。
 食品安全委員会のホームページに出ている解説によると、ノロウイルスは少量でも感染すると、下痢やおう吐、吐き気、腹痛などを起こします。
 小さい子どもや高齢者、免疫の低下した人が感染すると、症状が重くなることがあるので注意しましょう。
 感染源は二枚貝がよく知られています。
 食品以外にも、最近は食堂などでノロウイルスを保有している人が調理したり、配膳した料理を食べた利用者が、口腔感染したケースが少なくありません。こうしたケースでは、消費者は防ぎようがありません。
 家庭でできる予防策は、

  • 加熱が必要な食品は中心部までしっかりと加熱する。
  • 食事前、調理前、トイレの後などには、 石鹸でよく手を洗う。
  • 調理器具や調理台はきちんと消毒して、清潔にしておくこと、です。

 これに対し、ヒスタミン食中毒は、原因も症状も予防策も、ノロウイルスとは大きく異なります。

ヒスタミン食中毒のニュース相次ぐ

 この冬、ヒスタミン食中毒のニュースが相次ぎました。
 長野放送のニュースによると、12月上旬、白馬村の小中学校で、給食を食べた児童・生徒46人が発疹や頭痛などの症状を訴える食中毒が発生しました。
 保健所が調査したところ、給食に出された「フィッシュチリソース」に使用された フウライカジキからヒスタミンが検出され、「ヒスタミンによる食中毒」と断定されました。
 当日、カジキを調理する際に、最大で2時間ほど常温で作業を行ったので、この間にヒスタミンが大量に生成された可能性があるということです。
 11月中旬には、大阪市の2つの市立小学校で給食を食べた児童34人と教職員5人が、唇の腫れや赤み、のどの違和感、息苦しさなどの体調不良を訴えたとABCニュースが伝えました。いずれも軽症で、救急搬送された人はいなかったとのことです。
 大阪市教育委員会が学校に保存されていた「なまりぶしのしょうが煮」を検査機関で調べたところ、高濃度のヒスタミンが検出されました。
 なまりぶし(なまり節)とは、生のカツオをさばきいた後、蒸す、茹でるなど加熱処理を行った加工食品のこと。
 市教委は、このなまりぶしのしょうが煮に使われたカツオによるヒスタミン食中毒の可能性を指摘しました。

赤身魚と加工品に注意

 ヒスタミンは、炎症やアレルギー反応、神経伝達などに関与する生理活性物質です。
体内でも合成されますが、食べ物を通じて体内に取り込まれることもあります。
 ヒスタミンが生成された食べ物を食べて起きるアレルギー様の症状が、ヒスタミン食中毒です。
 ヒスタミンは、食品に含まれるアミノ酸のヒスチジンに、ヒスタミン生産菌の酵素が作用して生成します。
 ヒスチジンが多く含まれる食品を常温に放置して、ヒスタミン産生菌が増殖すると、大量のヒスタミンが生成されます。
 ヒスタミン産生菌の多くは常温で繁殖しますが、魚の体表について生息している菌は低温で生きています。だから、冷蔵庫でも長時間保存していると、ヒスタミンが生成されることがあるのです。
 ヒスチジンを多く含む食品は、マグロ、カジキ、カツオ、サバ、イワシ、サンマ、ブリ、アジなどの赤身魚と、その加工品です。
 ヒスタミン食中毒の症状は、東京都保健医療局によると、多くの場合、食べた直後から1時間以内に、顔面、特に口の周りや耳たぶが赤くなるほか、じんましん、頭痛、おう吐、下痢などの症状が表れます。
 重症の場合は、呼吸困難や意識不明になることもありますが、死亡事例はこれまでにありません。
 ただし、熱に強く、調理加工工程では除去できないため、ヒスタミンが多く生成されると、食中毒を防ぐことはできません。
 症状はアレルギーと似ていますが、食品中にできたヒスタミンが原因なので、アレルギー体質とは関係ありません。
 ヒスタミン食中毒は、誰にでも起こる可能性があります。

家庭での対策は

ヒスタミン食中毒を防ぐため、家庭では次のような対策を心がけましょう。

  1. 生魚は常温で放置せず、速やかに冷蔵庫で保管する。
  2. 魚のエラや内臓はヒスタミン産生菌が多くいるので、できるだけ早く除去する。
  3. 冷蔵しても、できるだけ早く食べる。
  4. 鮮度が低下した魚は食べない。
  5. 赤身魚の干物も低温保存する。
  6. 冷凍した赤身魚の解凍は、冷蔵庫で解凍し、短時間で済ませる。凍結と解凍の繰り返しは避ける。
  7. 食べたときに舌が「ピリピリ」したら、食べるのをやめる。
  8. くちびるや舌先に通常と異なる刺激を感じた場合は、食べずに処分する。