日本銀行が、政策金利を引き上げました。従来の0〜0.1%程度から0.25%程度へ上げただけですが、同時に量的緩和策として行ってきた国債買い入れも縮小する計画です。
政策金利は、0.3%だった2008年12月以来、15年7ヵ月ぶりの水準です。
ごくわずかな金利ですが、日銀にとって、長く続いた超金融緩和政策の「正常化」であり、日本が「金利のある世界」に戻る重要な一歩になるはずでした。
それがこんな混乱を引き起こすとは!
過去最大幅の上げ下げ
「令和のブラックマンデー」と呼ばれているそうです。利上げ発表当日(7月31日)の日経平均株価は、乱高下の末に上げて終わったのですが、翌日から下げ始め、8月6日には過去最大幅の大暴落。さらに一転、7日には、過去最大幅で暴騰するなど、大混乱が起きました。
そもそも今年の日本株は、米国の底堅い好景気とAI(人工知能)の普及に伴う半導体関連産業の成長に支えられてきました。これに歴史的な円安が追い風となって、輸出企業の好業績を演出してきたのです。
今年1月からの日経平均株価をみると、33,000円台で始まり、2月に39,098円とバブル期以来34年ぶりに史上最高値を記録。3月には40,000円台に達して、7月11日に、42,224円で最高値を更新していました。
株式市場がなぜ混乱したか? 金利が上がれば、株価は下がりますが、日銀の利上げは、時期はともかく市場には織り込み済みとされており、暴落を引き起こすほどの上げ幅だったとも考えられません。
投機筋が混乱に拍車
大方のアナリストたちは、株価を下げたのは、「強い」と思われていた米国景気の後退懸念であり、円高の進行だったとみています。
米FRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長が9月からの利下げを示唆していたところへ、植田和男・日銀総裁が記者会見で、今後も利上げを継続する姿勢を示したことから、日米金利差の縮小→円高を想定して、ドルが売られ、円が買われました。
7月初めには一時、1ドル160円台まで安くなっていたのが、いきなり140円台にまで円高が進んだのです。
この為替の動きに拍車をかけたのが、ヘッジファンドなどの投機筋が行う円のキャリートレードだったといいます。
金利の低い円でお金を借りて、金利の高い通貨たとえばドルで運用すると、ドルと円との金利差だけ確実に儲かります。
円キャリートレードが増えると、円安が加速します。円を売ってドルなどを買う取引が必ず伴うからです。
ところが、現在のように円高に動くと、この取引では大きな損が出ます。
そこで、取引を解消する動き、ドルを円に戻して円資金を返済する巻き戻しの動きが大きくなるので、円が買われ、より円高が加速することになります。
円高で損失を抱えた投機筋は、少しでも損を取り返そうと、株式市場で片っ端からカラ売りを仕掛けることがあります。
こうして株式市場全体が売り一色になり、暴落につながったとみられているのです。
政府・与党からの催促
日銀の、このタイミングでの利上げは正しい判断だったのでしょうか?
一般に、金利の引き上げは、過熱した景気を冷ますときに使われます。しかし、いまは、個人消費の勢いは落ちています。
厚生労働省が発表する毎月勤労統計(速報)によると、実質賃金は、5月まで、26カ月連続で前年比マイナスでした。
利上げ後発表の6月分こそ、ボーナスの増加で前年比プラスになったものの、賃金が物価に追いつかない現実はあいかわらずと言ってよく、もしかしたら、植田日銀はかなり無理をして利上げをしたのでは?
利上げを決めた、7月の政策決定会合では2人の委員が時期尚早として反対しました。
その前には奇妙なことが起きています。
岸田文雄首相や茂木敏充自民党幹事長ら政府・与党の政治家たちが、公の席で日銀に対して金融政策の正常化=利上げを催促する発言をしたことです。
もちろん日銀は制度の上では、政府から独立した存在ですから、それ以上の話にはなりません。我々にしても、日銀が政府や与党の要求に従った、あるいは意向を忖度したとは思いたくありません。
政府・自民党が利上げをしたがった理由は何でしょう?
来たるべく総選挙に向けて、円安修正によってインフレを抑えたかった? あるいは、現内閣が日本経済を正常化し、デフレ脱却を果たしたとアピールしたかった?
結果オーライ?
いずれにしろ、今後の利上げについて、日銀の内田真一副総裁が「市場が不安定な状態で利上げをすることはない」と発言(8月7日)したことで、お盆前には、株式市場は落ち着きを取り戻しました。
為替は超円安を抜け出し、かつ急激な円高とも言えない1ドル140円台で推移。日経平均株価は「上がり過ぎと言われた、バブルの部分だけが吹き飛んだ」との見方も。
ひょっとしたら、”結果オーライ”?
そこへ飛び込んできたのが、岸田首相の自民党総裁選不出馬のニュース。為替や株混乱のタネは尽きそうにありません。