現地からの中国事情

本当の試練が始まる

不動産神話が消え、少子高齢化が始まり、閉塞感が中国社会を覆っています。25年はどう進むのでしょうか。

 新しい年が始まりました。世界第2位の経済規模を誇る中国経済がいつ底を打つのか、いまだ見えてこない中でハッキリしていることがあります。

立ちはだかるトランプ

 それは、向こう4年間、世界の政治経済に最も影響を及ぼすことになる米大統領のトランプ氏が、就任を前に、対米輸出国に関税の大幅な引き上げを宣言したことです。
 なかでもカナダ、メキシコからの輸入品に一律25%、すでに最大で50%の関税を課せられた品目がある中国からの輸入品に、さらに追加で、10%の関税を課す、としています。
 これは、国家衰退が明らかになったほどの「経済減速」と闘っている習近平政府にとって、実に厳しい試練です。
 しかも、トランプ次期米大統領は国務長官に反中の先頭に立つマルコ・ルビオ上院議員を指名したうえ、政権幹部に対中タカ派を次々に指名しています。
 つまり、中国は貿易だけでなく、外交・軍事を含むあらゆる分野で波乱が始まり、大乱があっても不思議でない状況になったのです。
 2025年には、中国で劇的な変化が起きるでしょう。

もがき苦しんだ2024年

 ここで、ほんの少し中国経済の2024年を振り返ってみます。
 昨年3月の全人代で李強首相は経済成長の目標を5%前後と発表しました。ですが、結局、成長は5%に届かず、政府は年末に24年の経済成長が5%に満たなかったと、うやむやな発表をしなければならないほど追い込まれたのです。
 日中ビジネスのコンサルティングを営む碁雲海さん(65歳)は、昨年の中国は「もがき苦しんだ1年だった」と、振り返ります。
 下り坂を転がる経済を押し止めようと、政府は不動産業界に様々な手を打つと同時に地方政府の不良債権解消に向けて大量の国債を発行したばかりか、株価を押し上げる政策を出し続けました。
 しかし、効果を上げられませんでした。
 一方で、中国の社会は、極端な格差と歪みで自殺者が増え、不平不満を爆発させた大量殺人や、日本人の子どもを殺傷する悲惨な事件がたびたび起きたことが、鮮明な印象に残っています。
 政府の一連の経済対策は見るような効果を上げられず、経済が依然として悪化を続け、社会が一段とすさんでいるのです。

経済減速は止まらない

 改めて2025年の中国経済はどうなるのか、考えてみましょう。
 経済の要である金融は共産党直結の国営企業が握っています。また、エネルギー、通信、運輸、資源など経済の基盤を押さえているのは、従業員総数で約3000万人を誇るごく少数の国営企業です。
 しかし、庶民の生活に直結するサービス業、流通業を含んだ最大の雇用の受け皿となっているのは中小零細企業で、99%以上が民間企業です。
 3年間に及んだコロナ禍で、中小零細企業の数百万社が倒産し、4000万人余の失業者を生んだと言われています。
 減速する経済をストップさせ、需要を掘り起こすには消費を担う庶民の雇用を拡大することが最も重要です。
 ところが、中国政府は消費者の生活基盤である働く場を確保することに知恵を絞るのではなく、不動産バブル破綻で傷付いた鉄鋼、セメント、ガラスを含めた大企業の支援に力を入れています。
 これら大企業は国有企業なので、雇用創出にはつながりません。
 なかでも象徴的なのが、電気自動車や冷蔵庫など家電の買換え支援です。自動車や家電産業は今や、大企業に成長しているので、支援しても雇用は増えることがなく、無意味な政策です。
 こう伝えると、大不況が続いているにも関わらず、先端産業が大発展していることを知らないのか、と叱られそうです。
 確かに、電気自動車(EV)は中国市場で急速に拡大しているだけでなく、欧米でも圧倒的な強さを見せ、自動車大国のドイツ、フランス、米国のメーカーを経営危機に追い詰めているほどです。
 宇宙航空分野はすでにアメリカのNASAに追い付き追い越したと言われています。
 高度1000メートル以下の空域での経済活動を意味する「低空経済」の進展も見逃せません。
 昨年初めに人民解放軍が統制していた空域が開放されたことで、空飛ぶタクシーやドローンによる宅配事業が世界に先駆けて誕生しました。
 国土の広い中国では都市間や辺鄙な山間部などへの物資の配達や人の移動が便利になったのです。

それでも経済は悪化する

 先端産業の進展ぶりを知ると、中国経済が悪化すると説かれても、納得できない人が多いでしょう。ですが、それでも中国経済は確実に悪化します。
 理由は明確です。
 習近平政府は発足以来の約10年、民営企業を締め付けました。その一方で、国有企業が市場を独占する方向に導き、市場経済を後退させてきたなかで、不況になったのです。
 中国経済の減速は日米欧などの資本主義経済下で起こるマネーの流動で起きた不況とは全く違うのです。
 根本的に経済を立て直すには、共産党を大改革するほどの市場改革を行うしかありません。
 中国がどう変化するか、注目です。