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マレーシア:マレーシアにおけるPCBsの現状

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マレーシアにおけるPCBsの現状

ハティージャ・ハシム
研究員
ペナン消費者協会


はじめに

PCBs(ポリ塩素化ビフェニル)は、200以上の物質で構成されています。これらの工業的に作られた物質は、難燃性、高い安定性のような、多くの理想的な性質を持っています。また、電気を通さず(絶縁性)、常温で低揮発性でもあります。

このような性質またはその他の性質のために、産業用や家庭製品の広い範囲で使われました。またこのような性質は、PCBを環境中の負荷物質にしました。なぜなら、化学的に、そして自然界における生物分解に対して強い抵抗性を持っているからです。安定性のため、PCBは、生物濃縮を起こす高い可能性を持ち、湖や川のような水圏環境でも蓄積していきます。

PCBは、1930年に工業的に生産されました。PCBが環境中に存在していることが、1966年に発見されました。1972年には、科学的な証拠によって、環境や人の健康を深刻に脅かす可能性が示唆されています。1980年代半ばには、PCBの生産はなくなりました。当時、100万トン以上が世界中で生産されたと見積もられており、その多くは、今日も未だに使用されていると考えられています。

しかしながら、マレーシアでPCBの輸入が禁止されたのは、1998年6月のことです。税関法(1967年)に、税関(輸入の禁止)に関する第1次計画指令(The First Schedule of the Customs (Prohibition of Imports) Order 1998 of the Customs Act 1967)が下され、発効されたことを受けてでした。

それゆえ、1998年6月以前に製造され、輸入された製品には、PCBが含まれているかもしれません。これに関する調査が行われたことはないので、1998年以前に輸入されたPCBは、今でもいくつかの産業で使われていると思われます。

国内でPCBに関する事故は報告されていませんが、マレーシアの環境中に存在していることは、報告されています。


PCBの使用

優れた熱安定性、難燃性を持つPCBは、引火の危険性または温度変化が激しいことが問題となる状況で使用する機器に使われました。一方、優れた絶縁性を示すことは、トランス、コンデンサー、開閉装置のような電気機器に使用するには、特に魅力的でした。そのような使用は、閉鎖系の機器(closed applications)として知られています。その他には、油圧オイルや熱媒体が挙げられます。開放形の使用では、ノンカーボン紙、接着剤、木材処理に使われるペンタクロロフェノールの混合物、塗料、ワニスなどへの使用が挙げられます。これらは、開放形の機器(open-ended applications)として知られています。

工業的に多くのPCB機器が作られましたが、PCBを含んだ機器と製品は、通常のゴミとして廃棄されているかもしれません。なぜなら、マレーシアでは、電気機器またはPCBを含む可能性のある製品といった有害な家庭廃棄物の廃棄に関して、あまり注目されてこなかったからです。


マレーシア環境中に存在するPCB

1985年のペナン島周辺の海岸から採取した貝類の調査では、400〜600ppbのPCBが含まれていました。検出したPCBの量は、食品医薬品局(FDA)の設定した許容値300ppbを超えていました。

1992年に行われたマレー半島の25の河川の調査では、産業や人口が過密した所を流れる川で、より高濃度のPCBが検出されています。検出されたPCB量は、2.1〜0.9mg/Lの範囲でした。これは、マレーシア政府が定めた排水中のPCB暫定基準値(0.044mg/L)を超えていました。

1998年と1999年に行われたマレーシア沿岸から採取したムラサキイガイの調査でも、PCBが検出されています。Johor BahruのPasir Putehから採取した試料が一番高濃度でした。一方、人による活動が少ないSabahやLangkawiのような場所では、低濃度でした。


**ムラサキイガイ調査の結果

Results of tests conducted on Green Mussels

** 愛媛大学農学部環境保全学科 田辺信介博士の研究


どこからPCBは発見されるのか?

国内の汚染源

マレーシアの都市部に住む人は、一日一人あたり約1.5kgのゴミを排出すると見積もられています。これには、PCBが含まれている可能性があります。

マレーシアでは、ゴミ(PCBを含む機器、製品が含まれている可能性を持つ)の廃棄は、ほぼ埋め立て法のみです。マレーシア(マレー半島地域)には、およそ177カ所の廃棄場があります。ほとんどの場合、野積みされており、このようなケースは、埋め立て地全体の約50%を占めます。

埋め立て地での火災発生は、よくあることです。そのようなケースの一つに、1998年1月にHulu Langatの埋め立て地で起こった、メタンガス発生による火事が挙げられます。メタンガスの不適当な放出が、引火につながったと断言されています。

ゴミ集積場でのゴミの燃焼
Fire occurring at dumpsite

私たちは数カ所の廃棄物処分場を見て回りましたが、国内の埋め立て地の多くが適切に管理されていないことが分かりました。廃棄物処分場によっては、野焼きとガスの発生が当たり前になっています。埋め立て地の至る所に、半分焦げたプラスチックが散らばっていました。

管理されていない埋立地
Landfills are not properly maintained

私たちは、溶媒を含んでいる使用済みの容器(指定廃棄物scheduled waste関連の物質)も廃棄物処分場に捨てられているのを見ました。

集積場でみつかった溶媒の空き缶
Used chemical bottle containing solvents thrown at the dumpsite.
集積場に投棄された有毒物質
Toxic materials thrown at the dumpsite.

廃棄物処分場で、牛が草を食べていました。埋め立て地からのガスと煙はダイオキシンやPCBの汚染源となっていることが、よく報告されています。汚染物質が先程の牛のような動物に蓄積し、食物連鎖に入り込んでいるかもしれません。

集積場で採餌する家畜
Cattle seen grazing on the dumpsite

マレーシアでは、機械や家庭用電気製品からスクラップ金属が回収されています。加工した鉄、銅・真鍮、鉛のような金属は、分離され、他の産業で使われたり、輸出されています。これら機器は、金属部品が取り除かれ、その他の部分は通常のゴミとして捨てられているのです。

一般廃棄物として捨てられた金属製品・電化製品
Metal components and electrical products and wastes thrown into the regular garbage.

産業由来のPCB汚染源

三種類の産業つまり、電子・電機産業、繊維・アパレル、食品・飲料産業が、製造業を占めています。電子・電気機器関連の工場のほとんどは、半導体、コンピューター、周辺装置を製造しており、そして、加工金属部門では、ジグや固定具、金属部品のプレス加工、鉄の金型、ワイヤー硬化、ボルト、ナット、スクリューなどを製造しています。

マレーシアは、受動部品の主な輸出国であり、1999年の輸出総額は、RM27億(7億1000万米ドル)です。

170以上の企業が、コンデンサー、抵抗器、誘導子、蓄電器、石英、発振器を含む製品と関係しています。コンデンサーと抵抗器の輸出額は、おのおのRM15億(3億9500万米ドル)、RM6億(1億5800万米ドル)に昇ります。

急速な産業の発展に伴って、危険であるものとないもの両方の大量の廃棄物がうまれ、適切な処理と環境中への廃棄が必要となってきました。この問題を抑えるための手段として取られているものには、有害な化学物質の暴露から環境とヒトの健康を守るための法律の立法化が挙げられます。

一般に、産業廃棄物は、指定廃棄物(scheduled waste)として分類されています。


PCBに関する法律

マレーシアにおける指定廃棄物に関する行政は、環境庁(the Department of Environment: DOE)の権限にあたります。1989年の環境の質(指定廃棄物)に関する規制(the Environmental Quality (Scheduled Waste) Regulation 1989)では、107のカテゴリーの有害な廃棄物が“指定廃棄物(scheduled waste)”に定義され、PCBsもそのうちの一つです。

指定廃棄物は、1989年の環境の質(指定廃棄物)に関する規制(the Environmental Quality (Scheduled Waste) Regulations 1989)によって、第一の指定に定義されたのは、基本的に産業で発生する有害廃棄物です。指定廃棄物の製造、取り扱い、輸送、処理、保管、廃棄は、以下の3つの法律で定められています。

  • The Environmental Quality (Scheduled Waste ) Regulation 1989.
    環境の質(指定廃棄物)に関する規制(1989年)
  • The Environmental Quality (Prescribed Premises) (Scheduled Waste Treatment
    and Disposal Facilities ) Regulation 1989.
    環境の質(既述事項規定)(指定廃棄物の処理と廃棄施設)に関する規制(1989年)
  • The Environmental Quality (Prescribed Premises) (Scheduled Waste Treatment
    and Disposal Facilities ) Order 1989.
    環境の質(既述事項規定)(指定廃棄物の処理と廃棄施設)に関する指令(1989年)

これらの規制により、保管、輸送、廃棄が認可された方法で行われ、施設も環境庁によって許可が下りていなければならないとされています。

規定された法律では、有害廃棄物は指定廃棄物として分類されます。しかしながら、指定廃棄物の定義は精密ではなく、3種類の大きなグループに定義されているのみです。

  • 製造過程での副産物
  • 廃水処理によってできた汚泥
  • 使用期限の過ぎた毒物

法律は、指定廃棄物には適用されていますが、現在の定義に、バッテリー、蛍光灯、塗料、化学物質(農薬)のような有害な家庭からのゴミに関しては、適用されていません。有害な廃棄物は、有害ではない一般ゴミの中に混ざっているかもしれないのです。

1995年から1999年の間に、1年間に平均431,000トンの指定廃棄物が、排出されました。これらは、主に、金属加工の仕上げ、電子機器、織物、化学または化学関連の産業、農業、病院からの医療廃棄物からのものです。


PCBは時限爆弾

現在、PCBを含む使用済み機器の保管や、使用中のPCB機器の場所と数に関する、公式なデータはありません。

国立の発電所(TENAGA NATIONAL Berhad)によると、1970年以前に製造されたコンデンサーには、絶縁油としてPCBが含まれていました。これらコンデンサーの大部分は、英国に送られ、1989年から90年に、無害化処理されました。当時、マレーシアには、国内に無害化処理施設がなかったのです。

しかしながら、無害化処理プロセスは、英国の環境グループによる強い反対に遭い、続きませんでした。

その後、30のコンデンサー、重さにして1200kgが、Kualiti Alam Sdn Bhdという企業により運営されている集中廃棄物管理センターで処分・廃棄されるのを、Perak州のPrahという場所で、待ち続けています。


PCBの処理方法

有害廃棄物の場合、1997年に、合同のベンチャーによる処理システム(Kualiti Alam Sdn Bhd)に処理が委託されました。そこでは、環境の質に関する法(the Environmental Quality Act )で定められている107種類の指定廃棄物(PCBも含む)の処理と廃棄に、デンマークの技術が使われています。しかしながら、この施設で処理されているのは、地方の産業で一年間に生成される有害な産業廃棄物80万トンのうち僅かな量のみです。

環境庁の発表によると、1998年から、計5.28トンのPCBがKualiti Alam Sdn Bhdで処分されました。

Kualiti Alam Sdn Bhdの焼却施設は、ロータリーキルン方式で、二次燃焼室やガス浄化システムが備え付けられています。この施設は、気体での分解を維持するために高温で操作され、PCBの99.999%まで分解できると言われています。PCB廃棄物を含むドラム缶は、この方法で焼却されるでしょう。

焼却後の灰は、不浸透性の層で覆われた埋め立て地に廃棄されます。埋め立て地がいっぱいになった後は、雨水から保護し、浸透を最小限にするために、低密度ポリエチレンシートを被せます。


結論

現在、マレーシアの法制度は、産業由来のPCBを規制するのみです。1998年以前に製造された家庭製品に含まれるPCBや、埋め立て地に廃棄されたものを廃絶する努力が足りないと言えます。

そのため、有害な家庭廃棄物の無節操な廃棄の問題に取り組み、解決するために、政府と消費者両方がいますぐに努力を始めなければいけません。


提案

私たちは、次のことを提案します。

  • 指定廃棄物の法的な定義をPCBの処理と廃棄に広げる
  • 安全に廃棄するために、未処理または加工した状態のPCBについて、保管のインベントリー(目録)作成に取りかかる
  • PCBが、埋め立て地または開放系の野積み場所に投棄されないことを確実にするため、環境法を厳しく施行する
  • 産業と家庭からの廃棄物を分離することを命じた法律を導入する

この原稿は、2003年2月24日、ペナンのサンウェイホテルで開催された「国際シンポジウムSTOP PCB汚染」(共催:ペナン消費者の会と日本子孫基金)で発表しました。


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