「低炭素社会」のまやかし

(月刊『食品と暮らしの安全』2010年12月号No260掲載)


「低炭素社会」とは原発を推進する高ウラン社会であると、
CO2 問題を原発推進派に利用してきた経緯を、
室田武 同志社大学経済学部教授が明らかにしました。


 ここ数年、日本では「低炭素社会」「低炭素経済」という言葉が、マスコミや種々の学会で頻繁に飛び交かい、 その実現が素晴らしい国家目標のように受け止められています。
 なぜ CO2 排出削減が必要かといえば、大気中の CO2 濃度上昇が地球温暖化の原因となり、温暖化は人類の生存にとって “不都合”だからと言われています。
 また、新聞、テレビなどマスコミによるIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の報道に接していると、CO2 が温暖化の原因であると、世界中の科学者が認めているように思えてきます。
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● 科学者の合意ではない IPCC
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 確かに、IPCC が報告書をまとめるに当たっては、科学者も多数参加していますが、この組織は、その名前の通り「政府間パネル」であって、 世界気象機構(WMO)と国連環境計画(UNEP)が共同で 1997 年に設立した、各国政府の意見をまとめる国際機関です。
 IPCC は 1990 年に第 1 次評価報告書、以来1995 年、2001 年、2007 年と報告書をまとめていますが、年を追うごとに温室効果ガス、 主として CO2 が温暖化の主要な要因という主張を強めています。
 2007年に承認された最新の「第4次報告書」では、いまや温暖化防止のための行動あるのみ、といった論調を展開し、温暖化緩和の一つに原子力発電があるとしています。
 この「第4次報告書」の執筆には、2000 人の科学者が参加。コア執筆陣のリストを見ると、日本人として参加しているのは、 大気物理学者松野太郎氏と電力中央研究所の杉山大志氏です。
「電力中央研究所」とは、電気事業の持続のために設立された財団法人で、原発推進の研究を行っている研究所です。  日本を代表して参加している「科学者」は、このような立場の人なのです。
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●原発推進にCO2 問題を利用
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 私は、声高に言われる「低炭素社会」に違和感を持っていました。
 CO2 温暖化が言われるとき、その根拠として挙げられるのが大気中 CO2 濃度の測定値のグラフで、 アメリカの科学者チャールズ・デービッド・キーリングが、1958 年からハワイや南極で長期にわたって観測したデータです。

 では、キーリング本人は CO2 濃度の増加をどのように考えていたのでしょうか。
 1998 年に書かれた自伝を手に入れ、読んでみました。その自伝は、英文 58 ページと短いものですが、生い立ちから研究の苦労話まで盛り込まれ濃密な読み物です。  特に、CO2 の測定値を発表した 1976 年から 1977 年にかけての出来事に、非常に興味深い記述がありました。
 彼のデータを、CO2 専門家以外で真っ先に注目したのが、当時、アメリカのエネルギー研究開発局傘下のオークリッジ国立研究所のアルビン・ワインバーグ所長でした。
 ワインバーグは、大学を出るとすぐに、原爆を開発・製造したマンハッタン計画の一部を担うシカゴ大学冶金研究所に勤務。 戦後は、航空用原子炉など様々な原子炉の研究開発を主導し、軽水炉の実用化に貢献した人物です。
 自伝で、キーリングは、当時、原子力の発電への応用を危惧する科学者たちの声が高かったことにふれ、 そのような時期に、ワインバーグが CO2 濃度上昇に注目したと記述。
 そして、温暖化による被害に比べれば、原子力の副次的影響など取るに足らない、というのがワインバーグの見解で、 CO2 問題を強調することによって原発を推進しようとする意図を隠さなかったと、キーリングは述べています。
 自伝によって、CO2 問題は、最初から原発推進の論拠として政治的に利用されたことが明らかにされていました。

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● 化石燃料の燃焼が原因ではない
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 しかし、キーリング自身は、自らの測定結果の解釈として、化石燃料の燃焼による CO2が温暖化の原因ではないと考えていました。
 自伝には、「すでに私が説明したように、1972 年までのこれらのデータは、次のことの証拠と見るのに十分に長い期間のものである。 その証拠とは、CO2 の 10 年単位の変動は化石燃料の排出によっては説明できないような変動であった、ということである」と、記しています。
 キーリングは気候変動の要因を、CO2 と光合成量の関係、太陽黒点と気温との関係、 潮汐力(ちょうせきりょく) による深層海水と浅層海水の混合が気温に及ぼす影響など、幅広く考察していたのです。
 地球の平均気温を左右する要因が CO2 であると断定する IPCC に対し、それは主因ではないとする見解が、世界のあちこちで登場しています。

 日本では、槌田敦氏と近藤邦明氏がキーリングのデータを精査して、気温上昇が CO2 濃度上昇に先行すると、CO2 温暖化説を徹底的に批判しています(本誌 245 号に紹介)。
 20世紀の地球がおおむね温暖化傾向にあったことは世界の科学界のほぼ共通の認識ですが、21 世紀のこれからも温暖化が続くかどうかは、いろいろな意見があります。
 しかし、共通しているのは太陽活動に注目している点です。
 太陽活動などによって2012〜2015年ごろから寒冷化を迎えると指摘する学説もあります。
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● 「低炭素社会」ではなく原発廃炉へ
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 低炭素社会構想は、化石燃料の大量消費が世界規模で環境破壊をもたらしている以上、
その削減につながり、悪いものではない、積極的に推進すべきという考え方もあります。
 しかし、「低炭素社会」の構想自体が、そもそも原発推進のためだったことが明らかになりました。 政権が変わっても、政府は、原発増設による「低炭素社会づくり」の方針を推進しようとしています。
  その一方で、1970年以降に運転開始した古い原発が次々に廃炉になる時代となっています。
 原発による「CO2削減」に固執するなら、新規建設が困難な現状では、既存の古い原発の延命や、設備利用率の上昇を目指すしかありません。 そのことは、すなわち無理な運転の続行で、事故が起きる確率が高くなることです。
 日本が地震国であることも忘れてはなりません。「低炭素社会」ではなく、いまこそ「脱原発」の「省資源社会」を目指すべきなのです。
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月刊『食品と暮らしの安全』2010年12月号No260

※本稿は、11月7日「田中正造大学2010年秋季定期講座」でのご講演を本誌用に編集したものです。

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