北東太平洋のシャチの生存可能性に影響するのは、地元のPCBs源だけではない。
西洋社会がPCB使用の負の遺産と格闘している一方、1970年代後半からは製造が停止され、廃棄が規制されているので、この有害物質のレベルは減少していてしかるべきである。悲劇的なことに、世界のほかの地域では、PCBが未だに使用されており、PCBの廃棄の管理が不適切であり、なかにはPCBを製造しているところさえあり得る。北半球と南半球の海水のPCBs分布が同程度であることは、工業国でのPCB使用が終わったと同時にアジアでの使用が拡がったことを示唆している。
アジアのPCBsは、シャチの状態に確かに寄与していると考えられている。熱帯アジアでの高温と多量の降雨は大気中へのPCBsの霧散に貢献していると考えられている。複数の研究が、確かに、熱帯の水中でのPOPsの在留期間がより短いことを示唆しており、このことは、アジアの水環境にとっては望ましいことではあるが、世界全体の環境を考えればそうではない。最近の調査では、アジアからブリティッシュコロンビア州の海にPCBsが到達するまで、たったの5‐10日しかかからないと示唆されている。
世界のPCBs対策予算のうち、海が対象に入ったのは極少量であると推定されている。PCBの使用と廃棄に対する世界のアプローチが大幅に変化しなければ、海洋哺乳類のPCBレベルが下がることは期待できない。
シンボル的存在である北東太平洋のシャチは、調査されたことのある海棲哺乳類なかで、最も高いレベルのPCBを保有している(Oceana)。この現状が、重大な警告の理由である。
ただ、シャチがこんなにも人の感情に訴えかけるような外見をもち、全世界的に紹介されている動物種であることと、この現状が組み合わされると、非常に強力な教育的機会を提供することとなる。
南部と北部の定住型シャチのPCB量の対比は、PCBsの生体内蓄積の増進が種の生存可能性にどのように影響し得るかを示すケーススタディを提供している。
生体内蓄積の性別による差異は、オスの生存可能性への直接的な脅威と、世代を越えての影響の衝撃を示唆している。
移動型のシャチのケースは、生体内蓄積に関して、食物連鎖の地位が重要であることを示唆している。
まとめていうと、北東太平洋のシャチは、世界のPCBs問題に対して、警告が必要であるという証拠を提供しているのである。世界のPCBsの影響力(空気、水、生物を介した移動)を確定するための研究は現在行われている途中である。しかし、私たちは今行動しなければならない。予防という原則を胸に抱いて、鯨類のために、グローバルなエコシステムのために、そして食物連鎖上でシャチと同じ地位を占める私たち自身のために。
シャチは狩猟動物のトップであるので、彼らは確かに、海洋の生態系の状態と生物濃縮の影響の現状を示す指標となり得るのである。私たち皆が留意し、責任を取るときが来ました−なぜなら彼らは、私たちが共有する海に住んでいるのですから。