43年前の”貧しさ”に?
2024年の日本のエンゲル係数が、28.3%に上昇したことが、総務省の家計調査でわかり、人々を驚かせました。
家計の消費支出の中で、食費の割合を示す数字がエンゲル係数で、数字が低いほど豊かさを示す指標として知られています。
日本のエンゲル係数は、1990年代の後半から横ばいになり、2005年の22.9%を底に、微増に転じていたのですが、28.3という数字は、1981年の水準で、43年前の貧しさに逆戻りしたわけです。
原因はもちろん、物価の上昇で、とくに最近は、エネルギーと食料品に上昇が目立つ傾向があります。
民間調査会社によると、6月は1932品目の食料品が値上げしました。カレールウや香辛料、だし製品などの調味料、即席めんのほか海苔製品、加工乳やヨーグルト等々。
食料品は、2022年に2万5768品目、23年は3万2396品目、24年1万2520品目、25年1万6224品目の値上げが行われた、といわれるので消費者にはたまりません。
そして問題のコメは、7か月連続で上昇し、過去最高を更新して、昨年の約2倍になっています。
厚生労働省の調査では、今年4月の、基本給や残業代などを合わせた現金給与の総額(名目賃金)は、前年同月比2.3%増え、40ヵ月連続のプラスです。なのに、物価の変動を反映した実質賃金は同1.8%の減少、4ヵ月連続でマイナスです。
少々、賃金(名目賃金)が上がっても、すべてが、コメやその他の食料品の値上がりに消えていく……。なんだか知らないうちに貧しかった昔に引き戻されているような気分になってきます。
コメの緊急輸入も
こうしたことから、コメの値段を下げることが石破茂内閣の優先事項の大きな1つになっているようです。
石破首相がやったのは、前農水相の失言・辞職を機に、小泉進次郎農水相をさっそうと登場させたこと。
小泉農水相は、備蓄米放出のやり方を競争入札から随意契約に切り替え、国による買い戻し条件もはずして、30万トンを安値で売却しました。
売り先は、大手スーパーなどの小売業者。コメはさっそく店頭に並べられ、消費者が列をつくって買う姿がテレビニュースなどで放送されました。

「意外にやるな」と思った人もいるかもしれません。でも、政府が保有しているコメを政府が値段を決めて売るのですから、難しい話ではありません。
しかし、農協などの農業団体や、農水省、農水族議員など、価格の高値維持を良しとする反対勢力がいます。それらをかわして売却を実行したことは評価できます。
でも、これだけではコメの値段は少ししか下がらないので、小泉農水相は、コメの市場価格が下がるまで、備蓄米の放出は続ける意向です。それが尽きたら……海外からのコメ緊急輸入も選択肢にあると言明。石破首相も国会答弁でバックアップ。
ようやく価格が下がる状況になりました。
価格が下がれば、次は
そうなると、次は別の興味がわいてきます。
農政改革のリベンジです。
コメ価格高騰の大きな問題点は、特殊な流通構造にありました。
収穫したコメは、農家からJA 全農が集荷して、コメ卸・小売業者に流しています。全農の集荷シェアはかつては90%を超えていましたが、今は40%以下とみられます。
にもかかわらず、全農による独占的な集荷と事実上の価格決定を前提にした構造になっていて、その機能不全が、価格高騰を引き起こした可能性が大きいのです。
さらに、コメ政策には生産問題が不可分です。今年の作付けは40万トン増加して、719万トンになる見込みといわれますが、ほんとうに実現できるのでしょうか。
23年の不作のあと、24年の増産は計画通りに行かず、供給不足が今回の価格高騰の主因だとの見方も少なくありません。
コメの生産力が脆弱化しているのは確かです。長期にわたる減反政策が水田を荒らし、コメの供給力をダメにしました。
「減反政策」は廃止されましたが、今も「適正生産量」を農水省が提示し、転作支援も残っていて、減反は事実上継続されているのです。
そして、現在の農村は高齢化が進み、農業を担う後継者がいません。
コメの値段を下げようとすれば、流通だけではなく、生産の課題は避けて通れないはずです。
そこで、参院選を前に、楽しみなのが、石破首相と小泉農水相のコンビです。
石破首相は、かつて麻生内閣の農水相時代に、また小泉氏も自民党農林部会長のときに、農政改革で減反政策に手を付けようとして失敗した経験を持っています。
その2人が手を組んで、農水既得権益勢力にリベンジを――。論理よりも破壊力が先に立った父親の元首相に比べれば、頼りがなさそうなお2人ですが、ぜひ農政改革の闘いを見たいものです。