PCBの用途
PCBは、ビルや鉄道のトランス、蛍光灯の安定器、コンデンサーの絶縁油、暖房の熱媒体、ポンプの潤滑油、難燃加工、ノンカーボン紙、塗料などに使用されました。
用途
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製品例・使用場所 |
絶縁油
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トランス用
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ビル・病院・鉄道車輛・船舶等のトランス
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コンデンサー用
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蛍光灯・水銀灯の安定器、冷暖房器・洗濯機・白黒テレビ・電子レンジ等の家電用、モーター用等の固定ペーパーコンデンサー、直流用コンデンサー、蓄電用コンデンサー |
熱媒体
(加熱と冷却)
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各種化学工業・食品工業・合成樹脂工業等の諸工業における加熱と冷却、船舶の燃料油予熱、集中暖房、パネルヒーター |
潤滑油
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高温用潤滑油、油圧オイル、真空ポンプ油等 |
可塑剤
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絶縁用
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電線の被覆・絶縁テープ |
難燃用
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ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ゴム等に混合 |
その他
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接着剤、ニス・ワックス、アスファルトに混合 |
感圧複写機
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ノンカーボン紙(溶媒)、電子式複写紙 |
塗料・印刷インキ
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難燃性塗料、耐食性塗料、耐薬品性塗料、耐水性塗料、印刷インキ |
その他
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紙等のコーティング、自動車のシーラント、陶器ガラス器の彩色、カラーテレビ部品、農薬の効力延長剤、石油添加物剤 |
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引用:環境省(2001)パンフレット「ポリ塩化ビフェニル(PCB)廃棄物の適正な処理に向けて」
これらの写真は、PCBが使われた代表的な機器で、トランス、コンデンサ、安定器です。次に、これらの機器がどのくらい日本にあるのかお話しします。
PCBの使用と保管量
この図は、PCBの使用量と保管量を示しています。平成10年に厚生省が実施した調査がもとになっています。この調査で、分かっている使用量と保管量は一部であり、十分なデータとは言えません。更なる調査が必要ですが、今日はこのデータでお話しします。
電気製品、熱媒体、感圧紙、その他に分類しています。その中で電気製品に使われているPCB製品が最も高く、約70%を占めています。
電気機器の中で、最もPCB量が多いのが高圧トランス・コンデンサーで、約34,700tのPCBが使われました。生産台数約39万台で、そのうち1.1万台が紛失または不明になっています。これは、おそらく環境中に放出されていると考えられ、大きな問題です。
低圧トランス・コンデンサーは、約39万個が生産され、PCB量は約12トンです。
蛍光灯の安定器のPCB量は約600トンであり、トランスやコンデンサに比べて少ないものです。しかし、2000万個の安定器が生産されており、多くの数が紛失しています。たとえ、PCB量が少なくても、台数が多く、紛失も多いため、PCBの汚染源となっています。
PCBの保管方法
日本には、PCB処理施設がないために、PCB廃棄物は厳重に保管しなければなりません。保管法は法律で決められています。
まず、周囲に囲いを設ける
見やすい場所に表示を設ける
機器への表示:本製品にはPCBが含まれています。
保管施設の表示:PCB汚染物保管場所
排水溝がなく、地下浸透しない床構造である
PCB以外の物も保管する場合は、しきりを置く
暖房、可燃物の保管禁止
雨水の浸透防止
このように、厳重に保管しなければならないはずのPCB機器ですが、管理が不十分な所もあります。さらに、行方不明となっているPCB機器があります。
PCBが禁止されてから約30年が経過し、会社が無くなったり、担当者が変更していることが理由の一つです。
保管には、コストがかかり、紛失などのリスクもあるため、一刻も早く保管しているPCB機器を処理する必要があります。
東京都環境局(2001)「PCBの適正な管理にご協力ください」パンフレット |
PCBの処理
日本のPCB処理はほとんど進んでいません。
1976年に高温焼却法が認められていましたが、過去にPCBを処理した例は、2例のみです。
一つは、海上で感熱紙1778トンを焼却実験した例です。もう一つは、PCBを製造していた鐘淵化学が、自社でもっているPCB5500トンを焼却した例です。
しかし、焼却という処理に対して住民の同意が得られず、その後処理は全く行われていません。そこで、住民の理解を得やすくするため、PCBの処理に化学処理法が追加されました。
そして、2001年に北九州市でPCB処理施設の建設が決定しました。住民は化学処理法によるPCB処理を要求しています。しかし、この施設だけで日本全国のPCBを処理できるわけではありません。各地に、処理施設を建設する必要があります。
PCBに関する法律
ここで、日本のPCBに関する法律を紹介します。
1954年から日本ではPCBの生産が始まりました。その後1968年にカネミ油症が発生し、PCBの毒性が世界的に注目されました。世界的にも、禁止の方向に進み、日本では1974年にできた化審法で禁止されました。
その後、先程話したように、処理施設が建設できないことから、PCB廃棄物の保管が増え続け、一部は紛失してきました。
世界的にPCBのようなPOPsを廃絶する動きが高まり、2001年にストックホルム条約が採択されました。条約加盟国は、PCBを2028年までに処理を進めなければなりません。
日本はまだストックホルム条約に締結していません(2002年2月現在)。しかし、近い将来締結すると思われます。そうすれば、PCB処理を進める必要が出てきます。そのため、2001年にPCB特別措置法ができました。
日本におけるPCB問題の経緯
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1929
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米国スワン社(後にモンサント社に合併)生産開始
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1954
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国内生産開始(鐘淵化学工業、1969年に三菱モンサント)
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1968
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カネミ油症事件発生、PCBの毒性が社会問題化 |
1972
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行政指導(通産省)により製造中止、回収などの指示(保管の義務)
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1974
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化学物質の審査及び製造に関する法律制定・施行(製造・輸入・使用の原則禁止)
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1976
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廃棄物処理法の処理基準として高温焼却を規定
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1987〜89
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鐘淵工業高砂工場において液状PCB約5500トンを高温焼却
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1992
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廃棄物処理法により特別管理廃棄物として指定 |
1998
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廃棄物処理法の処理基準に化学分解法等を追加 |
2000
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新たな化学分解法などの追加、ミレニアム・プロジェクトの実施 |
12月 ヨハネスブルグでPOPs条約案が合意 |
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2001
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5月 ストックホルム条約が採択 |
6月 PCB特別措置法成立 |
10月電気事業法改正 |
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保管の報告がスタート
PCB特別措置法によって、PCB廃棄物の保管量、保管状況を届けなくてはならなくなりました。
政府は、パンフレットを作り、関係者にPCBの届け出を呼びかけています。これが環境省、これが東京都、栃木県の作ったパンフレットです。
報告義務は始まったばかりで、まだ知らない事業者もいます。政府はどのように知らせるのか悩んでいます。PCB廃棄物を保管している全ての事業者に、報告させて現状をどれだけ把握できるのかが課題です。
法律の問題点
この法律は、保管に関しては、有効です。しかし、蛍光灯の安定器のような今も使われているPCB機器に関しては、十分にカバーできていません。
PCB機器を使用していて、新しいものと交換した場合、保管量を報告しなければなりません。
しかし、PCB機器を使用中の事業者には届け出の義務がありません。そのため、使っていることを知らない人も多いと考えられます。それらは、通常のゴミと間違えられてPCBを捨てる可能性が大きくなり、問題です。
日本の現状における問題点
ここで、日本のPCBに関する現状の問題点をまとめたいと思います。
現在の使用状況、PCB廃棄物量が把握できていません。そして、処理が進んでいません。PCB処理の必要性が、一般市民に伝わっていません。
そのため、現在も魚や母乳などがPCBによって汚染しています。日本人のダイオキシン類一日摂取量を調査した研究では、ダイオキシンやフランよりも、コプラナPCB汚染の寄与が大きいという報告もあります。
これらの問題を解決に導くために、私たち日本子孫基金の行った活動を報告します。
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