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台湾:ユーチェン事件から24年―台湾のPCB問題の現状
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ユーチェン事件から24年―台湾のPCB問題の現状


黄淑徳
台湾主婦連盟(台北,台湾)

台湾の地理

台湾の面積は約36,000km2で、マレーシアのおよそ9分の1の大きさである。一方、台湾の人口はマレーシアよりも多く、2300万を超える。地球上で最も人口が過密な地域であるうえに、数十年にわたって経済発展が推進されたため、この小さな島と周囲の海の環境は人間活動によって多大な被害を被った。


ユーチェン:米ぬか油事件

1960年代初頭、新聞で日本の米ぬか油製造技術が紹介され始めた。1975年からは、政府機関(Food Industry Research and Development Institute)により、米ぬか油が新しい健康的な料理油として推奨され始めた。1979年の10月、TaichungとChanghuaの周辺で広まった謎の病が、PCBに汚染された米ぬか油と関係していることが確認された。公式な統計に基づくと、この大量汚染事件により中部台湾の2061人が被害にあった。

Hui-Mingという名の盲目の子どものための寄宿学校が、この謎の病(塩素挫瘡)を報告した最初の機関であった。この学校では生徒、教員、職員の計167人がこの病に冒されていた。1968年の日本のカネミ油症事件と同種類の油精製機が、ユーチェン事件でも原因であると同定された。油の製造販売会社が、裁判所が最終的な判決を下す前に財産を他へ移転したために、被害者には何の補償も支払われなかった。その後数十年にわたる追跡調査によって、被害者とその子どもの健康への悪影響が確認されている。政府は被害者の医療ケアを十全に行うことを約束した。それまでの年月、ユーチェン被害者は、ダメージを受けた免疫機能や内分泌機能の医療的ケアを受けようとするたびに、保険機関から無視され、烙印を押されていると感じて過ごしていた。

日本の九州の油症被害者がユーチェンの被害者を訪ねたことが1980年代に数回ある。民間運動やジャーナリズムはユーチェン事件に触発され、1980年に台湾で初の消費者連盟の設立につながった。


ユーチェンの子供たち

胎児としてPCBに暴露した39名のうち、9名が誕生時または誕生前後に死亡した。PCBに暴露した母親の子どもたちは、PCBの奇形影響の研究のコーホート集団として扱われた。肌が黒ずんでいるためにコーラベビーズと呼ばれたこの子ども達は、発達の遅れを持って出生し、IQテストの数値も低く、頭や顔、生殖器官が黒ずんでいて、ペニスが短い[1]。
6、7歳の時点で調査したところ、母親の暴露から6年も後に生まれた子どもでも、2年以内に生まれた子どもと同じくらいに悪影響を受けていた。子どもへの悪影響は7歳まで残ることが認められ、母親の暴露から長年経った後に生まれた子どもにも影響がみられた。科学者によって、PCBの強い毒性と世代間に伝達する影響は、ジベンゾフランやクォーターフェニルなどの、熱変化によってPCBから生成する物質に製品に主に起因するものだとされた[2]。


顔の黒ずみ

塩素座瘡

PCBの禁止

政府は、PCB問題を解決するために、必要なステップを段階的に踏んで規制を設けてきた。PCBは全て輸入されていた。1972年には既に、PCBは管理の必要な輸入化学製品として工業発展省(the Bureau of Industrial Development)によって指定されていたが、ユーチェン事件を受けて、1980年には輸入が停止され、食品加工の過程での使用も禁止された。

1980年、PCBの輸入が停止され、食品製造過程での使用も禁止された。台湾環境保護局(台湾EPA)が1987年に公式に設立された。1986年に、有害化学物質管理法(Toxic Chemical Substances Control Act)が公布、発効された。1988年の6月22日には台湾EPAが、PCBをこの法律のもとで統制されるべき物質として指定された。PCBは、1種および2種の統制が必要な毒性化学物質として、指定リストの一番最初に記載されている。これを受けて、製造、輸入、販売、使用が禁止された。

PCBは、主に1980年5月以前に製造されたトランスや安定器に含まれる。これらの製品は20年以上にわたって使用され続けているために、漏れて環境を汚染するかもしれないという持続的な危険性を呈している。PCBの管理を改善するために、1995年の5月26日にEPAは、実験、研究、教育の分野を除いて、全てのPCB使用が2000年の12月31日をもって廃止されるよう命令を下した。EPAはさらに、使用中でない全てのPCB含有トランスおよび安定器について、直ちに撤去し、有害な廃棄物として報告し、廃棄物処理法(Waste Disposal Act)に従って適切に廃棄されるよう、勧告した。しかし、EPAは1980年6月から1982年12月の間に製造されたトランスと安定器については、未だに使用されており、また、耐用年数が終わるまで使用されるであろうために、検査することができないことに注意を促している。


PCBの工業汚染と回復事業

台湾において、有害化学物質の管理は有害化学物質管理法の発効をもって開始した。台湾EPAはこれらの物質が持つ危険性に対応するために、既に252種類の有害化学物質をリストしている。

台湾EPAの推計によると、台湾は2000年の1年間で193万トンの有害廃棄物を排出している。処理できる廃棄物の量は1年間に約93万トンであるので、残りの廃棄物は島のあちこちに不法投棄されていることになる。EPAの統計によると、少なくとも175の工業廃棄物の廃棄場が同定されている[3]。

PCB関連の有害廃棄物の廃棄場もいくつか同定されており、回復事業が進められている。例えば、Erjen River やTa Fa Industrial Parkなどがそうである。Erjen Riverは台湾の南西に位置する川である。1980年代初頭から、高濃度のPCB、PCDD、およびフラン類が、魚のサンプルと底質から検出されている。野外でのケーブルの焼却が盛んだった頃には、Erjen River流域のWanli地域では、流産、死産、異常出産が非常に高率にみられ、無脳症は特に多かった。魚のサンプルから高濃度のフランとダイオキシンが検出されたとき、政府は金属スクラップの輸入を禁止し、金属加工(精製)業をKaohsiung市近郊のTa Fa Industrial Parkに段階的に移転させた。この川は、流域において70‐90年代に金属スクラップの加工や野外でのケーブル焼却が盛んであったことから、台湾で最も汚染された川のひとつであると考えられている[4]。現在では、船の解体や金属スクラップの再生加工業は中国や他のアジア地域に移転している。

Erjen Riverは、長い間、金属スクラップの精製によって汚染されてきた。そして、このような金属加工業者のほとんどは、現在でも、違法な機器を使用したり、認可されていない建物で操業したりしている。このような施設からの汚染はKaohsiung郡、Tainan市、Tainann郡に広がった。この20年間、この3つの地域の行政は何度も協同で調査チームを組んだが、これらの違法業者は操業を地下に移してしまい、試みは失敗に終わっている。

2000年に台湾EPAは、Kaoping、Erhjen、Chiangchunの3つの川の浄化を最優先課題に定め、2001年の予算として、2億3千万台湾元を確保した。2001年9月、EPAは、金属精製業の違法操業によって汚染されたErjen Riverを浄化するための特別チームを編成し、EPAが現在取り組んでいる仕事のなかでも特にErjen Riverの浄化を推進する姿勢を見せた。およそ60の金属精製業者がErjen River流域に存在し、そのほとんどは違法であるが、これらについては川の土手から撤去されるべきである。

Erhjen川
Wanli村


Erhjen川周辺の金属精製業

残留PCBの監視

生態系を通じて川魚に凝縮したPCBsについての研究から、台湾の南部が北部よりも汚染されていることが明らかになった。これは先程述べたような工業活動と相関している。また、川魚に蓄積したPCBsが減少しつつあるという現象もみられる[6]。近年では、人間の胎盤と母乳に含まれるPCBsの研究もなされている[7]。このような研究は、台湾の人々に蓄積されたPCBsの基礎データを構築する先駆けとなろう。海洋哺乳類の調査からは、台湾沿海の海洋哺乳類に凝縮したPCBsの値およびTEQsは、フィリピン、カナダのブリティッシュコロンビア州、アメリカのフロリダ州などと同程度であった[8]。


食品としては危険な魚類

2000年12月5日、台湾南部の主要な3つの河川で捕獲された魚類が高濃度のPCBsを含むことを明らかにした台湾EPAの調査結果が、ヘッドラインニュースとして報道された。民衆は、Erhjen川、Tonkang川、Kaoping川で獲れた魚類の内臓を食べないように忠告された。この調査結果は、環境団体が長年抱いていた疑惑を裏付けるものであった。なぜなら、たくさんの養豚場や工場、金属精製プラントの廃棄場が、パイプを通じて河川に廃棄物を垂れ流していたのである。

再び2000年12月23日に、今度は食用としては危険な海産物がヘッドラインニュースになった。Hsinchu地域の市場で購入した30種類の魚類を分析したところ、14種類から、台湾ではかなり以前に廃止された有機塩素系農薬が検出されたのである。また、13%の魚類サンプルに、安全基準を超える残留化学物質を含んでいた。また、別の水質検査事業では、45.8%の河川からノニフェノールが検出され、北部の河川が最も汚染されていることもわかった。


新たな脅威


1986年、Yuanの行政府は、廃棄物処理について「第一に焼却、第二に埋め立て」という原則を採用した。台湾EPAによると、2010年には台湾全土で36の廃熱利用の可能な大規模廃棄物焼却施設ができあがっている予定である。台湾EPAは「1つの市または郡ごとに1つのゴミ焼却施設」と宣言している。
台湾EPAが建設資金を提供している21の焼却施設のうち、18は既に建設され、稼動している。残りの3つの施設は、建設中またはこれから建設されるところである。他に、建設と操業において私企業による投資が導入されている焼却施設が11ある。現在、台湾全域で、19の大規模焼却施設が操業している。このような新規の地域焼却施設の稼動は、この島と住民にとって新たな脅威となっている。私たちは、今後数年で台湾は、日本を越えて、世界で最もダイオキシンに汚染された国になるのではないかと恐れている。


結論

台湾国民は、大規模な中毒事件を通じて、ポリ塩化ビフェニールという化学物質の恐ろしさを学んだ。PCBの使用禁止によって、台湾の残留PCBが減少していることを示す証拠はあるが、民衆はPCBの内分泌かく乱性について再び懸念を強めている。私たちは今では、口に入れるもの、特に魚介類について、常に難しい選択に直面している。私たちは、ユーチェン事件のような事件が、あなたがたの国では起こらないことを心から願っている。回復より予防が重要、全ての面で予防的注意を払うことが必要である。

参考文献:

  1. Chen YC, Guo YL, Hsu CC, Rogan WJ. (1992) Cognitive development of Yucheng ("oil disease") children prenatally exposed to heat-degraded PCBs.
    JAMA. 268(22):3213-8.
  2. Guo YL (2000) Health effects associated with perinatal exposure to environmental hormones:the polyhalogenated aromatic hydrocarbons. In the First Environmental Hormones Conference, Taipei, Taiwan.
  3. Hsing HJ, Wang FK, Chang CD. Hazardous waste importation, exportation, and control strategies of Taiwan. China Technical Consultant Inc.
  4. Ling YC, Soong DK, Lee MK. (1995) PCDD/DFS and coplanar PCBs in the sediments and fish samples from the Erhjen river in Taiwan. Chemosphere 31: 2863-2872.
  5. Huang JH. (1997) Industrial waste treatment in Taiwan. Industrial Development Bureau, Ministry of Economic Affairs, Taiwan.

  6. Chao HR, Wang SL, Yu ST, Yu HY, Lin LY. (2002) 2,3,7,8-substitued PCDD/F levels and its related factors in Taiwanese primipara human milk. In The 2nd Environmental Hormones Conference (Taipai, Taiwan): 58-63.

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