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日本のエネルギー利用を考える

月刊誌記事から>原発推進に戻るのかⅠ(2013年1月号No286)


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衆議院選挙が終わり、原発推進を明言した自民党が大勝。
日本は再び、原発推進の道に戻るのでしょうか。
そういうことにはならないというのが、私の結論です。

今井 伸(元毎日新聞論説委員)


日本は今、3・11後の新しいエネルギー利用のあり方を模索しています。
ただ、「脱原発」か「原発推進」かという点にのみ関心が集まり過ぎ、
海外で起きているエネルギー利用の大変化に気づいていないように見えます。
我々は、今、世界で、何が起きているのかを知り、その上で、日本のエネルギー利用を考える必要があります。

どうなる?自民党政権


 まず、日本の政治の動きです。
 世論調査では、現在でも「脱原発」が多数派です。 ということは、選挙では経済と領土問題が争点になり、
3年間の民主党の情けなさに、選挙民が腹を立てたのです。
 自民党は第1党になりましたが、選挙前と同様、公明党と連合政権を作るでしょう。
公明党は、長期的には原発依存度を低下させるべきだと言っていました。
 安倍晋三・自民党総裁は選挙中に主張したことを実行するのは難しいでしょう。

彼が主張したのは、次の2点です。
① 景気浮揚のため公共工事をどんどん復活する。建設国債を増やして日銀に全部買わせれば金はいくらでも出てくる。
②尖閣は武力で守る。日米安保を強化し、武力行使しやすいように憲法を変える――。

 経済問題を40年間取材してきた私に言わせれば、①は危険な考えです。
そんなことをすれば、日本はギリシア化の道をまっしぐらです。
公共工事を増やしても、日本の景気が良くならないことは、過去20年の歴史が証明しています。 財政赤字が増え、消費税は10%どころか20%にしないと足りません。
 輸出を増やすために円安にすると言っていますが、円安になったら、
日本は必要なエネルギーも食糧も輸入できなくなります。日銀も財務省も本音は反対です。
 そして②の尖閣への対応です。このままいけば、何らかの武力衝突が起きます。 ようやく収まりかけた中国の日本商品不買運動が再燃し、日本経済は打撃を受けます。
 8月15日に“安倍総理”が靖国神社を参拝することにでもなれば、日中関係は修復不能なほど悪化するでしょう。
 今回の選挙の低い投票率と、自民党への政党支持率の低さは、国民が自民党を信用していないことの証拠です。
 こういう中で、安倍総裁が主張を変えて求心力を失うとか、辞任に追い込まれる事態も予想されます。 福田、安倍、麻生、鳩山、菅、野田と続いた短期政権が繰り返される可能性があります。
 そうなると、自民党は“タカ派”的な政策を修正せざるをえません。 自民党の原発政策は、現在の民主党の政策「2030年代に原発稼動がゼロになるよう、 今からあらゆる政策・資源を投入する」との折衷案みたいなものになるでしょう。
 自民党は選挙に勝ちましたが、公約通りの政策を進められるわけではありません。

原発からの上手な撤退を


 渡辺喜美氏の「みんなの党」が面白いことを言っています。同党は、いわゆる進歩派でも、民意を重視する政党でもなく、 小さな政府と市場原理を標榜する保守派です。みんなの党の考え方は、次のようなものです。

 「原発はもともと割高で、リスクが高く、民間ビジネスとしては成立しない。 アメリカでは今、天然ガス火力発電をやろうという発電会社はあるが、原子力をやろうという発電会社はない。 日本も小さい政府にして、エネルギー市場を自由化して民間に任せれば、原発は存在できない。 そうすれば、電気料金は安くなり、政府の負担は減り、日本経済は強くなる」

 私は、みんなの党を支持しているわけではありませんが、原発がこれからたどるコースは、みんなの党が言っている方向に近づいていくと思います。
 選挙のさなか、敦賀原発の直下の断層は活断層であることが認められ、同原発は廃炉の可能性が高まりました。 地震と津波に対応できない原発は、今後、同じ運命をたどります。
 日本では、新規の原発建設はできないでしょう。福島原発事故を経験した後、原発を誘致したり建設を認めたりする地域はありません。 原発稼働期間40年の原則が守られれば、現実として、日本の原発はいずれ1つも動かなくなります。
 かつて、アメリカがイラクに戦争を仕掛けました。 思ったような結果が得られないので、戦争を終わりにしたいと考え、戦争からの「出口戦略」を実行しました。
 今、日本は、原発からの出口戦略の最中です。福島原発事故までは、日本のエネルギー戦略の柱は、電力の50%超を原発でまかなう、というものでした。 2012年の年末は、54基あった原発のうち稼働しているのは2基です。こういう、本当に危ういエネルギー戦略から撤退しようとしているわけです。 出口戦略とは、撤退戦です。
 日本の戦国時代、有名な武将は、勝ったり負けたりしていました。最終勝者の徳川家康も負け戦を経験しています。 撤退戦の秘訣は、一番危険な「しんがり」(最後尾)の戦い方・逃げ方だと言われます。 「しんがり」が頑張っているうちに、本隊が安全な所に逃げ、再起を図ればいいのです。
 我々の最終目標は、世界で最も進んだ、日本の強みを生かした合理的なエネルギー利用を確立することです。 撤退戦の中で、一喜一憂しても仕方ありません。

合理的なエネルギー利用とは


 それでは、我々が目指す、世界で最も進んだ、なおかつ、日本の強みを生かした
合理的なエネルギー利用とは何でしょうか。
 それを考えてみます。
 まず、世界の最新のエネルギー動向を見てみましょう。 日本は自前のエネルギー源がありません。ほとんどを海外から輸入するので、世界の動きが極めて重要です。
 今、世界中で最もホットな動きはシェールガス革命です。 アメリカにジョージ・ミッチェルという気骨のある人がいて、20年近くかけて、シェール(頁岩)という岩盤層から天然ガスを採掘する技術を確立しました。
 そのおかげで、ガスを掘り尽くしそうになっていたアメリカは、突然、あと数百年分の天然ガス資源を持つ「天然ガス大国」に復活しました。
 私は先日、ケネディ大統領の暗殺で有名なダラスにあるシェールガス採掘現場に行ってきました。 小奇麗な住宅団地の隣に、トレーラーが十数台集まって、ガス井を掘っていました。 深さ1000mまでまっすぐ掘り、次に水平方向に掘ります。するとガスは自然に出てきます。 アメリカは国土全体にガスパイプラインが張り巡らせてありますので、近くのパイプにガスを注入すればいいのです。 井戸の掘削は1週間で終わり、その後50〜60年くらい、ガスは出続けます。なんともうらやましい光景でした。
 カナダも含め、北米には、日本の面積に匹敵するようなシェール層があちこちにあります。 そのおかげで、かつて7ドルくらいしていたアメリカのガス価格は、2ドルまで下がりました。 オバマ大統領は、最初の選挙で、風力と太陽光の再生可能エネルギーの普及で、雇用創出と経済成長を実現すると約束しましたが、うまく行きませんでした。
 2回目の選挙では、シェールガスを使って産業を再生し、雇用を創出するという戦略に変え、当選しました。 シェールガスがオバマ再選を後押ししたのです。
 アメリカの鉄鋼、化学、自動車など基幹産業は、日本や中国の攻勢で、壊滅寸前まで追い込まれていましたが、 これからは、無尽蔵で安価なシェールガスを徹底的に活用することで、再構築しようと動き始めました。 もちろん、発電もガスでやります。原子力が入る余地はありません。
 また、今後は中東から石油やガスを輸入する必要もなくなりますので、犠牲の多い武力介入をする必要もなくなり、フリーハンドを得ました。
 シェールガス革命は、産業や生活や経済だけでなく、世界の構造を変え始めたのです。
 シェールガスは、中国にもたくさんあります。しかし、日本にはありません。 「日本でも発見」という報道が時々ありますが、数日分で使ってしまう程度の量です。 アメリカとカナダの量を合計したよりも多いシェールガスがある中国とは比べものになりません。


月刊誌『食品と暮らしの安全』2013年1月1日発行 No.286記事

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