電気自動車の記事には、やたらにアルファベットの頭文字が出てきます。まずは、簡単な説明から。EVとは電気自動車の総称です。いくつかのタイプがあります。
充電ができる電池を動力源にモーターで動く車をBEV(バッテリー稼働)、モーター以外にガソリンなどのエンジンも備えているものを、PHEV(プラグイン・ハイブリッド車)といいます。だいたい、この2タイプが“環境車”として認められています。
モーターとエンジンが付いているが、電池の充電ができないのが、日本でおなじみのHEV(ハイブリッド車)です。日本や中国では環境車とみなされますが、欧州や米国ではガソリン・エンジン車扱いです。
最大市場は中国
BEVとPHEVとを併せたEVの世界販売台数は、IEA(国際エネルギー機関)によると、2022年は1020万台で前年比60%もの増加でした。うち約70%がBEVです。
EVのもっとも大きな市場は、中国です。 2022年の販売台数が590万台と、世界の約6 割を占めています。
ここに、自動車メーカーだけではなく、電池メーカーが大きくなったBYD(比亜迪)から、スマホの新興・小米科技(シャオミ)まで異業種も参入して激しい競争を繰り広げています。続く市場は欧州です。260万台で、世界の約4分の1。国別にはドイツ83万、英国37万、フランス33万といったところ。
国ごとに、さまざまな補助金のシステムが用意されていて、「欧州メーカーより、むしろ中国からの輸出の標的になっている」とも言われます。米国市場は、中国や欧州の後塵を拝するものの、それでも販売台数は世界の約10%、99万台に上ります。
では、日本は? 2022年は10万2000台と世界の約1%にすぎませんでした。
EVブームの陰り
こうしたEVの販売が異変をきたしたのが昨年ごろからです。とはいえ、売れ行きがマイナスになったわけではない。伸びが鈍化したのです。その象徴が、中国BYDとEVのトップ争いを演じる米テスラの決算でした。今年1~3月期決算が4年ぶりの減収減益となり、リストラを発表。株価は急落しました。各国の補助金の停止や縮小などによる需要減退、値下げ競争などが不振の原因。新技術や環境問題への関心が高い高所得層の需要が一巡したとの見方もあります。
また、これまでEVに前のめりだった既存自動車大手の姿勢にも変化が見られるようになっています。全車種EV化を宣言した独ダイムラーが発言内容を留保したり、米フォードや米GM、独フォルクスワーゲンなども、設備投資や新車開発の先送りを表明したり。
ハイブリッドの皮肉
代わりに、HEV車が世界的に売れているといいます。環境車というより、原油価格の高騰を受けて、燃費のよさが買われたのだとみられています。その結果大きな恩恵を受けたのがトヨタでした。2023年のトヨタの世界販売は、北米や欧州でHEVが前年比3割増えて300万台を越えました。グループ全体の販売台数が前年比7.2%増の1123万台となって、フォルクスワーゲンを引き離し、4年連続で世界一の座を確保したのです。
ある意味、皮肉なことかもしれません。
というのは、EVブームの事のおこりは、トヨタが1997年に発売したHEV「プリウス」だったからです。
プリウスは、ガソリン・エンジンで動く車から、電気とモーターで動く車への過渡的な存在と位置づけられていました。トヨタは、その過渡期が続く2030年までハイブリッドに関する特許等を無償で世界に提供すると表明しました。
焦ったのは、欧米の自動車メーカーや政府です。このまま過渡期が長引けば、トヨタと日本に自動車産業の技術と市場をリードされてしまう、と。
そこで欧米政府や当局は、慌てて過渡期を飛び越して、EV化の目標設定を前倒しし、補助金なども惜しまず、自国自動車メーカーの尻をたたいて、ブームを作り上げたのです。だから、欧米ではHEVをあえて環境車とは見なしません。
結果、世界のEV化の流れが速くなり、トヨタと日本メーカーは、置いてけぼりを食ったのです。しかし、再びHEVが注目されることによって、またまた逆転のチャンスがめぐってきたかもしれません。
「もしトラ」でどうなる?
もっとも、今年秋にはもうひとつ、世界のEV市場にとって、大きなかく乱要因が襲ってくるはずです。“もしトラ”です。「もし、トランプ氏が米大統領に返り咲いたら」――。
なにしろ、パリ協定からの再離脱やら、EV普及策の撤回なども言ってるらしいですから。どちらでもいいのですが、先が見えないことだけは勘弁していただきたいというのが皆の気持ちでしょう。
注)それぞれの略語からEの文字が省略されることがよくあります。