教えて!寺澤先生

教えて!寺澤先生
女性の高脂血症は問題なし

人間ドックなどで「異常所見」が見つかると焦る人がいますが、異常所見は、必ずしも病気の発症を意味しません。正しい知識を身に付けて、冷静に対処しましょう。

異常所見ゼロの人はほぼ皆無

 毎年夏は人間ドックや職場・地域の定期検診が集中して行われる季節です。
 結果は2週間から1か月で届くので、夏に検診を受けた方は、もうそろそろ結果が届い
ているころでしょう。
 結果を見て「異常所見あり」と書いてあったら、普通の人はドキッとします。しかし、
過度の心配は無用です。異常所見が1つもない人はほとんどいません。
異常所見で多いのは、以下の項目です。

  1. 血清脂質(総コレステロール、HDL コレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪)
  2. 肝機能(ALT、AST、γGTなど)、
  3. 腎機能(尿素窒素、クレアチニン、eGFR)
  4. 血糖(血糖値、HbA1C)尿酸など
  5. 心臓機能、不整脈など

 先日も、定期検診で5項目の異常所見があり、受診を勧められて、血相を変えて当院に来られた方がいました。
 検診結果を見ると、血清脂質とリウマチ因子、血糖値の異常でした。
 本人が特に心配していたのは、関節リウマチの可能性でした。検査を担当した医師からそう言われたようです。
 関節リウマチは、日本人の300人に1人が発症すると推定され、特に、35~60歳の女性に多いと言われています。
 女性の発症率は男性の5.4倍という報告もあります。
 遺伝や女性ホルモンが関与していると考えられています。

リウマチ因子は擬陽性が多い

 ただ、リウマチ因子に異常所見があったからといって、必ず関節リウマチを発症するとは限りません。
 まず、リウマチ因子の検査は偽陽性が多い検査です。
 擬陽性になりやすいのは、膠原病、感染症(ウイルス性肝炎、結核、おたふくかぜ、風疹、インフルエンザなど)、肺疾患(サルコイドージス、アスベスト肺、間質性肺炎など)、肝臓病(肝硬変など)、悪性疾患(白血病、大腸がんなど)の患者です。
 仮に本当に陽性だったとしても、無症状のリウマチ因子陽性者が将来、関節リウマチを発症する確率は約4%にすぎません。
 70歳以上の高齢者のリウマチ因子陽性率は10~25%ですから、関節リウマチにかかる確率はかなり低いと言えます。
 人間ドックなどでリウマチ因子が陽性になったとしても、無症状であるなら焦る必要は全くないのです。
 とはいえ、気を付けることに越したことはありません。
 関節リウマチと診断するには、6週間以上関節の腫れや痛みが持続することが必要です。またレントゲン写真で骨の異常があること、関節が腫れていることが重要です。リウマチ因子が陽性というだけでは、関節リウマチと診断できません。
 関節の痛みと腫れが6週間以上続いたら、まず整形外科を受診して関節と骨の異常を確認し、そのうえでリウマチ因子と抗CCP抗体を測定します。関節リウマチと診断されたらすぐに治療を開始しましょう。

女性はLDL値が高脂血症に直結せず

 血清脂質に異常が見られると高脂血症が心配されます。
 確かに、高脂血症は更年期以降の女性に非常に多い所見です。しかし、これも過度に心配する必要はありません。
 悪玉と呼ばれるLDL コレステロ-ルの新基準によると、正常値(mg/dl)は、男性は72~178、女性は30~44歳で61~152、45~64歳で73~183、65~80歳で84~190とされています。
 善玉と呼ばれるHDLコレステロ-ルの正常値は男女とも40~119で、30~39が要注意、29以下と120以上は異常値とみなされます。
 男性の場合は、コレステロールと冠動脈疾患死(心筋梗塞などによる死)との間に関係が認められるなど、総コレステロールの上昇が死亡率の上昇と明らかに関係しています。しかし、女性では、その関係が見られません。
 女性の場合、LDL コレステロール値が140mg/dL前後が、心筋梗塞を起こしにくいという報告もあります。
 女性のLDL コレステロールが高くなる原因の1つは更年期です。40代以降、更年期前後に女性ホルモンのエストロゲンが低下し、LDLコレステロールが上がる人が増えます。
 しかし多くの場合、LDL 値が高いだけでは、動脈硬化は進みません。

動脈硬化を予防するには

以下の4つすべてに当てはまれば、コレステロールが高くても動脈硬化は進みません。

  1. 閉経後からコレステロール値が上昇
  2. 血圧が高くない(高血圧だと、血管の内皮細胞が傷つき、動脈硬化が進みます)
  3. 空腹時の血糖値が110mg/dL 未満(高血糖で脂肪の代謝が妨げられ、動脈硬化が進みます)
  4. 喫煙の習慣がない(喫煙の習慣は、活性酸素を発生させて血管を傷つけるだけでなく、エストロゲンを分解して動脈硬化を進行させたり、血管内のプラークを破壊したりする原因になります)動脈硬化の予防には食事が重要です。

 ふだんの食事は和食を中心にして、コメ、大豆、野菜・海草をたくさん食べるよう心がけましょう。また、動物性タンパク質は魚から摂るようにし、肉や乳製品は減らすようにします。植物油の使用量も減らします。
 お酒はほどほどに。
 喫煙していたら、すぐにやめましょう。