代表小若順一が月刊誌に連載していた「安全基金の活動と考え方」です。
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「比較・消費者運動論」 安全基金の活動と考え方(12)

食品と暮らしの安全基金代表 小若順一

 「たくさんの検査データを見せれば、人は良いものと悪いものを区別できる」
 
 ポストハーベスト農薬をどうするかを相談しに行ったら、横浜国立大学の加藤龍夫教授(現・名誉教授)は、こう話されました。
 ポストハーベスト農薬の残留値は、基準よりずっと低いのが普通です。それでも、菌や虫が死に、ジャガイモは発芽しなくなります。
 レモンや小麦への使用映像を世に出して、実態は広く世に知られるようになったので、次は、残留農薬の違反例を見つけて、国に改善を迫ろうと私は思っていました。
 ところが加藤先生は「違反かどうかにこだわらず、たくさん検査してデータを出そう」と提案されたのです。
 違反を見つけないで社会問題化できるだろうか、と疑問をもちながら、加藤研究室と提携して残留農薬の検査データを続々と出していくと、大きな社会的反響がありました。
 たくさん検査し、データをすべて公表することが重要だったのです。
 
 特に力を入れたのはパンです。1993年から2000年にかけて200品目以上の学校給食パンを検査し、同時に、外国のパン、日本の白いパン、全粒粉・胚芽・ふすま・ライ麦などを入れた高級パン、有機小麦パン、国産小麦パンなどを検査しました。
 ポストハーベスト農薬の残留量が最も多かったのは外国のパンで、最悪はオーストラリア、続いてドイツ、アメリカの順。文献を調べると、最悪なのはイギリスのパンでした。
 日本では、驚いたことに学校給食パンが最悪で、次が全粒粉などのパン。
 3番目が、また驚くことに有機小麦パン。外国産の有機小麦が原因でしたが、最近、国内でも有機小麦は大きな問題になりました。
 4番目が、安くて白い食パン。これも意外でしたが、外皮を除くので理屈は合います。
 残留農薬が最も少ないのは、国産小麦パン。ただし、フェニトロチオンという殺虫剤がほんの少し検出されることもありました。倉庫で使われるので、食品倉庫の害虫対策に使われたのでしょう。
 これが、パンの農薬汚染の概要で、基準を頼りにすると、実態が見えなくなることがおわかりいただけたと思います。
 
 基準を基本にすると、シロクロは明確ですが、全体の状況を踏まえない思考になりがち。頭がいいはずの役人がバカに見えるのは、基準しか頭にないからです。
 基準に適合しない商品の販売は認められないので無視することはできませんが、加藤先生の考えが正しいとわかったので、私は基準を気にしなくなりました。
 ポストハーベスト農薬でもそうですが、基準に常時違反しているものはほとんどなく、化学物質では「硝酸塩」しか見当たりません。
 まれにしかない違反が見つかるのは役所の一斉検査のとき。でも、一律大規模の定期検査は、消費者団体にはできません。
 そこで私たちは、いざというときに検査・調査をたくさん行うことができる「能力」を備えておこうと心がけています。


 次回は「市民運動ジャーナリスト論」を書きます。


2006年12月1日発行 No.212より

安全基金の活動と考え方(13)「「継続性」の市民運動ジャーナリスト論」

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