〜地震・地質の専門家 塩坂邦雄氏に聞く〜

宮城県沖のプレート境界型巨大地震を予知していた塩坂氏が
福島第一原発事故の本当の原因と
これから起こる地震、浜岡原発の怖い危険を語ります。

語り手:塩坂邦雄氏
 地震と地質の専門家。
 東海地震を予知するために、富士川断層をまたいでレーザーを使って距離を測定し、
 断層の挙動を把握するため、25年間1時間ごとに自動測定している。
 趣味のパラグライダーで、本誌のために浜岡原発の断層を上空より撮影していただいたこともある。

聞き手:編集部

予想されていた地震


編集部 ちょうど4年前「今、最もプレート境界型の巨大地震が懸念されるのは宮城県沖」とお話を伺い、月刊誌(217号)にインタビュー記事を掲載しました。
217号を読み返すと、東日本大震災は、まさにお話の通り。下図はそのときに掲載したそのまま。どこも直していませんが、今回の地震の後で作った図のようです。
東日本大震災が予想されない地震かのように報道されていることは間違いです。

活断層図

塩坂  今回の地震は、地球規模で見てもプレート境界に発生した巨大地震で、 断層長450km、幅150km、最大すべり18mと、広大な範囲にわたって太平洋プレートが北米プレートの下にもぐり込み、起きたものです。
 政府の地震調査委員会は「今後30年以内にこの付近を震源域とする地震が発生する確率は、99%」と2007年に発表していたのですが、 ここまで広範囲な超巨大地震が発生する可能性は考えていなかったようです。
 GPSのデータによると、日本列島が東側に5m程度動き、北米プレートが、太平洋プレートの境界で跳ね上がる一方、東北日本の海岸線では垂直に1mほど沈下しています。 このため、津波のあとに海水が残って潟が形成されたのです。
 北米プレートが跳ね上がったことで発生した巨大津波は、最初3m程度だった波高が時間とともに6mに達し、大抵はこれで治まるのですが、次の瞬間に10mが観測されました。
 なぜ瞬間的に10mになったのかというと、プレートがずるずるともぐりこむとき(スロースリップという)海山のようなひっかかりの抵抗があって、 それが外れたときのエネルギーが海水に伝わったという説、さらに、プレートが動いたとき、その上に載ったやわらかい堆積物(付加体)に断層ができて、 その断層が動いたエネルギーで10mの波高になったのではないかという説もあります。その両方かもしれません。

編集部 それでは、10mの堤防を越えた巨大津波は想定外だったということですか?

塩坂 地球は何にも変わっていないのに、人類が現在の科学では想定できなかっただけということです。 でも、大津波が来たら、非常用電源が壊滅することを東京電力は承知していたのですから、「想定外」の事態とは言えません。

編集部 大津波がきっかけで起こる原発の炉心損傷を独立行政法人「原子力安全基盤機構」が報告書でまとめ、 2007年から公表していたことが報道されて、東電の「想定外」が問題にされていますね。

 

近くの鉄塔が倒壊


編集部 1号機がメルトダウンしたのは、大津波の直後からだったからということですが。

塩坂 東電はすべて津波のせいにしています。 でも、事故を起こしたそもそもの原因は、津波が来る前の地震でパイプラインや配線が、すでに切れていたことです。 電源が確保できずに冷やせなかっただけなら、1週間後に代替電源がきたとき冷却機能も復帰できたはず。 ところが、いまだに冷却装置は機能しないまま水をかけ続けているのは、おかしいとは思いませんか? 地震で壊れたからとしか考えられません。
 実は、原発のすぐ西側に双葉断層という活断層が走っています。

編集部 NHKが地震当日に1号機にはすでに原子炉に水がなかったことを報道しています。 地震で壊れて水が漏れていたのだとは思っていましたが、活断層が動いたのですか。

塩坂  「活断層」というと直接地震を起こすような誤解がありますが、30〜40kmほど下に震源断層があって、 それが動いた結果、地上に亀裂の様なものができたのを活断層と呼びます。地震が起きると、この亀裂部分(断層)で大きな揺れが生じます。
 プレートがズルズルとゆっくりと動いても地震は発生しませんが、地殻は連鎖的に動きますから、津波の前に双葉断層が動いて、ドカーンと縦波が走った段階で、原発は壊滅的に損傷したのでしょう。
 その証拠に、福島第一原発のすぐ近くの鉄塔が倒壊しました。原発の西側なので、津波のせいではありません。

次はどこが危ない?


編集部 東日本の余震が治まらないうちから、長野、静岡で大きな地震があり、次はどこが危ないのか心配されています。

塩坂 2011年3月11日に北米プレートが東に5m動いたことで、プレート間で「ズレ」を調整する動きが相次ぎ、その結果の地震が日本各地で起きています。
2011年3月12日に栄村で大きな被害をだした長野北部の地震は、ユーラシアプレートとせめぎ合っていた北米プレートの力が抜けてしまって、隙間ができてしまった状態を補おうとして起きました。
 それと同じで、富士川断層は上部図の矢印のように本来は動くのですが、全体がずれたので富士宮の断層では逆に動いたのが3月15日に静岡東部に発生した地震です。
 このような活動は1年半ぐらい続くことが考えられます。
 富士山のマグマも上がりやすくなっていますが、火山噴火の予知はしやすいのです。 七輪(マグマ)でおもちを焼いていると、プーと(地殻)膨らんでプシュー(水蒸気爆発)と空気が抜けるように、マグマが上がってくるときは地殻が伸びます。
 いま、富士山をレーザーで測っています。富士吉田と富士市の間が伸びたら危ないのですが、今は伸びていません。


 

関東で直下の地震

 


塩坂 いま危ないのは相模湾、伊東の南の川奈港付近です。水蒸気爆発の危険が高まっています。 初島〜小室山で距離を測っているのですが、この距離が伸びてきています。ここでは、以前にも水蒸気爆発が起きています。 その直前に調査に行ったら、ワサビ田が白濁していました。成分を調べたら湧水に火山ガスが入り込んでいたのです。 さらに、西に位置する伊豆冷川峠が3p隆起。地震がいつ起きてもおかしくないと思ったら、まもなく伊豆の海岸で水蒸気爆発が起こりました。
 今度起きる地震は、もう少し南側の海の中が震源になります。 次に危なくなっているのが、富士川断層より東側で、太平洋プレート・フィリピン海プレート・北米プレートが重なり合っているところ・・・つまり、関東盆地です。

編集部 関東直下の地震ですか?

塩坂 関東盆地を大きなお盆とイメージしてください。 へりのところが房総半島の山々から丹沢山地。真ん中の一番低いところが埼玉県久喜市にある栗橋です。 この一番低いところの真ん中にフィリピン海プレートが入っています。

活断層図
編集部 いつごろ起きると?

塩坂 前兆が現れたら、5年以内に起きるとみていますが、
その1年ぐらい前に、国府津沖の相模トラフを震源とする地震が起きます。 右図【図2】は気象庁発表の余震分布です。この図でわかるように、東日本大震災で起きている数多くの余震はすべて銚子沖で止まっています。 房総沖からフィリピン海プレートがくさびのように入っているからです【図3】。 くさびの先端が銚子沖です。
北米プレートは東に5m動いたので、フィリピン海プレートも引っ張られていますが、元に戻ろうとする力が働いています。 そのため、関東直下の地震が起きると、縦揺れとともに、長周期の揺れも起こり、超高層ビルの揺れが非常に大きくなります。

編集部 地震の規模はどのくらい?

塩坂 巨大地震と言うよりM6.5ぐらいの地震でしょうが、日本で一番人口が密集した東京の直下で起きるのですから、 地震の被害は甚大になるでしょうね。

 

浜岡はどうなる?

 


編集部 浜岡原発が止まってまずは一安心ですが、東海地震はどうなりますか?

塩坂 「大型海溝型プレートの跳ね上がりは5年前に前兆がある」というデータを、私たちだけが持っています。 私たちの計測は陸なので、東日本大震災のように震源が海の中だととらえられませんが、東海地震はとらえられます。 まだ異常は出ていないので、5年は大丈夫です。 3.11の北米プレートの移動が安全側に時間を巻き戻したのです。

編集部 5年は大丈夫なら、政府の取った停止要請は必要なかったのではないかと言われそうですね。

塩坂 使用済み燃料があるので、早く止めないと安心できません。
福島第一原発が津波で損傷したことになっているので、浜岡原発でも、「防波堤を造ればいいじゃないか」ということになって、2〜3年後に15mの防波堤ができたら動かそうということになります。

編集部 防波堤が崩されることはないのですか?

塩坂  15mの砂丘があれば、浜岡に防波堤などいらないのです。 砂丘には根っこがあって、下は砂利、石ころです。砂れきが隆起して、その上に砂がてんぷらの衣のようにくっついたものなので、 だから、津波に対しては大丈夫なのです。

編集部 怖いのはゆれですね。

塩坂  もちろん、揺れは怖いですね。もろい配管がどうなるか。 でも、もっと怖いのは、冷却できなくなることです。 浜岡原発の地盤は1.5m隆起する所です。だから、10mの津波が来ても、マイナス1.5mで、8.5mの津波と同じことですが、取水ができなくなります。
そのことは中部電力も承知していて、地震で隆起すると4分間水が取れない時間があるが、20分ぐらいなら冷やせる巨大なプールがあるから大丈夫とホームページで記載しています。 しかし、相手は自然現象です。都合よく想定どおりになる保障はありません。

 

止めたら海水5トンが原子炉に

 


編集部 浜岡原発のホームページを見ると、 「およそ現実的でないと考えられる地震による地震動として、過去5万年の間に活動した活断層による最大の想定地震」として、「マグニチュード8.5」をあげています。 3.11ではマグニチュード9.0です。 やはり、菅直人総理が止めるよう要請したのは正解でしたね。

塩坂  さらに問題なのは、地震動の入力方向が、90度違うことです。 いまでは私たちが指摘してきたように、想定震源域の形は修正されていますが、 内閣府の中央防災会議が東側から地震波がくると言っていたので、浜岡原発は、そのように設計されています。 エネルギー伝わり方が90度違うので、揺れに弱いのです。 そのため、2009年8月に起きた駿河湾を震源とする地震で、一番新しい5号機に大きな異常が発生してしまったのです。

編集部 浜岡5号機を停止する前に中電は、「日本一耐震性が高いように改修したので、東海地震がきても大丈夫」と言ったのですが、 ゆっくりと止めただけで、復水器の配管が折れて400トン以上の海水が入り、そのうち5トンが原子炉に入るという信じられない事故を起こしてしまいました。

塩坂  安心だというなら、中電の役員が浜岡原発の敷地内に住めばいいのです。大丈夫と言ったって、説得力ありませんよ。 浜岡原発は地震が来る前に廃炉にしておく必要があります。その運動に、「Go to bed!!HAMAOKA GENPATU」(寝ていて!! 浜岡原発)というシールを作って、 あらゆる場所に貼っていただこうと広めています。 

編集部 塩坂さんが2010年断層をみつけ、稼働が延期になっている台湾第四原発は、日本の原子炉本体が初輸出されたものでしたね。 その後、どうなっていますか。

塩坂  今はまだ止まったままですが、原発まで1.2qの断層が、最近でも動いた証拠を発見したのに、 台湾電力・台湾大学の御用学者たちは、この事実を無視して原発を稼働させようとしています。事故があったとき、また「想定外の地震でした」では、すみません。 原発直近に多くの市民が生活しています。夏には、新しい調査の武器を持って、第四原発に挑戦しようと考えています。

編集部 そうですか、どうぞますますのご活躍を。


月刊誌『食品と暮らしの安全』2011年6月1日発行 No.266 塩坂邦雄氏インタビューより



【電話で安心!地盤診断】
2006年、地盤の重要性について塩坂氏にお話を伺って以来、本誌読者に、電話で地盤診断を行っていただいています。
本誌事務所の土地購入の際にもご相談しました。

〜診断依頼流れ〜
@電話(090-3250-3017・塩坂)をして、ご都合を伺う。
Aそれからファックス(054-247-8678)で、地盤調査を依頼する場所の住所、依頼者の名前、連絡先電話番号を連絡する。
B国土地理院の地盤データに基づいて、どれほどの危険性があるか、電話で教えてもらう。
ここまでが、10,000円。
C問題がなければ、これで終了。代金を銀行振込み。

D問題があれば、段階を追って、より高度な診断もお願いできます(費用は別途)。

(2011年6月現在)


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