現地からの中国事情

2大国に衰退の影

21世紀を牽引すると思われた2つの大国が大混乱の瀬戸際にいます。混乱は何をもたらすか、歴史の眼で俯瞰しましょう。

 中国の古い友人である趙風ザァオフォンさん(38歳)が5月下旬、逃げるように職を求めて来日しました。
 趙さんに初めて会ったのは2007年秋。外語学院の最初の授業で「お金を貯めて家を買います」と自己紹介してくれたのですが、私は「中国の成長は終わる。家を買ってはいけない」と言ってしまいました。
 趙さんは「中国がダメになるわけがない。家を買うことは中国人の夢です」と、大変な剣幕で反発しました。
 趙さんと再会したら「中国は歪んでいる。党がすべてに優先し、人も社会もすさんでいる」と語ったので、大変驚きました。
 中国では知識人は共産党批判に繋がる話はしません。それだけに、中国が混乱の瀬戸際にあることが伝わってきました。

中国を大きな目で俯瞰する

 このことは、一党独裁の中国で、水が静かに流れるように「衰亡」が始まっている現れと思われます。
 中国を大きな歴史の眼で俯瞰すると、衰亡の時代に入ったことが見えてきます。
 中国の歴史は4000年と言われますが、実際はそれより遥かに長く、5000年に及び、19の王朝が興亡を繰り返しました。
 王朝の統治期間は、平均で約150年。
 いずれの王朝も興隆期を経て、やがて体制が腐敗する衰亡期に入り、天災や反乱が起って幕を閉じています。
 王朝の勃興から衰退までのサイクルは、中国の現代史と、実によく似ています。
 1921年に中国共産党が結成され、1949年に中華人民共和国が建国されたときは、世界の最貧国でした。
 貧乏から脱出し、繁栄の扉を開け、「勃興期」をもたらしたのが、改革解放に打って出た1979年からの鄧小平の時代です。
 それから中国がWTO(世界貿易機関)に加盟し、「世界の工場」と呼ばれるほど経済成長が続いた江沢民元主席から胡錦涛前主席にかけての時代が「興隆期」でした。
 中国が最も輝いた「絶頂期」は習近平主席が「一帯一路」を掲げて登場した2013年から、2015年にAIIB(アジアインフラ投資銀行)の設立を世界に呼び掛け、「戦狼」と呼ばれた強面を押し通した時期です。
 当時、民主主義体制側の先進国が競ってAIIBに参加したことは記憶に鮮明です。 
 ところが、その絶頂期こそ、「衰亡期」の始まりだったと考えられます。
 経済成長のエンジンだった不動産業の崩壊が各地で始まり、それを世界に知らしめたのが、「ゼロコロナ政策」です。

在庫不動産「買取り」がトドメを刺す

 5月中旬、中国政府は不動産在庫の買い取りを地方政府に指示しました。中国全土で積み上がった売れない不動産を解消し、不動産バブルの破綻を食い止め、景気回復を促すための苦しまぎれの政策です。
 しかし、中国政府は財政難で、「一元たり」とも金を出せません。そのため中央政府以上の財政難にある地方政府は、金融機関から借り入れするしかありません。
 中国の不動産在庫は、17億戸と推定されています。だから、地方政府による買い取りは成功するハズがないのです。金融機関が「破綻」するのは避けられません。
 金融破綻が始まると、共産党が築いた政治、経済、社会に至るすべての仕組みから膿が溢れ出て、共産党体制をひっくり返すような状況が生まれることになります。
 これが、衰退期です。

もう一つの大国、アメリカも苦悩

 アメリカは、建国が1776年ですから、300年に満たない若い国家です。
 アメリカ建国の前から、オランダ、スペイン、英国などの覇権国が、勃興期から絶頂期に向い、衰退期に入るという歴史を繰り返してきました。
 第2次の世界大戦を機に英国に代わって、アッという間に20世紀を牽引する超大国の地位にアメリカが納まりました。
 世界大戦のさなかに石油、鉄鋼、自動車産業が勃興し、英国と交代したことが、その理由です。
 現在では、製造業が海外勢に追い上げられて存続が危ぶまれ、かつてはアメリカの鉄鋼生産の3分の2を占めていたUSスチールを日本製鉄が買収しかかっています。
 アメリカが世界を牽引した大きな理由の一つは民主主義国家だったからですが、今のアメリカには「憧れた」民主主義の面影はありません。
 トランプ前大統領が不倫の口止め料を不正に処理したと、有罪判決を受けました。控訴する意向なので判決は確定していませんが、大国の指導者にふさわしくない人望なき人物であることは確かです。
 次期大統領候補者は2人とも高齢ですが、2人を超える若手が出て来ません。
 アメリカにはリベラルな「民主党」と、保守的な「共和党」という二つの政党があり、かつては2つの党の間で共通する考えも多かったのですが、近年は貧富の格差や価値観の相違が甚だしく拡大し、民主と共和が妥協することは全くと言っていいほどなく、何が何でも争って勝とうとする国家分断の状況にあります。
 しかも、大国間の紛争が激しくなり、戦争による過剰債務が積み上がるばかりで、財政的に他国を助ける余裕はなくなりつつあります。
 それもあって、基軸通貨としてのドルの地位が揺らいでいます。
 それに加えて、歴史に残るような大干ばつ、大洪水、大きな竜巻が米国大陸を繰り返し襲い、農業大国の地位を揺るがしています。
 世界の2大大国である米中が、共に衰退期になっているのです。