ニューヨーク州など禁止を決定
野球やサッカーのグランド、公園内の子どもの遊び場などに使われる人工芝から、人体に極めて有害な化学物質である有機フッ素化合物(PFAS)が検出され、自治体の間で人工芝を禁止する動きが出始めたと、本誌2023年8月号で報じました。
その後、アメリカでは人工芝の新規設置を禁止する動きが一段と広がっています。
ニューヨーク州は今年12月28日、「カーペット回収プログラム法」を施行します。
PFASがもたらす環境汚染や健康被害を防ぐための施策の一環で、カーペットの定義には人工芝も含まれています。
施行後はプログラムが段階的に実施され、2026年12月31日以降はPFASを使ったカーペットの販売が禁止されます。
コロラド州でも、PFASを原材料に使用したさまざまな製品の販売を禁止する州法が成立しました。この結果、2026年1月1日からPFASを使用した人工芝を新規に設置できなくなりました。
ペンシルベニア州の最大都市フィラデルフィア市の有力紙フィラデルフィア・インクワイアラーは社説で、市内の公共施設での人工芝の禁止を訴えました。
同紙は2023年3月7日付の紙面で、独自調査の結果、プロ野球大リーグのフィラデルフィア・フィリーズで1970年代から90年代の間にプレーした選手のうち6人が脳腫瘍で死亡したことがわかったと報じました。
発ガン性のPFOSを検出
6人はいずれも40代~50代の若さで死亡。
当時チームの本拠地だったベテランズ・スタジアムで実際に使われていた人工芝を入手して分析したところ、16種類のPFASが検出されました。
16種類のPFASの中にはPFOSも含まれていました。PFOSに関しては、世界保健機関(WHO)の専門機関である国際がん研究機関(IARC)が2023年12月、発がんの危険性(ハザード)を評価し、4段階のうち3番目に危険性が高い「グループ2B」(人に対して発がん性がある可能性がある)に分類しています。
同紙はその後も人工芝の問題を追い続けてきました。社説は、メーカーがPFAS不使用と喧伝している新設の人工芝からも次々とPFASが検出されている事実を指摘。「がんや喘息など様々な健康問題との関連が指摘されている化学物質を原材料に使った人工芝の利用は、メリットよりリスクの方が大きい」と主張しています。
環境団体のPEERは2023年夏、カリフォルニア州サンディエゴ市の郊外で人工芝の安全性を確かめるためにある実験を行いました。実験では、6歳の少女3人に人工芝の上で90分間、サッカーボールで遊んでもらい、プレーの前後で手に付着したPFASの量がどう変化したかを調査。3人中2人はPFASの量が増えていました。
調査を指揮したPEERの環境政策ディレクターで元環境保護庁(EPA)職員のカイラ・ベネット博士は、ワシントン・ポストの取材に対し、調査結果は社会に対する「警告」だと述べ、より大規模で科学的な調査の必要性を訴えました。
マイクロプラスチックも心配
ヨーロッパでは、マイクロプラスチックで人工芝を追放する動きが起きています。
欧州委員会(EC)は2023年9月、マイクロプラスチックの販売および、マイクロプラスチックを意図的に添加し、使用時にマイクロプラスチックを放出する製品の販売を禁止すると決めました。製品の対象には人工芝に使われる粒状の充填材も含まれています。
ECによれば、粒状の充填材は、製品に添加されたマイクロプラスチックが引き起こす環境汚染の最大の要因です。充填材は人工芝の葉の部分をまっすぐに立たせる目的などで大量に使用されます。実際の販売禁止時期は製品によって異なり、充填材は8年後に販売禁止となる予定です。
欧州連合(EU)は2030年までにマイクロプラスチック汚染を30%削減する目標を掲げています。
マイクロプラスチックは環境汚染のほか、人の健康に重大な影響を与える可能性も懸念されています。しかし、まだ研究は十分に進んでいません
ECのヴィルジニウス・シンケヴィチュス環境・海洋・漁業担当委員(日本の大臣に相当)は「意図的に添加されるマイクロプラスチックの禁止は、環境と人々の健康に対する深刻な懸念に対処するもので、人為的な汚染を減らすための大きな一歩となる」との声明を出しました。
緩い日本の対応
人工芝は日本でも密かに問題となっています。
環境省は5月、全国の学校やスポーツ施設などで使われている人工芝からのマイクロプラスチックの流出量を抑えるため、文科省に協力を要請しました。
しかし、あくまでもお願いベースで、その内容も、人工芝の定期的な交換や、靴の裏などについたプラスチック片を施設外に持ち出さないためのブラシの用意など、欧米の対策と比べると天と地ほどの差があります。
日本の環境NGOの関係者によると、日本の人工芝にもPFASが含まれている可能性が高く、現在、市民グループなどが全国各地から最新の人工芝のサンプルを取り寄せて分析中ということです。
結果がまとまり次第、公表すると話しています。