アメリカの市民生活

ガン発症リスク1位は喫煙

アメリカのガン発症の4割、ガンによる死亡の半数は、生活習慣や感染症に気を付ければ十分に防げることが最新のデータを用いた詳細な疫学研究で明らかになりました。

  30種類のガンとの関係を分析

 論文を書いたのは、ガン患者の支援やガンに関する研究・調査を行っている非営利組織アメリカがん協会(ACS)の研究チーム。学術誌『キャンサー・ジャーナル・フォー・クリニシャンズ』(臨床医のためのがん雑誌)に7月に発表しました。
 研究は大規模な疫学データを用い、30種類のガンについて、生活習慣やウイルス感染など、日頃の心掛け次第で除去することが可能な危険因子に起因するガン症例数と死亡者数、人口に対する割合などを細かく推定しました。
 危険因子としたのは、現在および過去の喫煙、受動喫煙、過体重、アルコール摂取、赤肉(牛・豚・羊肉など)および加工肉の摂取、果物や野菜、食物繊維、カルシウムの摂取不足、運動不足、紫外線への暴露。
 さらに、エプスタイン・バーウイルス(EBV)、ヘリコバクター・ピロリ、B型肝炎ウイルス(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、ヒトヘルペスウイルス8型(HHV-8、カポジ肉腫ヘルペスウイルスとも呼ばれる)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、およびヒトパピローマウイルス(HPV)への感染も危険因子に含めました。
 ガンのリスクを論じる場合に最近よく使われる指標に人口寄与率(PAF)があります。これは、特定の危険因子への暴露がなかったと仮定した場合、その疾病の発症または疾病による死亡が何%減るかを示したもので、日本では2000年代半ばに導入された比較的新しい概念です。

  喫煙率は大幅に低下しているが…

 今回の研究で、PAFが断トツで高かった危険因子は喫煙で、ガンの全発症数に対するPAFは男女平均で19.3%。これは、喫煙がなかったと仮定した場合、ガンの発症数が約2割も減ることを意味しています。
 さらに細かく見ると、肺ガン・気管支ガンに絞った場合、喫煙のPAFは85.6%。この数字を見るだけでタバコと肺ガンの関係がよく理解できます。
 しかし、喫煙が引き起こすのは肺ガン・気管支ガンだけではありません。
 喫煙のPAFは喉頭ガンで80.1%、咽頭ガン56.8%、口腔ガン54.8%、鼻腔ガン54.2%、食道ガン53.9%、膀胱ガン50.7%などとなっており、多くのガンに喫煙が関係していることがわかります。
 アメリカはヨーロッパや日本などに比べると禁煙が進んでいます。にもかかわらず喫煙が依然として断トツの危険因子となっていることは、やや意外です。
 論文の筆頭執筆者ファルハド・イスラミ博士は「過去数十年間に喫煙率は大幅に低下したのに、アメリカでは喫煙に起因する肺ガンによる死亡者数が憂慮すべき水準に達している」と述べ、タバコ規制のさらなる強化を訴えました。
 日本の喫煙率は、昔に比べると低下しているとは言え、アメリカに比べるとまだ高いので、ガン予防の観点から、喫煙規制をもっと強化する必要があります。

  カルシウム不足は大腸ガンに

 喫煙の次にPAFが高かったのは過体重(7.6%)。以下、アルコール摂取(5.4%)、紫外線への曝露(4.6%)、運動不足(3.1%)と続きました。
 お酒は1滴でも健康リスクがあるという論文が最近相次いで発表されていますが、今回の論文で消費者のアルコール離れがますます加速するかもしれません。
 では、果物や野菜、カルシウムの摂取が不足すると、どんなガンにかかりやすいのでしょうか。
 果物や野菜の摂取が足りないと、口腔ガン、食道ガン、喉頭ガン、咽頭ガンを発症しやすくなります(PAFはいずれも30%強)。
 カルシウムの摂取が不十分だと、大腸ガンのリスクが高まります(PAFは4.2%)。カルシウムを十分に摂ると大腸ガンの予防に効果があるとわかったのです。
 カルシウムは、マグネシウムがあると、筋肉、血管、血液の状態を良くするので、2つのミネラルを一緒に摂りましょう。

  ウイルス感染にも注意

 生活習慣やウイルスなどの危険因子による発症割合が最も高かったのは、子宮頸ガンとカポジ肉腫で、いずれも100%。危険因子はウイルスです。
 ウイルスが主な危険因子のガンは、他に肛門ガンや鼻咽頭ガンなどがあります。
 論文の執筆者の一人アフメディン・ジェマル博士は「推奨された時期にワクチン接種を行えば、感染のリスク、ひいてはこれらのウイルスに起因するガンのリスクを大幅に減らすことができる」と述べ、ワクチン接種の重要性を訴えました。
 全体的に見ると、30歳以上のアメリカ人の間では、生活習慣を改めたり、感染症に注意したりすれば、ガン発症の約4割、ガンによる死者数の約半数が防げることが、この研究から明らかになりました。

  日本でも、もっと啓発を

 ガンと生活習慣やウイルスとの関係は昔から論じられていますが、こうして具体的な数字でその関係が示されると、一人ひとりの予防意識が高まるのは間違いありません。
 日本でも国立がん研究センターによると、2005年に初めてPAFが推計され、2015年に更新されました。結果は同センターのホームページに出ています。
 しかし、なかなか報道で目にすることはないような気がします。それが大手メディアによるJTや大手ビール会社、食品メーカーなどへの忖度でなければいいのですが。