相互関税 日本は24%
とうとうやってしまいました。ただの脅しではありませんでした。
トランプ米大統領は予告通り4月2日、世界中の貿易相手国・地域に対して大規模な関税の発動を発表しました。
この直後から、米国を含む世界中の金融市場で株価や米ドルが急落するなど、大混乱が起きています。
米国が新たに導入しようという大規模関税は、2段階の構成になっています。
まずは、すべての貿易相手国に、10%の一律関税を課します。
次に、米国が大きな貿易赤字を記録している60カ国・地域について、最大50%の相互関税を課す、というものです。
相互関税とは、「高率の関税を課す国に対して、同等程度の関税をかけること」とトランプ政権は説明しています。
日本に対する相互関税は24%です。
ただし、発動したばかりの自動車や鉄鋼・アルミ関税(いずれも25%)には上乗せされません。
中国に対しては当初、34%と発表されたのですが、中国側が報復関税を宣言したために、発動済みの20%に、さらに“ 報復の報復”50%が加わって、104%と高率になっています。これに中国は84%に引き上げて対抗、早くも“貿易戦争”の様相を呈してきています。
1930年代に似ている
株式市場は世界同時株安に陥る一方、金価格が史上最高値をつけたことは、大規模関税が及ぼす影響の大きさを示唆しています。それはただ、経済に与える影響だけではない、もっと大きな意味をもっていそうです。
一方的に高率の関税を押し付けられる国々の反発は大きく、中国ばかりでなく、EU(欧州連合)、カナダなど敵対国、友好国が入り交じって、次々と対抗措置を表明する事態になっています。
第2次大戦後、曲がりなりにも支持され、進められてきた自由貿易体制がいよいよ終わりを迎えたのです。
世界は、保護主義に基づく” 貿易戦争” の時代に入るのでしょうか。
各国にショックを与えたのは、これまで自由貿易を支えてきた米国の変節が、今日の事態を招いたことだったでしょう。
大恐慌が起き、米国が姿勢を変えたことから、保護主義が世界を覆った1930年代に戻ったようだ、という識者もいます。多国間貿易が縮小し、世界経済がブロック化してやがて第2次大戦に流れ込んでいったのが1930年代です。

「 インフレにならず、需要も減らず」?
経済の話に戻れば、高率の関税は、米国内で輸入品価格の値上がりを引き起こし、インフレを加速させる可能性があります。
同時に、輸入品の値上がりは消費の減退につながり、景気の低迷、さらには、景気の後退を引き起こします。
これに対してトランプ大統領は、
①外国企業が関税コストを吸収するため、米国内で物価は上昇しない、
②米国の消費が、輸入製品から国内製品に大きくシフトする、
③巨額の関税収入が得られる――と、関税のメリットを強調してきました。
「完全に狂っている」と、この”言い訳”を、自ら配信するニュースレターで批判したのが、ノーベル経済学賞受賞の経済学者、ポール・クルーグマン米ニューヨーク市立大学大学院センター教授です。
①が本当なら、輸入品の価格は上がらず、②の国内製品へのシフトは起こりません。
②が起きたとしたら、輸入品の消費が減るわけですから、③の関税収入の増加は見込めません。
ノーベル賞をもらうほどでなくても、矛盾だらけであることはすぐわかります。
感度と理屈のギャップ
「関税を負担するのは誰か?」。
トランプ大統領の関税政策で、よく言われるのが「大統領は最終的に誰が関税を払っているのか知っているのか?」です。
もちろん米国の消費者であることを知らないはずはないのですが、関税は「どうせ外国企業が負担して値上げはできないだろう」と高をくくっているらしいのです。
でも、値上げしなければ、今まで通りで、コストが高い国産品に需要がシフトすることはありません。
値上げされれば、コスト高の国産品でも競争できるのですが、電子機器をはじめ、製造がすべて海外移転した製品も少なくないのです。生産体制の再構築に、早くとも数年はかかります。
トランプ大統領という人は、世の中の変化を捉える感度の良さ、目の付けどころについての感性の鋭さはもっています。
一方で、発想を政策として具体化するときの、理屈のお粗末さは覆い隠せません。
現代のグローバリズムが、富の集中、格差の拡大に結びつき、限界を迎えていることに、トランプ大統領はおそらく気がついているのでしょう。
だからといって、矛盾だらけで人騒がせな政策で世界を右往左往させるのは、いい加減にしてほしいものです。