やさしい経済解説

原発回帰を引き起こすAI

米国のIT大手が電力確保に躍起になっています。先端技術で電力を大量に消費するからですが、その結果、原発回帰が起きつつあります。

 米国のI T大手企業の呼び名は「GAFA」(グーグル、アップル、フェイスブック/メタ、アマゾン)。最近は、それでは足りなくなったようで、4社にマイクロソフト、EV(電気自動車)のテスラ、半導体のエヌビディアを加えて「マグニフィセント・セブン」と言うらしい。
 ちなみに、「マグニフィセント・セブン」とは、米国のジョン・スタージェス監督による、黒澤明監督の「七人の侍」の舞台を米西部に移した翻案映画の原タイトルで、日本では「荒野の七人」として公開されました。

電気を”爆喰い”

 そのマグニフィセント・セブンをはじめITの大手企業が、いま電力の確保に奔走しています。
 ネットワークを利用したクラウド・サービスが拡大し、さらにAI(人工知能)の開発・活用が必要になってくると、サーバーなどのコンピューターや通信機器を備えたデータセンターは必須設備になっています。
 このデータセンターが、電力を”爆食い”するのです。
 AIに使われるサーバーの電力消費量は通常のものに比べて大きく、近年は数十メガワット(MW)を超すデータセンターが次々と建設され、なかには100MWもあるといいます。
 一般家庭だと契約によって、3~5キロワット(KW)ですから、100MWで2万~3万軒に匹敵し、ちょっとした町一つ分ほどもあることになります。
 それほど電力を使うデータセンターを、電源の手当なしに建設するわけにはいきません。

住民に知られないように

 テスラのCEOであるイーロン・マスク氏は今年6月、自ら設立したAI開発企業、xAIで、テネシー州メンフィスに世界最大のスーパーコンピューターのデータセンターを建設しました。
 このセンター、10万世帯分の電力を消費し、コンピューターを冷却するために1日100万ガロン(1ガロンは約3.785リットル)の地下水を汲み上げるのだとか。
 電力についてはテネシー渓谷開発公社(TVA)から直接承認されているそうですが、こんなに電気と水を喰う施設が近所にできたら、地域の住民は不安になるでしょう。
 そこで、反対運動が起きないよう、あらかじめ公的機関などと秘密保持契約(NDA)を結ぶことで、それを盾に関係者の口を封じ、工事直前まで住民には知らさず、秘密裏に事を運ぶ、というのが、マスク氏のやり方なのだそうです。

小型原発に注目

 問題なのは、電力不足を契機として、米国マグニフィセント・セブンを中心に「原発回帰」が起きつつあることです。
 回帰といっても、一つは新型原発プラント「小型モジュール炉(SMR)」です。
 アマゾン子会社のアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)は、クラウド・サービスの会社で、文章や画像を生みだす、生成AI開発でも先端を行っています。本社のあるワシントン州とバージニア州で地元電力会社のSMR発電プロジェクトを支援します。
 また、アマゾンはSMR開発の新興企業、Xエナジーへも出資します。出資額は、他の協同出資企業と合わせて計5億ドル( 約750億円)になります。
 2039年前までに全米で500万キロワット確保をめざします。
 グーグルは、米新興SMRメーカーから電力を買う契約を締結。2030年までに最初の炉を完成させ、35年までに最大50万キロワットを確保する計画です。

復活・再稼働も

 一方、閉鎖した原発に目を付けたところもありました。マイクロソフトです。
 1979年に炉心溶融事故を起こし、2019年に閉鎖された、ペンシルベニア州のスリーマイル島原発です。
 それを復活させて再稼働し、20年間にわたってすべて購入する契約を、原発を所有する企業と結びました。
 2028年までに約84万キロワットの供給を受ける計画です。
 東電福島原発事故を起こした日本と違って、米国では、原発に対する抵抗感は大きくありません。
 でも、SMRは技術的に未完成で、安全面に課題があり、「実用化はまだまだ先」と考えている技術者も少なくないのです。
 また閉鎖された原発の再稼働は世界でも例がありません。
 マグニフィセント・セブンの力をもってしても、スムーズに事が進むかどうかは疑問です。

もう一つの電力不足

 実は将来に向けて、電力不足の要因となるものがもう一つあるのです。
 EV(電気自動車)です。
 今のところ、新車登録される車のうち、EVが占める割合が日本では2~3%だから問題はないのですが、将来、ガソリン車・ディーゼル車がすべてEVに置き換わる日が来たら、地球上のすべての車を走らせるだけの電気を、どこかで発電しなければならなくなるのです。
 国によって条件の違いはありますが、車の電源をすべて再生可能エネルギーで賄うのは、日本は無理です。EUもおそらく難しいでしょう。どうします?