鉄は毎日失われる
鉄は腸や皮膚の細胞の代謝で毎日1mgずつ体から失われていきます。女性は月経の度に15〜50mg失われます。
大量の発汗でも失われます。汗の成分は大部分が水ですが、塩、ビタミン類、亜鉛、鉄なども含まれます。
汗1リットル当たりには2mgの鉄が含まれています。
暑い真夏の1日当たり喪失量は5mgになることもあります。
5mgがどれくらい大量かというと、鉄が比較的多く含まれる納豆でも、1パックでは5mgには届きません。卵も、3個食べても5mg未満です。
汗を大量にかく夏には、水分・塩分が失われれば脱水症に、鉄が失われれば貧血になります。
鉄の働き
微量ミネラルの鉄は、人体中に3〜5gあります。
その70%は赤血球のヘモグロビンと筋肉のミオグロビンに存在します。残りの30%は骨髄、肝臓、筋肉などに貯蔵鉄として存在しています。
鉄の働きは大きく3つあり、
① ヘモグロビンの主成分
② 神経伝達物質の合成に関与
③ コラーゲン合成に関与
です。
貧血・免疫低下
その中でも最も大きな働きは、ヘモグロビンの主成分として酸素を体中に運ぶことです。
鉄が不足すると、ヘモグロビンが減って赤血球の数が減るため、酸素の供給が十分にできなくなります。これを「鉄欠乏性貧血」と言い、集中力の低下、頭痛、食欲不振などの症状が出ます。
ヘモグロビンが減ると酸素が十分に供給されないので、白血球の働きが低下して、免疫が低下します。
また、筋肉中のミオグロビンも鉄の供給量が少ないと酸素の貯蔵能力が低下して、その結果、筋力低下や疲労感といった症状が起こります。
うつ・パニック
鉄は、神経伝達物質を作る際に必要な酵素の働きを助けます。
脳では、心を安定させるときは「セロトニン」、やる気を促すときは「ノルアドレナリン」、快楽や多幸感を得るときには「ドーパミン」などの神経伝達物質が脳内に分泌されます。
鉄が不足すると、これらの神経伝達物質が必要なとき十分に作られなくなってしまい、うつやパニック障害の症状を引き起こしやすくなります。
皮膚・骨の健康
鉄はコラーゲンの合成にも必要な栄養素です。
コラーゲンは、皮膚や髪、目、筋肉、血管壁、骨など、私たちの体の組織のあらゆる部位に含まれ、体をつくる上で欠かせない線維性のタンパク質です。特に皮膚や髪などに多く含まれています。
コラーゲンを合成する際には十分な酸素が必要で、そのために鉄とビタミンCが重要です。特に鉄が体内に十分にあることは、コラーゲンの合成、骨の健康に欠かせないといえます。
鉄欠乏の症状
鉄は体の中で様々な役割を果たしているので、不足すると、貧血・免疫低下、うつ・パニック以外にも、様々な症状を引き起こします。
貧血まで至らなくても、鉄不足でエネルギーの産生が十分にできなくなり、疲れやすくなったり、集中力が落ちたりするなどの症状が出ます。
他の症状は、寝つきが悪い、肩こり、湿疹、頭痛や頭重、カゼをひきやすい、微熱、抜け毛、イライラ、歯茎からの出血、身体にアザ、胸痛、動悸や息切れ、むくみ、爪の変形・割れやすい、食欲不振、口角口唇炎、舌が赤くスベスベする、などです。
鉄は吸収が悪い
食品に含まれる鉄には大きく分けて、肉や魚に多いヘム鉄と野菜、穀類に多い非ヘム鉄があります。
ヘム鉄は吸収率が10〜30%ですが、非ヘム鉄は5%以下と低く、一緒に摂る食品によっては吸収が妨げられて、さらに低くなることがあります。
ヘム鉄が多い食品は、豚・鶏・牛のレバー、牛肉、赤貝、めざし、カツオ、マグロ、マイワシ、卵など。
非ヘム鉄が多い食品は、納豆、小松菜、枝豆、ソラマメ、厚揚げ、ホウレンソウ、ミズナなどです。
同じ食品でも製造方法によって鉄の量は変わります。
ひじきは、以前は鉄鍋で製造されていたので鉄が多い食品でした。ところが、日本のメーカーは鍋をステンレス製に変えたので、鉄の含有量が従来の9分の1と激減しました。
鉄鍋を使用して原料をじっくり煮込んだり、梅干しやトマトなど酸を多く含む食品を加えたりすれば、鉄の摂取量が増えます。
卵型の小さな鉄のかたまり「鉄玉子」をやかんや鍋に入れて鉄を溶出させ、飲み物や料理から摂る方法もあります。