熱中症と誤診の可能性
カルシウム、カリウム、ナトリウムに次いで体内に多く存在するミネラルが、マグネシウムです。
成人では体内に20g〜30g存在し、その5〜6割は骨や歯に含まれ、残りは筋肉や脳、神経に存在しています。
リンやカルシウムと一緒に骨を形成するほか、酵素や補酵素に入って、体内のさまざまな代謝を助けたり、神経伝達物質やホルモンの生産効率を桁違いに高めて、生活の変化や危機の発生時に、瞬時に対応できるようにする、重要な栄養素です。
マグネシウムが欠乏すると、腎臓から再吸収され、骨からも補給されます。
しかし、さらに足りなくなると、筋肉のけいれんを引き起こし、神経過敏や抑うつ感などが生じ、食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢、便秘、眠気、脱力感、倦怠感などが起こることもあります。
不足が続くと、高血圧症、骨粗鬆症、心血管系疾患(不整脈や虚血性心疾患)、2型糖尿病などが発症・悪化するリスクが高くなります。
また、マグネシウムには、カルシウムの吸収を助ける酵素、細胞膜の機能を維持する酵素など、300種類以上の酵素を「金属酵素」にして効率よく機能させる役目があり、体と心と感覚を正常に保つために必要不可欠なミネラルです。
このように極めて重要なミネラルなのに、「苦い」という理由だけで市販食品から抜かれるので、日本人のマグネシウム摂取量は少なくなっています。
夏場、暑さのために食事量が減ると、マグネシウム摂取量も減るため、筋肉のけいれんが起きたり食欲不振になることがあります。
それらの症状は熱中症の症状と似ているので、熱中症と誤診される可能性があるので、要注意です。
カル2対マグ1が適正
マグネシウムは足りなくても問題ですが、多過ぎても問題になることがあります。
健康な人は、余分に摂取しても腎臓から排出されますが、腎臓に疾患があると、排出がうまくいかず、血液中のマグネシウム濃度が高くなるのです。
また、カルシウムとのバランスも重要です。
カルシウムとマグネシウムは「ブラザー(兄弟)・イオン」と言われるほど互いに重要な関係を持っています。
たとえば、カルシウムの吸収を助ける酵素は、単体では機能しません。マグネシウムが酵素の中心部に入り、金属酵素になることによって初めて、効率よく機能します。
カルシウムとマグネシウムの適切な比率は2対1と言われています。
この比率を維持できれば、血管の緊張が適度に保たれて、心臓がきちんと動くことができるのです。
逆に、カルシウムを多く摂取しても、マグネシウムが足りなければ、体調に異変をきたすこともあります。
被験者の細胞中のマグネシウムを測定する実験では、カルシウムとマグネシウムの割合が、最大で47対1、最小でも12対1でした。現代人は、カルシウムとマグネシウムの比率が大きく崩れているのです。
また、高用量の亜鉛をサプリメントから摂取すると(142 mg/日)、マグネシウムの吸収が妨げられ、体内のマグネシウムバランスが壊れることもわかりました。
アメリカ人の食事調査では、多くの人々のマグネシウム摂取量が推奨量より少ないことがわかりました。特に少ないのは、71歳以上の成人男性と、青少年です。
日本人は不足が深刻
日本は火山灰土が多いため、ミネラルの少ない食事と水が続いてきました。
もともと少ないのに、精製した白米の食事になり、精製した白い塩、精製小麦粉から作られた白いパン、さらにミネラルの少ない肉が加わったので、多くの日本人は慢性的なマグネシウム欠乏状態になっています。
それなのに、マグネシウムを抜いた市販食品が増え、それを多く食べるようになったので、さらにマグネシウムの摂取量が少なくなり、欠乏状態になっています。
意識して摂取を
不足を改善するには、マグネシウムを多く含む食品を、意識して食事に取り入れ、積極的に食べることが一番の近道です。
マグネシウムは、海の中にある物質です。ヒジキ、わかめ、昆布、海苔などの海藻類に多く含まれます。海水から取れた精製度の低い塩もマグネシウムが豊富です。
海藻類はマグネシウムを圧倒的に多く含む食品です。みそ汁に入れるなどして、アオサなどの海藻を毎日食べるようにしましょう。
また、蕎麦、キビ、玄米、全粒粉小麦など精製していない穀類や、きな粉、納豆などの豆類、ゴマ、アーモンド、クルミなどの種実類、干しエビ、アサリ、切り干し大根などにも多く含まれています。
夏場に限らずこれらの食品を積極的に毎日欠かさず食べるようにしましょう。